どこまでもすれ違う

どこまでもすれ違う










映像の中心に映っているのは、桃色の髪をした青年だった。見るからに未成年で、その上彼は童顔であるから余計に幼く見える。よく鍛えられていた身体は最近丸みを帯びて来た。大きな手に揉みしだかれた尻も胸も、触れて欲しいとばかりにぴんと立っている真っ赤な乳首も、青年のそれでは無く女性の、否、雌のそれと言った方が良いかもしれない。青年──コビーは何も身に付けていない状態で、とある機械に大の字に縛り付けられていた。搾乳でもするかの様に胸にはカップらしき物が付いており、後孔には太く長いバイブが刺さっている。規則的な、そして不規則な動きを繰り返すそれは、人間を絶頂させる為だけに計算されている。

『っ、ひ……ぁ……』

掠れた声が響く。コビーの体がぶるりと震えて彼が達したのだと察する事は出来るが、コビーの陰茎はちょろちょろと透明な液体を流しているだけになっていて、それに男としての機能はもう無いに等しかった。コビーはカメラを、正確にはカメラの横に居る男達を見る。涙と鼻水と涎でぐちゃぐちゃになった顔。

『もぉ、いきたくな……いきたくない、です、っ、これ、や……』

そう言ってぼろぼろと涙を流すのは、これで何度目だろう。機械によって絶頂を何度も繰り返されている彼の身体は、それでも限界を迎える事は無かった。普通の人より体力が充分ある故に、長い苦しみと快楽を得続けているのだ。

『ぁ、あ、あ、や、やだ、もう……ゃ……ぁー……ッ』

いやいやと快楽を拒絶する様に首を振って、それでも耐える事は出来ない。再び達したコビーはひぐ、としゃくり上げて男達を見る。

『も、や、やぁ……やだ……やだあ……てぃーち、てぃーち……』

一人の男の名前を呼んで、『こわい』『たすけて』と繰り返す。すると、絶えず鳴り続けていた機械音が不意に止まった。かぽ、と胸には付けられていたカップが外れ、手首と足首の拘束が外れる。力の入らない体が前に倒れて地面に落ちる前に、巨大な男がその体を抱き止めた。先程コビーに名前を呼ばれていた男だ。黒ひげことティーチはコビーの体を抱き上げて貪る様に深くキスをする。口付けというよりも捕食に近い様なそれは、じゅるじゅると卑猥な水音が響いている。

『ぷはあ……っ♡ ぁ……♡♡』

口が離れると、唾液で出来た糸がだらりと垂れた。

『ゼハハハハ! やっぱ見てるだけってのはつまんねェよなァ!!』

『あっ、あ、あ♡♡♡』

皮の厚い手が真っ白な肌の上を弄る。それにコビーが歓喜の声を上げるのを合図にして、映像を切り替えた。

肌と肌のぶつかる音と喘ぎ声が聞こえてくる。コビーは後ろから幹部の一人であるラフィットに抱きしめられ、前からティーチに足を大きく開かされて、とっくの昔に黒ひげ海賊団専用の穴となったそこにティーチの太く長い陰茎が挿入されていた。抜き差しする度にぐじゅ、じゅぶ、と音を立てているそこは何度も出された精液のおかげで滑りが良くなっていて、本来なら届かないであろう奥まで何度も突かれて、腹は歪に形を変えていた。けれどコビーはそれを苦痛とはもう思っていない。むしろそれをずっと待ち望んでいた。身体中を男達の手が這い回り、誰かとキスを繰り返してはまた別の誰かに口付けをされ、至る所を撫でられて摘まれて捏ねられて、噛まれて、舐められて。そうしてじわじわと高められていく身体が痙攣する。

『ぁ、あ゛♡♡ ぁー……ッ♡♡♡♡』

『なんだァ、またイッたのかァ?』

『らって、も、ずっと、きもぢ……♡♡♡ あ、あっ、ぁ、あッ♡♡』

『本当に淫乱になりましたねぇ』

おかしそうにラフィットが言い、コビーの耳輪に噛み付いた。淫乱、という単語にコビーは肩を跳ねさせる。

『ごめ、なしゃ……っ』

『ホホホ、責めた訳ではありませんよ。ねえ?』

『そうだぜコビー、お前ェがこんなに淫乱になって嬉しいんだぜおれらは。なァ?』

周りに居てコビーの身体を好きに弄んでいた男達が、ティーチの言葉に同意の声を上げる。コビーはそれに安心した様に笑った。それに、安心してしまう様に、変えられてしまったから。

