はじめましてのあなた

はじめましてのあなた

辻斬りしに参りました

第一印象は、お人好しだと思った。

今まで見たこともなかった


そう見えるということはそれが真実なのに、わたしはそれすら信じることが出来なかった


きっと、今は忘れてるから。思い出してしまったらきっとあいつらみたいに……


彼の名はライサンダー、そして共にいる従者?はトリストラム

こんな狭いテントに男性ふたりと一緒にいるのは、成り行きで仕方ないとはいえこわくてこわくて仕方がなかった。


トリストラムはあまり話してくれないし、ライサンダーの方は怖すぎるほどに優しかった


幸いこちらに手を出すつもりはまだなかったものの、いずれそれも変わっていくだろう


不安と恐怖に震える身体を押さえつけて、なんとか作り笑顔で接するも、それが余計にふたりを刺激してしまうのかもしれない


しかしこんな状況でも、ほかの妖精に比べれば遥かに居心地は悪くなかった


念の為、逃げ道を作れるように彼らの実力を見てみた。

ライサンダーは…全然戦わない、でも指示が的確。トリストラムは確実に強いと言える、軍属だったのかも

これは逃げられないだろうなぁ、万が一のことがあっても、簡単に抑え込まれると思う


次の日、あの女の子がまた酷い目にあっていた

彼もそのことに気づいて心配していた。


わたしは彼に聞かれて名無しの妖精のことを話した

もしやってくれるなら、彼女の住処を守ってあげるように提案した。


彼は快く承諾してくれたのだけれど…


「……っ!?」

彼の手がわたしの手を掴み取った。

わたしは咄嗟に振りほどいてしまった。

「さわらないで……ください…」

「…ごめん」

おそらく彼に悪気はなかったのかもしれない。でも『もしかしたら』という可能性が捨てきれなかった。

気まずい空気の中、あの子を追いかけた


彼はあの子にも優しくて、まるでそれが当たり前のように助けていた

正直羨ましかった。わたしにも、そういうことをして欲しかった。


2人を村に返して、わたしは結界を張り、その後あの子と話した。




村に戻り、わたしは彼に聞いた

「…あなたは、どうして誰かを助けるんですか」

彼は変な子だ、見ず知らずの子にさえ気を使ってしまう

だから聞いた。そして確認をしたかった

「…困ってたから、じゃダメかな」

彼の答えは本物だった。




…だからこそ、わたしには酷く突き刺さった

「じゃあなんでわたしを助けてくれなかったんですか…!!」

「…え?」

「わたしがどれだけ酷い目にあっても、あなたは何もしなかった!!」

それは八つ当たりにも等しいものだった

彼がもしあの時近くにいてくれたら…って無意識に願望を抱いていたのかもしれない

「何の話をしてるの…?」

「とぼけるな!!わたしはもう…あんな思いだけは……」

近くにあったナイフを取りだし、彼に近寄る

わかってる、これはあいつらと変わらないことだって。

でも止められなかった。

なんで自分ばっかりこんな目に遭わないといけないのか

なんでこんな事しないといけないのか

そもそもなんで生まれてしまったのか


己の運命を呪うばかりで、目の前の彼に見向きなんて一切しなかった


いよいよ彼の喉元に刃が突き刺さろうとした瞬間





「痛っ……!」

「おやめなさい、あなたの事情はわかりかねますが、その刃をライサンダーに向けるべきでは無い」

トリストラムがわたしの腕を抑えてナイフを取り上げた

わたしはすかさずトリストラムを睨めつけるが、彼は動じもしなかった

「…レディに手荒な事はしたくありませんが、ライサンダーに危害を加えるのを見過ごす訳にはいきません。どうかお鎮めください」

「あ………ぁ………」

わたしはようやく自覚した。

わたしがされてきたような理不尽を、ライサンダーにも押し付けるのかと。


「ごめんなさい……ごめんなさい……」

わたしは泣いて謝ることしか出来なかった。

きっと何されても文句は言えない

そうされても仕方の無いことをした。


でも、彼は…

「……ごめん」

一言謝って、そっとわたしに布をかぶせた


…もう、ここまでされたら。疑うことなんてできないよ



わたしは、布で顔を隠しながら。1晩中泣き続けた。





次の日、昨夜あんなことがあったというのに、彼は全く起こった素振りを見せずに、ただただ心配するだけだった

「昨日は、寝れた?」

「…ぜんぜん」

正直、目も真っ赤になってるだろうし。醜い顔なのは間違いなかった


そのすぐ後、彼は人間だということがわかってしまった。

恐ろしい事になってしまった。


妖精達が彼をバラバラにするつもりで談笑していた

彼を逃がすほかないけど、見張りの目が厳しくリスクが高い


でも、あの子が逃げ道を案内してくれた。

でも、彼女は既に限界で、モースへと変貌してしまった。


彼は絶句していた、こんな事あっていいのかと。そんな思いが見えていた


わたしのよく知る声の人物が現れ、モースへと成り果てたあの子を消滅させた。



彼が名前を取り戻した。

彼の本当の名前は藤丸立香。そしてトリストラムはトリスタンだった


「わたしも、思い出しました…」


わたしは彼らに自分の名前を教えた。

こわかった、でも不思議とその足を踏み出せた


「そっか、よろしくね。アルトリア!」

その言葉に少しビクッとしてしまった

今まで名前を呼ばれることは何度かあったけど、どれもろくでもない記憶しかない


「…もしかして、呼ばれるの嫌だった…?」

彼は申し訳なさそうに尋ねてきた。

思い出してしまえば本性も出るだろうに、さっきと全く変わらない瞳と、心を持っている

わたしには、この人は眩しすぎた

「なんでも…ないです…立香……さん」





わたしは、彼のような人を密かに求めていたのかもしれない

でも、刻まれた記憶は恐ろしくて。この先ずっとまとわりついてくる

もしかしたらこの事が彼に気づかれるかもしれない。今はまだ大丈夫だけど、もしかしたら幻滅されるかもしれない

そうなるのがこわい。そう思えるヒトに出会えたのは初めてだった。






はじめましてのやさしいあなた。どうかきづかないでください

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