なおこの後ちゃんと名前聞いた

なおこの後ちゃんと名前聞いた




首筋に這わされる舌が、まるで蛇の様だと思った。

胸や腹を撫でる手の、じっとりとした感触が、嫌だった。

触り方だけなら、あの人達よりずっと優しい筈なのに。

自分に向けて来る目だって、あの人達と同じ、肉欲を孕んだ目だというのに。

「ゃ、めて、ください……」

拒絶の声は、思っていたより小さく、震えていた。抵抗したくて胸を押し返した手の力は、思っていたよりずっと弱かった。コビーを自らの部屋に引き摺り込んだ少将は、にやにやと嫌な笑みを浮かべている。そんなので抵抗しているつもりなの、と、笑っている。

「ひ、」

耳を舐められる。胸元を弄られる。あの船で、あの人達に何度もされた事がある。だから体が勝手に反応してしまう。けれど。

「や、やだ……」

首を振って、少将の体を離そうとする。けれど少将は更に体をくっ付けて来る。ぞわぞわとした不快感。本当はして欲しいんじゃないの、と、少将が言う。何回も何回も拐われて、いやらしい体になっていって。気付いてるでしょう、そういう目で見られてるって事。耳元でそう囁かれて、コビーの息が詰まる。

そんな事は、コビーが一番分かっている。あの人達に抱かれる度に自分の体が変わっていってしまっている事も、それに喜んでいる自分の事も、こんな事はいけないと知っていながらあの人達にさらわれている事も、全部全部知っている。でも。


違う、違う。ちがう。

あの「幸せ」をくれるのは、この人じゃない。


「う……うえ、ぇ……っ」

子どもの様に泣き出したコビーの涙を、少将は舐め取った。




*****




ガープの拳を正面からまともに受けた少将の意識はもう無かったが、ガープはそれでも少将の首根っこを引っ掴んで部屋の外に引き摺って行った。その姿を横目に、ヘルメッポはコビーの背中を摩る。

いつもなら自室に戻っているか執務室に居る時間なのに、コビーが何処にも居ない事に気が付いた。とある少将と話しているのを海兵が見たのが最後だった。嫌な予感がして、その予感は見事に当たってしまった。途中ガープに出会って良かった、と思う。

「ひぐ、ぅ、……やだ、やだ……やだぁ……っ」

コビーは幼い子どもの様に泣きじゃくっていた。その体はがたがたと震えている。男である自分より女性の方が良いかもしれないとは思ったものの、側を丁度通り掛かる人物は居ないし、コビーのこの姿を多数の人間に見せる訳にも行かない。何の意味も無いことを分かっていながら、ヘルメッポは「大丈夫だ、大丈夫、」と繰り返しながら、呼吸が落ち着く様に背中をとんとんと叩く。

コビーが黒ひげに拐われるのは、一体何度目だったか。その度に、コビーをおかしな目で見る奴等が増えて行った。体つきが女性的になって、髪も伸びているのだ。その上で性格は変わっていないものだから、勘違いを起こす人間も居る。まだ新人の海兵や一般兵は、コビー大佐が四皇黒ひげに幾度も拐われている事は知らされていない。だから、まだ、納得は、心底したくは無いが、出来るのだ。けれど、あの男は。あの少将は、コビーが黒ひげ達に何をされているのか知っている上で、コビーを襲った。

「……」

もっと。もっと強くならなければ。今以上、コビーを傷付けない様に。海軍将校で、市民の英雄で。けれど、それでも、彼はまだ子どもなのだ。自分より四つ年下の。まだ、18の。

ヘルメッポは、コビーを抱き締めたい衝動を堪える。そんな事をしても、怖がらせるだけだ。




*****




「なんか今日はやけに船長に甘えてたなァ?」

バージェスはそう言いながらコビーの頬を人差し指で撫でる。もう幾度目になるか分からない誘拐、その末の乱交パーティーとでも言えば良いのか。三日程続いたそれは一旦終わり、今は短かな休憩時間。身体中に鬱血痕や手の跡、噛み跡を残されているコビーはティーチの膝の上で眠っていた。バージェスの言葉に「確かになァ」と言いながら、ティーチもコビーの髪を柔く撫でる。年相応の幼い寝顔をしているコビーは、ほんの数時間前まで淫らな顔を自分達に見せていた。まぁ、それは割といつも通りの事ではあるのだけれど。それにしたって今日はやけに甘えていた。どろどろに溶けた顔でハグやキスをせがまれて断る者はこの船には居ない。もしかしてこの船に乗る気にでもなったのだろうか、そうなったら共にトレーニングに付き合ってもらうか、なんて考えながら頬を突いていると、コビーが小さく身動いでぼんやりと目を開けた。

「……おはよう、ございます……」

と、言いながらも、まだ眠たそうにティーチに擦り寄っている。バージェスはそんなコビーの頬を撫でながら尋ねた。

「お前、今日はやけに船長に甘えてたなァ? なんかあったか? ン?」

「……んん……。……この、まえ……」

「この前?」

「少将、に、むりやり、さわられて……」

「ヘェ?」

ティーチが低い声を出す。それに気付かないまま、コビーはうとうとと言葉の続きを紡ぐ。

「それが、いやで……。……あなたたち、じゃ、なきゃ、いやだった、から……」

「それで甘えてたのか?」

「……や、でした……?」

「ゼハハハ! 野暮な事聞くんじゃねェぜコビー。分かるだろ?」

ティーチの答えに安心したのか、コビーは再び目を閉じて夢の中に旅立って行った。そんな幼い子どもの肩をとんとんと叩きながら、「あ」とティーチが珍しく間抜けな声を上げた。


「少将の名前、聞くの忘れたなァ」

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