『なか、なかっくだしゃい、あったかいの……♡♡』

『あァ良いぜ、何度でも出してやるからなァ!』

ティーチ達に抱き付いて、コビーは何度も「あったかいの」が欲しいと繰り返す。ぐちゃぐちゃでどろどろの、けれど確かに満ち足りた顔が最後に映って。





一通り撮影した映像を確認し終えて、ふと、クザンは我に返る。自分は何をしているのだろう、と。考えた所で手遅れだったから、すぐに頭を振って疑問を吹き飛ばした。

先程の映像は、つい三日程前に撮ったものだった。コビーは昨日の夜中に名前も知らない島の森に置き去りに放置された。そんな彼を心配する権利なんて、自分には無い。ずるずると「撮影係」なんて続けている自分には。あの子の心が壊れたのを、黒ひげ海賊団によってそこに歪な幸せを刷り込まれてしまったのを、間近で見ていたくせして、何もしなかった自分には。脳裏にこびり付く、まだコビーの心が壊れていなかった頃の、叫び声と泣き声。幸せを刷り込まれた彼の、あえぎごえ。

「……」

そろそろ、保護された頃だろうか。ぼんやりそんな事を思いながら、クザンは無心で、淡々と、映像の編集を続けた。




*****




「コビー!! コビー、何処に居る!? コビー!!」

ヘルメッポ少佐の必死な声が遠ざかる。モモンガ中将も、彼と反対方向へコビー大佐を探しに向かう。とある島に黒ひげ海賊団の船が着き、誰かを抱えて森に入って行く人影を見た。そんな通報があり、こうして将校数名とコビー隊は広大な森に入っている。コビー大佐、と名前を呼ぶ声が木霊するが、未だ報告は無い。モモンガは何度もコビーの名前を呼ぶ。思い出すのは、傷だらけのあの子の姿だ。黒ひげは、英雄コビー大佐に歪んだ執着を向けている。そうでなければ、何度も何度も彼を攫って、あんな。あんな、口に出すのも悍ましい事なんて、しない。目の前で攫われるのを何度も見て、血を流しながら、強くなろうと図り知れない努力を続けるヘルメッポの姿を知っている。深く深く傷付いて、何度も心を壊しかけて、それでも民衆の英雄であろうと笑顔であり続けるコビーの姿も、知っている。黒ひげは、それを嘲笑う様に、こうして森や砂浜に、まるでゴミでも捨てるかの様に置き去りにして行く。

「……!」

不意に目の端に過ぎったのは、赤い花。モモンガは其方に足を向ける。彼岸花がぽつんと一輪刺さったその側に、コビーは居た。海軍のコートの上に、体をくの字にして。身体中に残る手の跡や噛み跡、鬱血痕、涙の跡。こびり付いている、白い液体。こうして直接見るのは、許せない事に初めてでは無い。それでも、吐き気は込み上げて来る。

「コビー!!!」

ヘルメッポの声がした。彼も同時にあの赤い花を見つけたらしい。モモンガはコビーを発見した事を電伝虫で伝える。その間に、ヘルメッポはコビーをゆっくりと抱き起こして立ち上がる。肩を支える手は、小さく震えていた。

「……ぅ……」

「! コビー?」

小さな呻き声が聞こえる。コビーは薄らと目を開けた。けれど目に光が無い。その目から涙が一粒、二粒、ぽろぽろと落ちる。

「……ぃ、で……ひとりは……やだ……」

「……っ」

「ひとりに、しないで……」

ふ、とコビーは目を閉じる。気を失ってしまったらしい。する訳ねえだろ、と、ヘルメッポの震える声がする。モモンガは怒りで煮え滾る頭を、深呼吸して無理矢理に落ち着かせた。

「ヘルメッポ少佐、軍艦へ。早く軍医に診せなければ」

はい、という返事は、掠れている。走り出した、遠ざかって行く白い背中を見ながら、モモンガは強く拳を握りしめた。何度も何度も、あそこまで、あの子を追い詰めて。親友を、相棒を思う、彼の気持ちも、踏みつけにして。赦せる訳が無い。歯軋りをして、頭を振る。もう二度と、黒ひげ達の好きにはさせない。させてたまるものか。


その誓いは、当たり前の様に、また、壊されてしまうのだけれど。

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