とある猫ちゃんの言うことニャ

とある猫ちゃんの言うことニャ


 色町で男娼のパパと娼婦のママから産まれた私は、初潮が来たら2人の共通の上客だった富豪のおじ様に売り飛ばされることが決まっていました。

 ママのお腹の中にいた頃から。私の性別が決まる前から。私という存在が確立されるずっと前から。

 それでも幼い頃から働かされる他の子達と違って、私は体が女として最低限の成熟を迎えるまでは手を出されずに済むから。最悪なんかじゃないんだ。ここで産まれてしまった子供の中では全然マシなほうなんだって、そう考えながら育ちました。

 本で読んだ初潮の平均年齢は10歳から15歳。だから早くても10歳まではこうして家の中に閉じ込められて、いずれ大金をもたらす予定の金の卵が割れないように、大事に大切に商品として慈しまれるんだと思っていたのです。

 ……定期的に打たれていた注射はパパやママの言う通りにただのビタミン剤で。早く私をお金にしたい両親が初潮を早めるために違法に手に入れたホルモン剤だったなんて真実は、たったの7歳で下着を真っ赤に染めるまで、ちっとも、ちっとも、気付きませんでした。気付きたくなくて、考えないようにしていました。

 だって自我を得る前から生き物じゃなくて売り物だったのに、その上パパからもママからも本当は愛されてなかったなんて、惨めじゃないですか。なんのために生きてるのかわからなくなるじゃないですか。

 2人はお金が無いから我が子を売り飛ばすしかないけど、心の底では娘の私を商品じゃなく人間としても愛してくれてるんだって、そんな甘えた願望に縋っていたかったのです。幻想を見ていたかったのです。


 でも、夢から覚めるお時間が来てしまいました。


 真っ青な顔でトイレから出た私の内腿に血が伝い落ちているのを見て、両親は顔を真っ赤にして大喜びしました。

 2億円。私と引き換えにそれが両親の手元に入るそうなのです。私がこれから先ずっとおじ様の所有物で居続ける代わりに、両親はそのお金で体を売るのをやめて自由に幸福に暮らせるようになるそうなのです。

 ありがとう、と嬉し泣きして抱きしめてくれるパパとママに、私も涙で返しました。どんな感情のこもった涙だったかなんて、今でも深くは考えたくありません。


 その次の日から、私はお金持ちのおじ様の家で暮らしました。

 家では私はずっと裸で。冷房も暖房もしっかりしたお屋敷でしたから、暑くも寒くもありませんでしたけれど。首輪を付けられて四足歩行で移動させられる私を、お屋敷の使用人さんたちは軽蔑の目で見たり、悲しみを堪えた目で見たり、見えていないフリをしたり、そうやって色んな風に見ていました。

 夜にはおじ様のお部屋に呼ばれて。まだここにワシのは入らんからなって、小さな棒みたいなものを日ごとに本数を増やされてたくさん咥え込まされました。痛いって叫ぶとお腹を踏まれるから我慢しました。

 そんな生活が1年ばかり続いたある日、おじ様はニコニコとこう言い残して出かけて行きました。


「ワシのはまだ入らんが、若い男のモノなら入るじゃろう。可愛いお前に種を仕込むのに相応しい綺麗な少年を買ってきてやるからな。今晩は未来の夫婦2人がかりでワシに奉仕してくれ」


 私のパパとママのどちらも抱いていた人で、その間に産まれた私もいずれそうするつもりの人です。

 だったら本人の言う通り、私の夫になる人を金で用意することも、その人も私もまとめて手篭めにすることも、おじ様には簡単なのでしょう。

 キュッと唇を引き結んで空を仰ぎました。私もいつか、私の子供が初潮を迎える頃には、私の両親みたいになっているのかなって。自分の人生のためなら子供の人生を平気で踏み躙ってしまえる大人になるのかなって。

