ばにぞん

ばにぞん



……視界が明るくなる。


(……あ、あれ? 私、は?)


……記憶を探る。

確か、私は……先生を逃がそうとして……。

そして、ここはその時倒れ伏した廃墟の中。

誰にも助けられることもなく、私はそこで横たわっていたらしい。


「……ぉ、えっ……!!」


そして、同時に思い出す。

私は助けてなどという言葉を吐いて、先生を危険な目に遭わせてしまったんだ。

意識が途切れる間際に聞いた銃声。

それは、きっと……。


急いで軋む体を叩き起こす。

全身の感覚がない。

痛みがないのは良いことの筈だが、なぜかそれが怖くてたまらない。

でも、今はとにかく先生の安否を確認しなきゃ。

そう思って部屋の入り口の方に目をやると……。


(……!?)


そこには、皆揃っていた。

先生も、ヒフミも、コハルも、ハナコも。

今会いたい人たちが、皆揃って、立ってこちらを見ていた。


(先生、皆、無事だったのか……!)


体の色々なところにガタが来ている。

しかし、私は歓喜と衝動のままに、そんな体を必死に動かして皆の方へ向かう。


……けれど、何かがおかしい。

耳が聞こえないのもそうだが、何より、皆の様子がおかしい。

いつもなら、きっと私の方に駆け寄ってくれるはずの皆。

そんな皆が、悲しそうな顔をしたり、苦しそうな顔をしたりして、ただこちらを見ているだけなのだ。

何か声をかけてくれているのはわかる。

けれど、その意味が何もわからない。


(……どうした? 皆、なんで、そんな顔を……!?)


もう数歩で皆のところに着く。

皆は、先生を庇い立てるように3人でその前に立ち、こちらに銃を向ける。

どうして?

もしかして、私が先生を危険な目に遭わせた、から?

だから、そんなに怒っているのか?


(……!? 待って、確かに私が悪い、けど……。でも、そんな風に……!)


昔ならば、諦めてすぐに去れたのだろう。

しかし、補習授業部での時間は、私を大きく変えてしまった。

もっと皆と一緒にいたい。

また楽しく学びたい。

教わりたいことも、やりたいことも、たくさんある。

だから、許して。

そんな気持ちを込めて、ヒフミの方に腕を伸ばす。


……と、同時に、ハナコが何かを言う。

先生が、大粒の涙を流しながら、何かを叫ぶ。

まさにその瞬間、3人は、私の体を撃ち始めた。


全く痛くはない。

けれど、どうして?と言う気持ちが心を満たす。

どうして、なんで、私を殺すの?

嫌だ、まだ死にたくない、死にたくない。

それに。皆を人殺しにするのも嫌だ。

お願い。やめて。

私は、私は……!!!


足が崩れる、手が崩れる。

痛くなんてない筈なのに、地面に崩れ落ちる私。

どう言うわけか、私の体は今までよりずっと弱くなっているらしい。

さっきの戦いの後遺症だろうか……。


もはや首しか動かせなくなって、皆の方を見ることしかできない。

……額に、何かが押し当てられる。

……これは、ヒフミの銃。

きっと、私を一思いに処分しようと言うのだろう。


大粒の涙が床へと落ちていくのが見える。

どうして、こんなことになったんだ。

わからない、わからないけれど。

今はただ、全てが虚しい。




……私たちがここに着いた時、アズサちゃんは変わり果てた姿でした。

全身から鮮血を垂れ流し、その声はかつての可愛らしいものではなく、ただのうめき声に。

私たちは知ってしまいました。

私たちが知る、アズサちゃんはもう死んでしまったのだと。

……だからせめて、最期は私が、私たちが見送ってあげます。

アズサちゃん、大好きです。

ずっと、ずっと、大好きです。

ですから、あの世では、幸せに過ごしていてください……!


私は、引き金を引いた。

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