端切れ話(はんぶんこ)

端切れ話(はんぶんこ)


いびつでやさしい箱庭編

※リクエストSSです



 スレッタはお母さんに大切にそだてられてきた。

 だから水星きちのみんなが食べられないものも、こうしてひとりじめできている。

 ───スレッタ、お食事にしましょう。

 もぐもぐ、ごはんを食べる。

 パンと、おかずと、きれいなお水。おかずはたくさんしゅるいがあって、たまに一口パスタも入っている。今日はトマト味だ。

 水星きちは食べものが少ない。りょうも少ないし、しゅるいも少ない。キホンはほぞん食だけだ。

 近くでくらしているおじいさんやおばあさんは、エナジーバーを食べていることが多いらしい。

 スレッタも食べることがある。たまに、運動をがんばった時にごほうびとしてもらえるのだ。

 ───たくさん走って疲れたでしょう。じゃん、今日はアップルシナモン味よ。

 もぐもぐ、エナジーバーを食べる。

 おいしくてニコニコしてしまう。けれど、全部のごはんがエナジーバーだとスレッタはきっとこまってしまう。だってやわらかいパンやおかずが食べられない。

 それに、おやつだって食べさせてもらえなくなるかもしれない。

 ───スレッタ、ホットココアとハチミツのキャンディを持ってきたから、休憩しましょう。

 大すきなお母さんが、大すきな飲みものとおかしを持ってきてくれる。今日はエアリアルとのシミュレーターをがんばったから、きっとこれもごほうびだ。

 ごくごく、ホットココアを飲む。はちみつのキャンディを口に入れると、ココアがもっとあまくなった。

 とてもおいしい。しあわせの味だ。

 スレッタは半分くらいココアを飲んで、ふとこの味をエアリアルにもおすそ分けしたくなった。

 コンソールにコツンとカップをくっつけて、しばらくジッとしてみる。

『おいしい?』

 聞くと、エアリアルはモニターをピカピカと光らせて返事をしてくれた。おいしいと言ってくれているみたいだ。

『……よかった』

 スレッタはやさしいエアリアルの言葉にニコリとわらうと、まったく中身のへっていないココアを持ちあげて、のこりをごくごくと飲みほした。




 もぐもぐ。スレッタはパンをたべていた。

 いつもたべてるパンじゃなくて、なんだかすごいパンだ。

 ふわふわで、もちもちで、さくさくで。おかずとパンががったいしている。スーパーなパンだ。

 ───うまいか?スレッタお嬢さん。

 とってもやさしいおじいさんが、にこにこしながらきいてくる。スレッタは『おいしい!』とこたえながら、テーブルのうえにおいてあるパンを見た。

 まだまだいっぱい、おいしそうなパンが山づみになっている。

 あれもたべたい、これもたべたい。はじめて見るパンに目うつりしてしまう。パンたちはみんな、はんぶんこにされていた。


 ふだんのスレッタは、おいしいごはんをひとりじめできている。それはおかあさんが、わざわざスレッタのためにおとりよせをしてくれたからだ。

 でも、ほんとはそれはダメなことらしい。

 おかあさんといっしょに『フネのおみせ』にいったとき、きんじょのおじいさんにおこられたことがある。

 ───このガキにこんなに高価な宇宙食を食わせてるのか。贅沢なことだ。俺たちはこんなしみったれた棒を食ってるってのに。

 いってることがわからなくて、でもなんだかこわくておかあさんにギュっとしがみついていると、おかあさんはスレッタをかばっていいかえしてくれた。

 ───私にとってこの子の体はとても大切なものですから、少しばかりの贅沢もさせますわ。それに贅沢と言うなら、このお酒もそうでしょう?これを我慢すればもっといい宇宙食を購入できますよ。

 おじいさんはチッとお口をならすと、ヨソモノがエラソーに!とぷんぷんおこりながらかえっていった。


 そんなことがあったので、スレッタは見たことがないおいしそうなパンをさいしょはガマンするつもりだった。

 だってここはチキューで、おじいさんとツルツルせいじんのおうちで、スレッタはヨソモノだからだ。

 目のまえのパンは、スレッタのパンじゃない。だからたべていいよといわれるまでガマンしなきゃいけない。

 おじいさんはやさしいので、たぶん1つはもらえるはずだ。ココアだってつくってくれたし、おかわりもくれた。だからもしかして、パンも2つくれるかも…。

 どれをもらえるんだろう。スレッタはパンをジーッと見る。

 あれかな、それかな。それともこれかな?