 それが嫌で嫌でたまらなくて、でも泣くと本当のことになっちゃいそうで、涙を流さないためにずっと窓際で雲を見上げていました。空を飛ぶ鳥の自由が眩しくて目に沁みました。


 数時間後。おじ様が連れて帰って来た少年は、本当に綺麗な子でした。私よりは年上でしたが、彼が東洋人だからか、私が西洋人かつ違法なホルモン剤で成長を早められていたからか、見た目だけならそう大差も無いように見えます。

 赤みがかった髪の毛と、緑とも青ともつかない瞳。両方とも色鮮やかで、象牙の肌はきめ細やか。性別の曖昧な整った顔立ち。ほっそりとしていながら鍛えられているのもわかる均整のとれた体が美しくて、私はこの人が私を抱くところと、この人がおじ様に抱かれるところのどちらもいっぺんに想像して、勝手に心臓をうるさくしていました。

 でもそんなことにはなりませんでした。その日の晩には、私と同じ夜伽用のセクシーなベビードールを着せられて部屋に少年が──冴が呼ばれたけれど、彼は入室するや否や儚げで口数の少ない雰囲気を一変。

 部屋の壁にかかっていた躾用の鞭を手にとるとベッドの上で私の体を触っていたおじ様を見事な足払いと共に床に転がし、突然の事態に呆然とする私にシーツをさっと被せ、そこから先はめくるめく調教の光景……。

 私は、あの偉ぶったおじ様が体液という体液を全身から撒き散らして「女王様」と絶叫する瞬間を初めて見ました。

 絶対零度の眼差しでおじ様をゴミの如くに甚振る冴の姿は、さながら神様か悪魔に選ばれたような凄絶な美しさがありました。


 その日の内におじ様は冴のマゾ犬と化し、入れ替わりに私は普段から服を着ても許される人間になりました。

 警察に通報しても下っ端で揉み消されるって聞いていたのに、冴がお屋敷の電話から通報すると何故かすぐ警察の偉い方に話が行って、おじ様は逮捕されました。

 冴曰く、警察の上のほうにも冴のワンちゃんがいるそうなのです。

 どんな人生をおくっていたらそんなことになるんだろう。私は自分のことを棚に上げて震撼したのを今でも覚えています。


 ……今ですか?

 ご覧の通りですよ、パパもママも私を売ったお金で海外に高飛びしちゃってて見つからないし、事情も事情で普通の養護施設にも入れないからって、冴の紹介でルナ様が私のことを引き受けて下さったんです。

 冴を見ていてもドキドキしましたが、ルナ様を見ているとそれとはまた違ったドキドキが私を襲って……。お恥ずかしながら初恋です。

 体でしかお礼もできませんし、ルナ様には一応まだ残っていると言えなくもない私の処女をお捧げしたかったのですが、仔猫にはまだ早いと未だ操を散らしては頂けていませんね。

 でも幸せです。成人したら抱いて頂けるのは周りの先輩がたを見ていたらわかりますし、その先輩がたもパパやママの何十倍だって優しいですし、愛してくれますから。

 私、もう愛になんて飢えてません。死にたいなんて思ってません。毎日が楽しくて、年をとるのも待ち遠しくて、産まれてきて良かったなって笑顔で言い切れます。


 ……1つだけ不満があるとすれば、大好きな冴が大好きなルナ様とは一緒に暮らしていないことですね。

 他の猫仲間たちもみんな不思議がってにゃーにゃー鳴いて首を傾げてます。あんなに素敵な2人なんだからくっ付けば良いのに。冴なら私達のハーレムのトップに立ったって誰も文句なんて言いませんよ。

 まあ、冴はまだまだ若いですからね。踏ん切りがつかないこともあるでしょうし、今日も遊びに来てくれるってルナ様が言ってるから私達でまたハーレム入りを打診しましょう!

 だってハーレムの皆が私に与えてくれたネコヤナギの花言葉は『努力は報われる』。

 いつか愛しい2人がハーレムの王と女王として熱い口付けをかわすのを見られるその日まで、私は決して諦めないのです!

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