彼のバレンタイン
「ああ、マスター!ちょうどよかった」
[あれ、はやぶさ?]
[もしかして俺を探してた?]
「うん。早く会えて幸いだ。今日はバレンタインというイベントだろう?」
[知ってたんだ?]
「もちろん。僕自身は縁遠いものだったけど、後輩がかかわったりもしたんだよ」
「とはいえ、僕から送れるものは大層なものじゃない。──どうぞ、これを」
[銀色の──]
[──カプセル?]
「うん。僕が人間に届けるものといえばコレだろう?中身は自作のチョコだけどね」
[ありがとう]
[とてもうれしい]
「よかった。喜んでくれてとてもうれしい」
「マスター。これからも君の旅路は続く」
「僕は伝説の英雄でも、神話の住人でもない。ただの宇宙船だ」
「でも、君が本当に何か求めるものがあるとき」
「僕はそれを送り届けてみせる」
「──たとえ、それが月より遠くからでもね」
[はやぶさ]
[本当にありがとう、頼りにしてる!]
「どういたしまして!君のこれからの旅路が、いつまでも祝福されていますように!」
──さて。
本日のメインミッションはクリアした。
人ですらない自分を召喚してくれたマスターに日ごろの感謝を示し、決意を表す。まさにバレンタインに相応しい振る舞いだったと自負している。
問題はここから。
「イトカワ!」
「はやぶさ?」
「呼び止めてすまない。今のカルデアのイベントについて、君は知っているかな?」
「む。馬鹿にしないで。バレンタインでしょう?みんなから聞いたのよ、私。チョコだって用意したのだから!」
「それはよかった。──」
その後僕が何を送ったのかは、想像にお任せしたい。
偉大な後輩(きずな)から着想をいただいたこととか、彼女の笑顔がとても美しかったこととか。
それらの記録は申し訳ないが独り占めさせていただくということで、ひとつ。