✕ ✕ ✕ とはキスしない
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ペンワイR18
ペンギンとワイヤーがベッドの上で祭を開催してしまってからしばらくが経った。酒の勢いで、という言い訳は何度までなら通るものだろう。仏の顔も三度までと言うし三度目までだろうか。海賊が馬鹿正直に道理を気にして己の罪を指折り数えるのもそれこそ馬鹿馬鹿しいが、ともかく第n回素っ裸ーニバルの話である。
*
「おれキスすんの結構好きでさ。その辺で引っ掛けた男とも店の女とも普通にするし、ハメたまんますんのが特に気持ちよくて好きなんだけど。なんかお前のことわりと好きになっちゃいそうだから念の為お前とはもうしないでおく。──あ、続けていいよ」
「はえ……、ア、はぁ?」
ちょうど二人が身体を繋げて呼吸を整え見つめ合ったタイミングである。告げられた言葉にペンギンは上手くレスポンスを返せなかった。ちょっと待てぃ!とボタンを押して時間が止まるなら今すぐ押したい。だってただでさえ肉体的な情報量と多幸感でいっぱいいっぱいなところに他の男や女とどうとかのデリカシーのない話題、それから突然のエッチな性癖開示とあとなんか、何かとんでもない事を言われた気がして処理落ちもやむなしだ。10秒そこらに含まれていい情報ではない。
「ごめん何? 何の話?」
「お前とはキスしないって話」
「なんで今そんな話すんだよ!」
どうしてこのタイミングでそんな宣告を受けねばならないのか。心因性のイ〇ポになったら責任取れよと涙ながらに抗議すると「あんだけ飲んでもしっかり勃つし大丈夫だろ」と頭を撫でられ見当違いの慰めを寄越された。責任を取ってくれる気はないらしい。息子の回復を待ちながら恨みがましく見やると妙に意外そうな顔のワイヤーと目が合う。
「どういう感情?」
「いやこっちのセリフ。怒ると思わなくて」
「だっっってお前……、」
『ムード考えろよ』?
『他の相手の話するなよ』?
『そんなの寂しくなっちゃうだろ』?
ダメだ言うな!女々しい!重い!何て続けてもかっこ悪い!ペンギンの頭の中のミニペンギン達が大慌てで言葉を引っ込めた。ペンギンの中ではまだ「おれはワイヤーに惚れてしまった訳じゃない」という事になっているので色々大変なのだ。さっきのやり取りで大分酔いが飛んでしまったのも痛い。好意も性生活も網タイツのように明け透けに開けっぴろげなワイヤーとペンギンとでは対照的な部分も多いのかもしれない。
「…………だってキスはしたいじゃん、気持ちいいから」
往生際悪くあくまで気持ちいい事を制限された事へのクレームという体をとった。表情を見られずに済むようにべしょりとワイヤーの胸元に顔を埋めて言うと、ぬかるんだ穴が不意にきゅうと締まって危なかった。
ワイヤーとてペンギンとキスはしたい。めちゃくちゃしたい。何ならペンギンよりしたいし今すぐしたい。しかしそうこうしている内にペンギンの息子は元気を取り戻し、ワイヤーに覆いかぶさってグズっていた身体は半身を起こして少し離れる。撤回はできないが妥協案が必要だった。数秒の逡巡の後ワイヤーはペンギンを見上げてべ、と舌を出し、「舐めていいよ」と言う。今度はペンギンの心臓がきゅうと締まって危なかった。
*
ぴっ…ちゅく…ちゅっ…。
キスはしないと言った舌の根も乾かぬうちにどういう事だと思うが、ワイヤー曰く唇と唇をくっつけなきゃセーフらしい。それはキスの定義としてアウトだろ。アウトだと思う。 セーフなの? 純真にもペンギンが悩むとワイヤーはいつものあの感情の分かりにくい眠たげな顔で、「セーフ」と厳かに頷いた。
ちゅ。
なのでペンギンはワイヤーの舌を舐めている。さっき飲んでいた酒の味がしてまた酔いそうだった。
ちゅぴ。
ペンギンはつい舌先に硬く力を入れてしまうのだがワイヤーのそれは柔らかい。押しつけると楽しげに押し返し、かと思えば波のように柔らかく崩れるので溺れそうになる。気持ちいい。でももっと深くまで触れたい。前に一緒にベッドに入った時にはそれはもうちゅーちゅーぬるぬるしてもらったのでもどかしくて堪らない。
ちゅぴっ…。
