とっぷ345後編
どぷどぷと溺れそうな量の精液が、口へ吐き出される。
しつこいほどに甘ったるいそれを飲み下すと、雪宮の頭の黒い靄は徐々に晴れてくる。
……窒息と快感に飲み込まれて消えていた感覚が戻ってくると同時に、雪宮は頭の上から冷水を掛けられたような悍ましさに襲われた。
「ぁ……」
フェラ中の自慰行為で濡れた手。口の中に残る、酷く生臭い後味。
それから、隣で異形に悦んで腰を振る友人。
思わず俯いた雪宮の青ざめた顔を、”主人”が覗く。観察するように冷淡な、それでいて肉欲の熱がありありと現れたそんな目線に雪宮は嫌悪と後悔を加速させる。
後悔先に立たずとは言うし、そもそもどうしようもないのだけれど。
それでも、全身鳥肌が駆け巡るようなおぞけが止まらなくて、雪宮は自分の身体を抱きしめた。
またやってしまった、なんて、声にならない言葉ごと、唾を吐き出す。
「っは、おぇ、……」
「螟ァ荳亥、ォ?」
「縺?■縺ョ縺檎イ礼嶌繧偵@縺ヲ縺吶∪縺ェ縺」
__依然として左耳から入ってくる淫靡な音の奔流に混じって、そんな会話が聞こえた。
それから、少しして、主人が雪宮の顔を上げさせた。
「っえ、ぁ、……」目が合う。
粗相を咎めているような強い視線。
ぐっと心臓の中央まで射竦められるような心地に、思わず雪宮は口を開いた。
「ごめ、」
そのとき。
「縲ゅd縺」縺サ繝シ縲ゅd縺」縺ヲ繧具シ」
入口から漏れる明かりを遮る形で、二つの影が部屋へ入ってきた。
主人は雪宮からふっと目を離して、雪宮の背後、つまり入口の方へ歩いて行った。
拘束感から解放された雪宮は、安心したような、どこか空虚な気持ちを抱えながら、主人の方を振り返る。
「縺翫○縺医h窶ヲ邏?據縺ョ譎る俣驕弱℃縺ヲ繧九□繧」
「縺励c繝シ縺ェ縺?§繧?s縲ゅさ繧、繝?′繧、繝?◆縺セ縺セ蜈ィ辟カ蜍輔°縺ュ縺?s縺?繧ゅs」
雪宮の主人と軽い口調でやり取りする新たに現れた異星人は、若干雪宮の主人よりも小さい。それから、その後ろ……
「……」
雪宮は絶句した。一瞬で正気が覚めて、くらりと眩暈がする。
「なぁ、着いたんなら外してやこれ♡うずうずしてしゃーないねん♡」
この、声。を、発する大きな口。目元を隠す布にちらちらと掛かる、濡羽色の艶やかな髪。
「……か、」らす、くん。
まるで犬のパンティングのように舌を出しながら、リードで異星人に雪宮達の方へ連れられてきた烏、は、彼の主人が止まると、その紺色の足へすりすりと頭を擦りつける。
「なぁ、お願い♡目隠し取って?♡」
甘く売られた媚びに、仕方ないなという風に烏の主人が目隠しを取ると、とろんと解けた、まさにハートが浮かんでいるような瞳が露わになった。
「あれ♡ユッキーと乙夜やん♡」
こうも暗い中では顔色なんて分からないのか、やや青ざめた雪宮の顔を見てもふやけた笑みを浮かべて嬉しそうにする。
雪宮はちらりと乙夜の方を見て、全く我関せずな彼とその主人のイチャラブを確認してから烏に微笑みかけた。
「……久し振りだね」
「二人も旦那様に娶られとったんやな♡水臭いわ、結婚式呼んでくれれば行ったんに」
「…ごめん。ばたばたしちゃってさ、………」
「旦那様と二人だけでやった感じなん?愛されとるな♡」
「……はは、そうかもね」
乾いた笑いは、部屋の湿度を纏って、重たくなって、床に沈む。
「今日楽しもなァ、旦那様がいっぱい気持ちよくしてくれるんやって♡♡」
「……」
雪宮が思わず口を閉ざした時、さっきまで放置されていた雪宮のリードがくいと引かれた。
見ると、いつの間にか雪宮の主人と烏の主人が、シャワーの前へ移動している。
「あはっ♡旦那様、もう準備万端やん♡♡」
烏はそれを見て、満面の笑みで寄って行った。雪宮は下手に主人の機嫌を損なわない程度にゆっくりと烏に続いた。
異星人たちの足元には、桶が置かれている。何をするのか、と思った矢先、リードが引っ張られて、雪宮は主人のすぐそばに導かれる。雪宮が紺の顔を見上げると、顎で烏の方を示された。見てろ、と言っているらしい。
「はよ、はよしてやダーリン♡」烏は桶の前で犬のお座りの体勢をして待っている。
彼の主人が「莉墓婿縺ュ縺?↑」と何か異星語を言ってから、シャワーを手に取って桶に向かって水を流す。
「あ、あ♡」水の張られていく様子を見ながら、烏は待ちきれないという風に身じろいだ。また舌が出ている。陰になっててよくは見えないが、平均よりも若干大きい彼の陰茎も勃っているようだ。
「……」烏って、水が苦手じゃなかったっけ?
そんな雪宮の思案も他所に、桶に水がたっぷりと溜まると、烏の主人は烏の後ろへ回った。そうして、大人しく待っていた烏の頭を優しく撫で、
そのままその頭を桶に沈めた。
「え」雪宮は思わず立ち上がって烏に駆け寄ろうとしたが、主人に止められる。
ごぽ、と水面に音を立てながら泡が立つ。
烏の肩がびくびくと大きく跳ねる。痙攣しているようにも見えて、雪宮は足に入れた力を強くした。
腕もじたばたと動く。
しょろろろろろ……と細く水の流れる音がしたかと思うと、烏の足元に黄色い水たまりが広がっていた。
やばい、死ぬって、助けないと。
「烏くん!」首輪に押さえつけられた喉を震わせて叫ぶが、状況は全く動じなかった。むしろ、烏の頭を押さえつける腕の筋が盛り上がったような気がして、雪宮は黙る。
烏の顔が引き上げられたのは、洗面器から何の音も立たなくなったときだった。
ざばぁ、と勢いよく烏の顔が持ち上がって、水が床に跳ねる。
「っは、あ、げほ、っ♡」
__烏は笑っていた。水が顎から滴り、鼻水も垂れている。顔中びしょ濡れなせいで、泣いているようにも見える。依然として小水は出続けている。
でも、笑っていた。恍惚の表情を浮かべていた。
「ダーリン、もっと出してぇ♡♡いっぱいたねづけして♡♡」
冴えていく頭に、乙夜の声が響いた。
__幸せそうな二人の顔。歪んだ醜い幸せに浸かった、蕩けた、顔。
「……あはは」
気持ち悪い。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
雪宮は主人の身体に凭れかかった。彼の欲情した熱でじわりと溶けるような、心地よい感覚に、身を委ねる。
どうにでもして。
雪宮は、穏やかな笑顔でそれだけ呟いた。