 どのパンもとってもおいしそうだ。たべたらどんなかんじだろう。

 おじいさんがふわふわのパンを手にもった。あれはたべたらダメなモノ…。

 ツルツルせいじんがもちもちのパンを手にもった。あれもたべたらダメなモノ…。

 のこったパンを見る。どれも見たことないパンなので、どれがいいのかわからない。えらんでいいかもわからない。

 こまったスレッタは、テーブルの上のパンと、おじいさんのもっているパンと、ツルツルせいじんのもっているパンをジッと見た。

 わからないけど、どれもすごくおいしそうだ。ほんとうはぜんぶたべてみたい。でもガマンしなきゃ…。

 するとおじいさんが、もっていたパンを大きくちぎってスレッタにわたしてくれた。

 ───目は口ほどに物を言うってなぁ。他にも食べてみたいものはあるか?なぁに、遠慮するな。腹が膨れるまでいっぱい食べていいからな。

 たべたいとおもっていたパンが、まん中から、ざっくり。はんぶんこにされる。

 スレッタがおどろいていると、ツルツルせいじんがいつのまにかテーブルの上のパンと、つるつるせいじんがもっていたパンと、ゼンブのパンをはんぶんにきっていた。

 ───どんな味か興味があるの?ならこうすればたくさんの種類を食べられるよ。

 いろんなパンを、はんぶんこ。そうすればみんなでたべられる。

 スレッタはすごいことをおしえてもらって、むねがドキドキしてきた。もしかしたら、あのおこっていたおじいさんも、スレッタのごはんをはんぶんこしてあげればニッコリわらってくれたのかもしれない。

 すごい。すごいハッケンだ。

 スレッタは目をキラキラさせながら、はんぶんこされたパンたちをもぐもぐとたべた。




 スレッタのツルツル星人は、りょうりがヘタだ。

 目玉やきを作ればつぶしてしまうし、パンケーキはこがしてしまう。

 クフェおじいさんが教えてくれたミソスープも、よくシッパイしてはしょんぼりしている。

 ためしにスレッタがフライパンをにぎったら、ツルツル星人よりも上手にりょうりをすることができた。

 目玉やきは黄色いお目目がぷるんとしていているし、パンケーキは中までしっかりと火が通っている。ちょっとコゲているのはごアイキョーだ。

「見てー!えらんより上手にできたよ!」

 えっへんとムネをはると、「すごいね」とほめてくれる。ツルツル星人はスレッタのことが大すきなので、たくさんほめてくれるのだ。

 えへへ、とだきつくと、ツルツル星人もだき返してくれた。

「じゃあご飯にしようか」

「うん!」

 クフェおじいさんはお出かけ中なので、家にいるのは2人だけだ。ちょっとさびしいけど、でもツルツル星人がいるのでさびしくない。

 できたりょうりをテーブルにのせる。スレッタと、ツルツル星人のぶんと…。ふんふんとハナウタを歌いながらならべていたら、ツルツル星人にせっかくならべたおサラのいちを直された。あれ、と思って目を丸くする。

