なほ恨めしき 朝ぼらけかな
「おはようございます。ルーラーの私」
「おはようございます。ランサーの私」
同じ顔で挨拶を交わす。ここは私たちの2人の部屋。
ランサーの私とルーラーの私。クラスは異なるが、同一人物なのだから同じ部屋で構わないと言ったのは一体どちらだったか。
とある目的のためには同じ部屋の方が都合がいい。理由はただそれだけだった。
その目的を達成するために必要不可欠なもう一人の人物は、自分のために用意された部屋ではなく、今この部屋にいる。
私たち2人の間で眠るそのもう一人は、昨夜の疲れもあり、まだしばらくは目覚めないだろう。
「昨夜の晴信も愛らしかったですね」
「段々と堕ちていく様はいつ見てもいいものです」
「しかし矜持は失わない」
「蕩けた瞳の奥に残る強い光が堪らない」
「声が我慢できずに、漏れ聞こえた時など胸が躍ります」
「初めは押しのける様だった手が、縋り付く様に変わる瞬間は嬉しいものです」
「浅い所をゆるゆると擦るようにした時のあの吐息」
「深い所をぐいぐいと突いた時のあの震え」
「耳が弱いですよね」
「項を噛まれるのも」
「喉仏」
「鎖骨」
「胸」
「腰」
「内腿」
「踝」
話は一向に尽きない。晴信のいい所などいくつ挙げてもきりがない。
「全部知っているつもりなのに、いつ見ても知らない部分がある」
「もっともっとと願うので、放し難くなってしまう」
「まるで底なしの沼の様ですね、あなたは」
「限りなく広がる空の様でもあります」
「どこまで私たちを夢中にさせるつもりです?」
「あなたは策を練るのが得意ですから、本音と建前の区別がつきません」
「それでも交わした想いに嘘偽りはありません」
「そもそも、嫌なら初めから私たちを受けれたりしない」
あれこれ考えてはみるものの、結局いつもこの結論にたどり着く。
「「ずっとそのままでいてくださいね」」
「・・・後朝の文にしては長くないか?」
「おや、起きてたんですか」
「盗み聞きとは人が悪い」
「耳元でずっと話されていたら目が覚めるに決まっている」
「でも、寝たふりしてましたよね」
「何を話しているか気になったと」
「途中で遮った所でやめないだろ」
「「それはそうですね」」
「とりあえず退け、身支度が出来ん」
するりと間を抜けて、ベッドの外へ行ってしまう。
「あれだけヤったのにもう動けるんですか、凄いですね」
「次は潰すつもりでいきますね」
「そういう宣言は要らないぞ」
「「なるほど、言葉ではなく実力で示すのがお好みと・・・」」
「ち・が・う、だ・ま・れ」
背中を向けたまま、こちらを振り返る事もなくそう言って、シャワールームへと消えていった。