はんぶんこ

はんぶんこ


黒鋼ラトナは疲れていた。

というのもこの日は文化祭が月末にあるという事もあり、どの様な催し物をするのか夕暮れ時まで各クラスの委員長が集まる会議に参加していたのであった。

だが、校門の前に凛太郎が居るのを発見すると今までの疲れは忘れたかの様にすぐさまに彼の元に駆け寄った。

いつもは宝音を加えた三人で談笑しつつ自宅へと帰る日々だったが、今日は凛太郎だけ錬金アカデミーで補習を受けていた事もありまた彼も遅くなってしまった。

「ふふっ、せんぱ〜い。また補習でしたの?」

「またってなんだよ。この前のテストで使うケミー達が何故か自分だけ言う事聞かなくて改めてやってもらっただけだし。ラトナも委員会お疲れ様。」

「そういう事があったんだね。ありがとう凛太郎。そういや、宝音は?」

「ずっと待たせるのも悪いし先に家に帰ったよ。」

「そっか。用事は済んだし帰ろうよ。」

二人は帰り道を歩いている最中

(このままもう少しだけ凛太郎と一緒にいたい…!)

とっさにコンビニがあるのを目に入ると、ラトナは凛太郎の腕を掴んで足を止めさせた。

「ねぇ、そこのコンビニであんまんを買ってよ。」

「急にどうした?」

「今日は寄り道したい気分。それに堂々と二人きりで帰る事なんて無いし…。」

「別に良いと思うけど自分で買えよ…。」

「笑えないジョークね。今日は色々立て込んでて疲れたの。凛太郎が買ってきてくれるならお礼に今度ドライバーの強化パーツ作ってあげるからさ。ね?」と頬を赤らめつつ物欲しそうな目で取引を訴えた彼女に対して凛太郎は受け入れるしかなかった。

「それ絶対だからな。」と念を押すかのようにそう言いつつ彼は店内へと向かった。

それを見てラトナは物寂しげにボソッとこう呟いた。

「凛太郎、いつもライダーとかケミーにはチョロいのよね…。私にも同じように接して欲しいのに…。」

〜〜〜〜〜〜〜〜

これはまだ2人が産まれる前。夜のとある学校の近くのコンビニにて。

黒鋼スパナは所用を済ませつま夕食の食材を買い鏡花の待つラボの元へ帰途につくはずだった。

しかし、彼の目に店前で物憂げな表情をしている一人の女性が座り込んでいるのを見つけるや否やその足を止めた。

明らかに一般人からしたら目線を向ける様な特徴的なゴスロリファッションを着たのは間違いなく彼女=ラケシスだ。

「アトロポス…クロトー…どうして私の気持ちが届かないんですの?…ううっ…」

「家族愛は吐き気のするだの言ってた奴が言う台詞か?化け物ごときが笑えないジョークだ…。」

「黒鋼スパナ!?別にいいじゃありませんの…。私にとっての大切な人なんですから…。」

「大切な人か…」

ずっと一緒に過ごしていた大切な「姉二人」と離れ離れになった彼女。

彼もまた幼い頃「両親」という大切な人を失ってしまった。

二人のそれぞれの心の拠り所を奪った奴の元凶は同じ=グリオンだという事なのは確かだった。

(きっとコイツにも鏡花さんのような人が居れば正しい道に歩めたかもしれない…)

相手は錬金術で作られた人形。

でも例えそうであっても、深い心の底で同情を感じたのかスパナは絶好の獲物が目の前に居てかつ弱っているという状態にも関わらずヴァルバラッシャーを振り翳す様な事はしなかった。

「で、私の事を嘲笑に来たんですの?何か用かしら?」

「たまたまここを通りかかっただけだ。周りの人の迷惑にもなるしさっさとどけ。」と言っても

居場所すら無く追い出そうとしても彼女はこのまま居続ける意思を見せる素振りだった。

どうにか策はないのかとスパナはこう提案した。

「そこのコンビニに何か食わせるから満足したらここから離れろ。」

「施しなどいりませんわ!ウウッ…」

と一瞬威勢を張る様子であったが、すぐに元気を無くし、お腹の音が相手にも伝わるぐらい家出してから何も食べずにいたのは明らかだった。

「つべこべ言わずにさっさとなんか食べろ!ここで待ってろ!」とスパナは急いで店内に向かった。

(アイツ…そもそもどんな食べ物が好きなんだ?とりあえず肉まんとピザまんとかチキンやらを買って好きなの選ばせるか…。)