「………」

「いただきま……どうしたの?スレッタ・マーキュリー」

 だまっていると、すぐにツルツル星人が声をかけてきた。ツルツル星人はスレッタのことが大すきなので、すぐにイヘンに気づくのだ。

 スレッタはほっぺたをふくらませると、えんりょなくモンクを言った。

「スレッタの食べてほしいー」

「え?」

「せっかく上手にできたのに、どうして食べてくれないの!」

 プンとおこってみせると、ツルツル星人があわてはじめる。ツルツル星人はスレッタのことが大すきなので、すぐにゴキゲンをとろうとするのだ。

 でも今回のツルツル星人は手ごわかった。

「だ、ダメだよ。僕が作ったのは失敗してるし…。体に悪いよ」

「いいの!はんぶんこなの!」

「でも…」

「いいの!」

 スレッタは目玉やきとパンケーキを半分に切ると、ツルツル星人のおさらにぺしゃっとのせた。

 そしてツルツル星人の料理も半分に切ってもっていく。ジツリョクコウシだ。

「あ~…」ツルツル星人のなさけない声をききながら、スレッタはまんぞくしていた。

 料理はぐちゃぐちゃになったけど、これでちょうどはんぶんこだ。

「もう、お腹を壊しても知らないからね」

「いいんだもん!いただきまーす!」

 本当におなかをこわしたらツルツル星人がとってもシンパイすることを知っているスレッタは、にこにこしながらコゲたパンケーキを口にした。




 あれから随分と日が経って、季節もひとつ過ぎようとしていた。スレッタとエランは、あいかわらず仲良く過ごせている。

「おはよう、スレッタ・マーキュリー。今日は天気もいいから、あとで散歩に行かない?」

「おはようございます、エランさん。お散歩いいですね!どうせならピクニックにしましょう」

 最近のエランは、ちょっとした散歩に誘ってくれるようになった。きっと家に引きこもってばかりでは健康に悪いとでも思っているんだろう。

 心配性だな。…と思いつつ、でもその気づかいに嬉しくなる。

 家の前のレンガ道はけっこう長い。上の方にある山道も含めると、だいたい1kmくらいある。傾斜もあるから往復するといい運動だ。

 レンガ道をゆっくりと歩いて、山の道の落ち葉を踏みしめて、そうして大きい切り株に座って日向ぼっこをしてから帰る。

 ほんの少しだけ山に入って冒険するのもいいし、道のわきに生えている植物を観察するのもいい。何よりエランと手を繋げるというのがいい。

 スレッタにとっての散歩は、アパートで暮らしていた頃のナイトマーケットに行くような楽しみになっていた。

「食パン使い切っちゃいますね」

「分かった。後で買い足しておく」

 暗にサンドイッチを作るとほのめかして、朝食を食べたあとにさっそく作業に取りかかる。

 食パンは6枚あるので、合計で3種類のサンドイッチが作れそうだ。タマゴサンドに、ハムサンドに、ツナサンドが妥当だろうか。

 きちんと具材に味を付けて、野菜はちゃんと水気を切って。あとは食パンにバターを塗ってから、平らになるよう具材を並べていけばいい。最後に食パンの耳を切り落とし、食べやすい大きさに分ければサンドイッチの完成だ。

 完成なのだが…。サンドイッチを切っている途中で、このままだとランチボックスにちょっとした隙間ができることに気づいてしまった。

 べつに少しくらい隙間が空いていても、野菜やおかずを詰めればいいだけなのだが…。

「………」

 スレッタは少し考えて、サンドイッチの切り方を1つだけ変えてみることにした。


「はい、エランさんどうぞ。ほんとに軽食って感じですけど」

「そんな事ないよ、楽しみだ」

 山道にある切り株に座って、ランチボックスの蓋をとる。中にはサンドイッチが隙間なくぎっしりと詰まっているのが見える。

 嬉しそうに覗き込んだエランが、ほんの少し首をかしげた。

「…ひとつだけ形が違う?」

「ふふ、隙間が空いてたんで、切り方を変えたんです。最後のひとつだけ三等分です」

 タマゴサンドとハムサンドは斜めに切って三角形の形にしてある。ごくオーソドックスな形のサンドイッチが、それぞれ2つずつ、合わせて4つ作ってある。けれど最後のツナサンドは斜めに切らず、小さな長方形のものを3つ作った。

