ばにたす続

ばにたす続


 ……視界が明るくなる。


「……あ、あれ? 私は……?」


目を開く。

どうやら、何処かのベッドに寝かされているようだ。

……この天井は、きっと医務室の……。

……体を動かそうとすると、全身が痛んで動けない。

その痛みがあれが夢で無かったことを示すが……。


「どうして、生きているんだ?」


先生のために、必死で体を張って戦って、その後は……。


「……!! ぉ、えっ……!!」


嫌な想像が頭を埋め尽くす。

私を助けに来てくれた、先生。

あの銃声からして、生きてはいないだろう。

……私が殺した。

私が助けて欲しい、なんて願ったから。

vanitas vanitatum, et omnia vanitas.

もっと早く、この言葉を受け入れていれば、こんなことには……。


「……!! アズサちゃん!! 目を……!」


そんな暗い想像を引き剥がすかのように、明るい声が降り注ぐ。


「ヒ……フミ……? せん、せいは……?」


涙ながらに駆け寄ってくるヒフミは、大きなクマを作ったひどい顔をしていた。

きっと、私が心配かけたからだろう。

だけど、そんなヒフミを慮る言葉をかけることはできなかった。

今はただ、先生の安否だけが心配で、心配で……。


「あ、先生は……その……」


少し迷ったような表情のヒフミ。

……やっぱり。

私が、あんなことを言ったから。

喉の奥に、熱いものが込み上げてくる。


「あ、アズサちゃん? 先生は、そこのベッドで、その……」


「……え?」


ヒフミに指差された方を見ると、先生が寝かされていた。

……否、これは……ただ、眠っていた。

ぽっかりと大口を開けて……。


「……あ、れ?」


「先生、アズサちゃんに付きっきりだったから……。座ったまま寝てたんで、私がさっき運んだんです……」


「……そ、うか……。良かった……良かったぁ……!!」


それを見た途端、溢れ出す大粒の涙。

これはきっと、心からの安心から来るもので。

ヒフミに優しく抱かれながら、私たちは二人でしばらくわんわんと涙を流していた。


……ヒフミが、補習授業部の皆を呼びに行って。

しばらく経って、冷静になる。

無事で良かった。

それは間違いないけれど。

私は守るべき先生を、傷付けるようなことをしまったんだ。

あんな風に、助けてなんて叫んで……。

危険に、先生を巻き込んでしまっていたのだから。

どう謝ればいいのか、私には分からない。

……いや、例え謝ったとしても、先生は……きっと、当然のことをしたのだとあっさり言ってのけるのだろう。

先生はそう言う人だって、私達は知っているから。

だけど……。


″アズサ、目を覚ましたんだね。良かった。″


「なっ!? せ、先生、いつの間に……!?」


先生にかける第一声を思いつけないまま悩んでいるうちに、当の先生が目を覚ましてしまったらしい。

あわあわと慌てる私に、先生は優しく頭の、怪我がないところを撫でながら……。


″大丈夫。最初から、助けに戻ってくるつもりだったから。アズサは悪くないし、むしろ……助けてって頼られて、嬉しかったよ″


そんな風に、言ってくれた。

……全部お見通しだったらしい。

やっぱり、先生には敵わないな。


「そう、か……。 じゃあ


「!? 病室で二人きり!? エッチなことしてるんでしょ!? ……収監!!」


「あらあら、あれがそう見えますか?」


「見えない、けどっ! 未遂でもエッチだからぁ!!」


「あはは……」


そんなことを考えていた折、賑やかな声が聞こえてくる。

ヒフミ達が来てくれたみたいだ。

……多分、このあとコハルは救護騎士団の人たちに怒られるんだろうな……。

でも、やっぱり私は、こう言う賑やかさが好きだ。

vanitas vanitatum, et omnia vanitas.

だとしても。

私は、補習授業部の皆と、先生と、一緒にいたいと願うことを、やめたくない。

だって。

どんな虚しさも、今この瞬間の幸せを消せはしないのだから。

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