とふと思ったスパナはコンビニですぐ食べれそうな色々なスナック類を買い店外で待つ彼女に袋ごと渡した。

「色々買ってきたから食え。冷めるぞ。」

「まぁ、こんなにいっぱいあるとは。では、お言葉に甘えて頂きますわ…」

あまりにも空腹だったのかチキンや焼き鳥、それにピザまんをあっという間に平らげた。

「どれもおいしかったですわ…はい。残りはあげますわ。」

「貴様の為に買ってきたんだから全部食え。」

「貴方が買ってきた物ですから、食う権利はあると思いますわ。もうこんなには食べ切れないですわ。」

とラケシスはある提案を持ちかけた。

「ならこうしましょう。私と貴方で残りの肉まんを2つに分ければいいのではありませんこと?」

「シェアは美学に反する…。」

「いちいち猟犬如きが美学がどうとかくっだらねぇですわ。大体そっちこそ私や二人のことを化け物呼ばわりなんてしないで欲しいですわ。」

「はぁ?化け物は化け物だろ。大体貴様とか大切な人を助けて貰ったアイツに感謝ぐらいはしたらどうだ。それぐらい出来るだろ。」

アイツという言葉に一瞬疑問を浮かべた顔だったが、以前ドレッドに捨て身の変身したクロトーをガッチャードとして助けた宝太郎の事を思い出してこう言った。

「それはそうかもしれないですわ。でも今更あんな事をやっておいてクソガキ達から受け入れて貰えるかどうかも…。」

「これからのお前の行動次第だろうな。」

といつものように小競り合いしつつもスパナは右手に持っている肉まんの事を思い出し、右手に持ってた袋から肉まんを取り出し二つにちぎった。

「半分やる…。ちょっと小腹空いたし残りは食う。」

「あら、結局食べるんですわね。まぁいいですわ。」

因縁の相手と一緒に食べるなど昔の自分なら頭の中にはなかった。

でも、今まで相対しても見た事のない彼女の笑顔を取り戻し幸せに満ちた顔を見ると美学に反してもこの行動が正解だったかもしれない。

決着をつけるならばお互い万全の状態でやりたかったから…。

「ちょっと冷めてしまいましたわね。」

(さっさと全部食えば良かったのにな…)

そう呟いたスパナに一本の電話が掛かった。鏡花さんからだ。彼女の元から少し離れて応じた。

「おう、スパナ〜。帰り遅いぞ〜?早く飯を作ってくれ。」

しまった。すぐ帰るつもりが30分もオーバーしてしまった。

「ちょっと道中に冥黒の三姉妹の逸れたやつに吹っかけられて…すみません。すぐ帰ります。」

「わかった。あと、その人も一緒に連れて帰ってきて。ミナト君の件で協力してくれてアテが無さそうならなにか感謝したいとこだったし。」

「それはちょっとどうかと…」

「お手伝いさんももう一人欲しかったのだよ。スパナもたまには休みなよ〜。働き過ぎだ!」

「そちらこそですね。分かりました。」

彼は恩人のその一言にどこか心の中でホッとしてしまった。

電話を切り食べ終えた彼女に元へ行った。

「あら?なにかありましたの?」

「お前を助手として拾ってくれる人が居るからついて来い。」

「本当ですの?猟犬より家事出来るってトコを証明してポジションを奪ってみせますわ。そしてゆくゆくはアトロポスとクロトーも呼んで家でパーティー…」

「貴様ァ!家を乗っ取るつもりか。」

とスパナはラケシスの頬をつねった。

「痛い…。強引過ぎますわ!」

この常に喧嘩をする二人がやがて結ばれて今も円満になるとは本人含めて誰一人想像出来なかった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

あんまんを購入し、ラトナの元へと帰ってきた凛太郎。

「買って来てくれてありがとう!」

「冷めないうちに食いなよ。」

「その前に、それぞれはんぶんこしよう。」

「別にいいって。ラトナが頼んだ物だし全部食っていいけど。」

「せっかく凛太郎が買ってくれたんだからさ食べなよ。一緒に食べようよ。」

と引き下がらない様子であったのを見て彼は頷き、包み紙から取り出したあんまんを真っ二つにちぎり元の紙へと戻したもう片方を彼女に手渡した。

「ありがとう!それでは、頂きま〜す。」

「頂きます。」

パクッ パクッ

「ほへほへほ!ほへほへ!」

「食ってから喋ろうよ。」

自然と笑みが溢れる二人だった。

秋夜の下、彼女にとって少しでも彼と一緒にシェアして食べたあんまんは思い出の味となった。

まるで遥か昔、同じ場所で両親が肉まんを分け合い本心を分かち合ったかの様に。

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