 合計で7つ。2人では割り切れない計算になる。もちろん、わざとである。

 温かいスープを水筒からカップに注いで、昼食の準備は万端だ。

「「いただきます」」

 2人で挨拶して、食べ始める。スレッタは大きく口を開けて、エランは小さく口を開けて、それぞれ手に取ったサンドイッチを頬張る。

「ん、このハムサンド、クリームチーズが入ってる?美味しい」

「えへへ、それ、手作りなんです。本当はもう一晩寝かせた方がいいみたいなんですけど、我慢できずに使っちゃいました」

「十分だよ。レタスもシャキシャキして美味しい」

「よかったです。タマゴサンドも自信作なんで食べてください。ゆで卵とスクランブルエッグを別に作って混ぜたんです」

「すごく手間暇かかってる…。ん、これも美味しい」

「もちろん最後のツナサンドも自信作です。ちょっとだけ辛い味付けにしてみました」

「たしかにピリッとはするけど、玉ねぎ自体はそんなに辛くないんだね。食べやすくて美味しい」

 おしゃべりしつつ、2人で一緒のペースで食べていく。3つ目のサンドイッチを食べる頃には、最後にツナサンドがひとつだけ残っていた。

 最後の最後で食べるペースをあげて、エランよりほんの少しだけ早く食べきってしまう。

 そうして最後のツナサンドを手に取って真ん中でちぎると、3つ目のサンドイッチを食べきったエランの口元に持っていく。

「はい、エランさん。はんぶんこしましょう」

 パチッと目を瞬くエランに構わずぐいぐい押し付けると、彼はほんの少しだけ半目になった。

「…狙ってたね?きみ」

「エランさん達に教えられましたからね。こうした方が楽しくて美味しいんです。はい、あーん」

「…もう」

 にっこり笑うと、エランは諦めたように口を開いて、スレッタの持っているツナサンドを頬張ってくれる。

 それを見ながら自分も残りのツナサンドをもぐもぐと頬張る。とても楽しい昼食だった。




 山の家に住むようになってから、早いものでもう数か月。季節は冬になっていた。

 スレッタは温めた紅茶にほんの少し生姜をすりおろすと、大きめの水筒に入れて庭に出た。

 カンカン、ガチャガチャ。庭の隅から音がする。

「エランさん、そろそろ休憩しましょう。オヤツとお茶を持ってきましたよ」

「ああ、スレッタ・マーキュリー。わざわざありがとう」

 最近のエランはいわゆる『日曜大工』というものにハマっていて、今は山で間伐した木材を使ってテーブル作りに挑戦しているところだった。

 見たところテーブルの脚は半分くらい付け終わっているようだ。逆さまになった天板に、にょっきりと2本の脚が生えている。横を見たら似たような棒があと2本転がっていた。

 テーブルの前にエランが作ってくれていた手作りベンチに座り、水筒とカゴを置いて休憩の準備をする。その間に道具を片づけたエランも作業用手袋を外しながらベンチの反対側に座った。

「すぐに用意しますからね」

「うん」

 作業用の手袋をはずしたエランの手は爪の色がほんのり青ざめている。寒空の下でずっと作業していたから冷えてしまったらしい。

 スレッタはカゴの中からマグカップを取り出すと特製ティーをトクトクと注いでいった。縁のギリギリまで入ったところで、すぐさまはい、とエランに手渡す。

「ありがとう」

 エランはマグカップから出る湯気の匂いを嗅いだ後、ゆっくりと中身を啜っていった。はぁ、と気持ちよさそうな息を吐いて、大事そうに両手で包み込む。どうやら喜んでもらえたようだ。