もどかしいと言えば下半身だ。こんな繊細な触れ合いをしながら好き勝手腰を振るなんて器用な技術をペンギンは持たないので、必然ゆっくりと揺れるか擦りつけるような動きになる。ベッドの軋む音も控えめで慎ましいのがかえって興奮を煽った。
ちゅ。
角度が変わり鼻先が触れ合うとワイヤーが目だけで笑う。そういうの心臓がギュンとするからやめてほしい。思わず深くワイヤーの舌を追うとぺとりと唇に行き当たってしまった。
あっこれセーフ? アウト? ぴくりと肩を揺らしたワイヤーの表情を見てそのまま判定待ちをすると、少しばかり見開いた瞼が半分落ちた。唇に舌で触れるのはセーフらしい。そっかァこれはセーフなんだ……。嬉しくなってペロペロと唇を舐めるとワイヤーの舌は徐々に引っ込み、薄く開いた口の中がぽかりと見えた。そのままそこに舌を挿し入れようとして、
「ペンギン」
その口が自分の名前を発音したので思わずパッと顔を離した。
「ア、アウト? 基準が判んないんだけど…カード制? イエロー二枚的な?」
上擦る声には答えずにワイヤーは両手でそっとペンギンの頬を包んで引き寄せた。あっこれキスしてくれるやつだ、と舞い上がるまもなく声が続く。
「べろ出して」
「え?」
「べろ、もっと出して」
「んえ」
さっきも出してたじゃんと思いながら従うとワイヤーは顔を傾けて、ペンギンの舌先をはぷりと口に含んだ。
「!??」
ぺちょ…。ちゅぷ。
濡れた唇が舌の先っぽをやわく咥えている。ワイヤーは目を伏せていて、視線は交わらない。今にも唇同士が触れそうだった。ペンギンの舌を愛撫するためにワイヤーが小さく頭を揺らしている。クラクラする。
ちゅぷっ。ちゅむ。
ちゅう、と吸いつかれてにゅるにゅる擦りつけられる。気持ちよすぎて腰が跳ねるが顔はやんわりとワイヤーの手で固定されたままなので動けない。いや動いたら多分出る。涎も垂れそう。
ちゅぽ。ちゅぷ……。
舌を出したまま無理やり唾液を飲み込むとゴギュリと大きく音が鳴った。あむあむとペンギンの舌を食んでいたワイヤーはその音を聞いて、長い脚でペンギンの腰をぎゅっと抱き締めた。脳内のミニペンギン達が満場一致で限界と撤退を訴える。が、文字通り一足遅かった。
「なんでこんなエッチな事すんの……」
ほぼキス(ワイヤーの定義によると違うらしい)のみで満足するという実績解除を成し遂げてしまったペンギンは半泣き、いや八割泣きで声を上げた。もはや言葉を取り繕う余裕もない。
「……ペンギンも気持ちいいキスしたいって言った」
「言っ……、たけどォ……」
初心者マークにとっては少々刺激が強過ぎたしなんかマニアックだった。
あとやっぱりこれはキスなんじゃねェかという気がしてそこのところを詰めると「南の海ではこんなのキスの内に入らない」とかボソボソ言っていた。視線も声も揺れてはいないが目が合わないので若干怪しい。北の海の人間として言わせてもらうとキスよりめちゃくちゃキスじゃんという感想にもなる。すぐ泣きが入る割にそれなりに立ち直りも早いペンギンは、文化の違いについては追々裏をとっていこうと決めた。
*
「そもそもなんでキスしちゃダメなんだよ」
頭の後ろで手を組んだペンギンはベッドで天井を見上げて呟いた。あの後結局キスはせず一通りの反省といちゃつきとリベンジを済ませて大満足してしまったが、ペンギンにとって何かとても重要な問題が有耶無耶なままになっていた気がする。あんな事やこんな事はするのにキスはダメって…と情事の記憶に意識が流れかけたところに、開けっ放しの脱衣所にいる実物のワイヤーから声がかかる。
「だから、あんまりキスするとペンギンのこと好きになっちゃいそうだからだって」
そっか、あんまりキスするとおれのこと好きになっちゃいそうなのか……。ペンギンは天井を見つめながら聞こえてきた言葉を反芻して、次の瞬間氷の上を爆滑りするペンギンのような速さでベッドを飛び出した。
「それだよそれ!!その話だよ!!!」
「なになになに」
簡素な宿の一室に二人分の声が響く。そうして事後何も身に付けていないペンギンと風呂上がりで生まれたままの姿のワイヤーによる素っ裸ウンセリングが開始され、色々と解決したりしなかったりしながら夜を明かし。
宿の前で二人は口と口をくっつける挨拶をしてそれぞれの船に帰るのだった。