「今日中に終わりそうです?」

「脚を付けるだけなら何とか。でもヤスリ掛けを何度かしたいし、防腐剤も添付したいから…。そうだな、あと数日はかかると思う」

「本格的ですねぇ」

「よく見たらけっこうガタガタだけどね。作るからには丁寧に作りたい。…このお茶、すごく温まるね」

「生姜を加えたアレンジティーです。ほんの少しだけ蜂蜜も垂らしてありますよ」

「僕にはちょうどいいけど、きみはこれくらいの甘さで足りる?」

「クッキーと蜂蜜キャンディがあるから甘味は十分です。あ、エランさんにはお煎餅を用意してあります」

「薄いやつ?」

「パリパリして薄いやつです」


 最近のエランはほんのちょっぴり食が細くなった。本人は気温が寒くなったからだと言っているが、そういう事もあるのだろうか。よく分からないが心配ではあるので、こまめに彼の好きなオヤツを用意するようになった。

 パリパリ、となりでお煎餅の音がする。スレッタはホッとしながら、マグカップを口につける。

 ごくごく、エランと一緒に特製のお茶を飲む。蜂蜜のキャンディを口に入れると、お茶がもっと甘くなった。

 とてもおいしい。しあわせの味だ。

 スレッタは半分くらいお茶を飲んで、ふと昔のことを思い浮かべた。そういえば幼い自分は、エアリアルにココアをおすそ分けしようとした事があった。

 あの頃はスレッタひとりだけが特別なものを食べていた。母とエアリアルに大切にされて、水星の老人からは邪険にされていた。

 今なら分かる。自分は寂しかったのだ。だから大事な人と好きなものを共有することで、充実感を得ようとしていた。

 結局エアリアルは人間じゃないので、ココアを飲むことはできなかったけれど…。

 チラリととなりを見る。もしエアリアルが人間だったとして、ココアを飲んで美味しいと思えるかは別の話だ。だって同じ人間でも、味覚がちがう人がいる。

 スレッタの視線に気づいたエランが、ほんの少し首をかしげた。

「なに?」

「ん~…、昔のことを思い出してました」

「……そう」

「エアリアルとの思い出なんですけど…」

 エランがとても聞きたそうにしているので、スレッタは小さな頃のエピソードを披露することにした。

 エアリアルにココアをご馳走しようとして、結局一口もおすそ分けできなかったこと。それなのにエアリアルはお礼を言ってくれて、幼いながらにほんの少し気まずい思いをしたこと。

 スレッタがぽつりぽつりと呟く昔話を、エランはジッと聞いてくれた。そうして最後にほんの少しだけ微笑んだ。

「彼…エアリアルは、嬉しかっただろうね」

「そうでしょうか?一口もおすそ分けできませんでしたよ」

「いや、嬉しいよ。僕がエアリアルでもきっとお礼を言ってた。味覚は共有できなくても、温かさは伝わっているから」

「………」

 小さな頃のスレッタを褒められて、今のスレッタは何だか面映ゆくなった。同時に慈しむような目をしているエランにムッとする。

 まるで目の前のスレッタを、小さな子どもとして見ているみたいだ。

 スレッタはマグカップを置くと、同じく何も持っていないエランの手を両手で握った。ずっと外で作業していたから、まだスレッタの手よりもひんやりしている。

「な、なに…っ」

 途端に動揺するエランを無視して、そのままエランの大きな手をほっぺたにくっつけてやる。

 火が出るくらいに熱い熱を、分け与えるように。

「…温かさ、伝わってます?」

 たぶん今の自分は、ちょっと意地悪な顔をしているはずだ。

 エランはほんの少し顔を赤く染めて、困ったような、怒ったような顔をしていた。

「また、からかう」

「エランさんが悪いんです」

 小さなスレッタに『はんぶんこ』の魅力を教えたのはエラン達だ。

 食べ物や温かさを、分け与えて共有してくれた。それはとても嬉しいことで、小さなスレッタを幸せで満たしてくれた。

 でも今は、それだけでは満足できない自分がいる。

「エランさんが悪いんだから」

 理不尽なことを言いながら、大きな手のひらに体温を擦りつける。下から見上げるようにエランを見ると、どこか苦しそうな顔をしていた。

 …我慢なんか、しなくていいのに。ほんの少しだけ寂しくなる。


 彼の中にある熱も、分け与えて欲しい。そう思った。






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