とある島での出来事〜前編〜

とある島での出来事〜前編〜




ここはとある政府非加盟国の島。

所々に荒れ果てたガレキが散らばる、おおよそ平和とは言えないこの国。

ルフィ達とともに滞在してた私は、とある事件に巻き込まれていた。



ウタ「はぁっ……!はぁっ……!!」


「逃がすな!追えェ!!」

「あいつ能力者のはずだろ!?なんで海楼石の捕縛錠着けて動けるんだよ!?」

「知るか馬鹿野郎!!純度の低い粗悪品掴まされたんじゃねェのか!!?」



……完全に油断した。

私を追いかけてくるあいつらは、この島で人身売買を生業としてる人攫い。


天上金を払えず、海軍に守ってもらうことすら出来ないこの国では、ある種黙認という形で誘拐や人身売買が横行していた。


その現場を目撃した私は、たまらず助けるためにウタウタの力で場を制圧した。

誘拐された子達は逃がせたものの、後から来た奴らの仲間に海楼石の錠を取り付けられ、この有様だ。

海楼石の純度が低いせいか、逃げられる程度に十分体を動かすことが出来たのは不幸中の幸いだった。




「……くそっ!!見失ったじゃねェか!!」

「あのナリで遠くに行けるはずねェ!手分けして探すぞ!」

「あの『ウタ』を捕まえたとなりゃ、莫大な報酬が手に入る……!お前ら!!絶対に逃すなよ!!!!!」



.......ひとまず奴らの目は掻い潜れたようだ。でもここでまごついていては、見つかるのも時間の問題。


私の腰に付けられた海楼石の錠は、腰回りを埋め尽くす程の、無骨で大きなものだった。

本来なら肩と胸周りを捕縛して、上半身の自由を完全に奪うためのものなんだろう。

咄嗟に狙いを逸らさなければ、あのまま腕ごと拘束され、私はあのまま捕まってしまったかもしれない。



ウタ「……あの子たち、無事に逃げられたかな…」



……この状況に陥ってしまった事に、後悔はしていない。

私があの時助けなければ、子供たちはあのまま誘拐され、奴隷にされ、酷い目に合わされていた事だろう。


────弱者が徹底的に搾取される現実。

……私が、何よりも耐え難い光景だった。




ウタ「ひとまず、ほとぼりが冷めるまで身を隠さないと……」


幸い逃げ込んだ先は人の気配も無い。

ガレキに塗れた廃墟のような所であったので、身を隠すには十分な所であった。

建物の中に入ってしまえば、外から見つかる心配はないだろう。




最悪な状況を免れて安心したのか、

更に安全な場所を求めようとしてしまったからなのか、



……奥の方へ隠れようと、

建物の狭い穴を通ろうとしたことを、

私はすぐ後悔することになる。







ガコッ




ウタ「……えっ!?」




本来なら成人女性1人が通るには、十分な大きさの穴であった。だが腰に付けられた海楼石の錠が、そこを通ることを許さなかった。

不規則な形に空いた穴と、歪な加工を施された海楼石の錠の形が最悪の形で噛み合ってしまい、壁の穴に見事なまでにハマりこんでしまった。



ウタ「嘘っ!?嘘!?やだっ!なんでっ……このっ……!抜けてっ.......!抜けてよぉ……っ!!」



力が入りにくい体勢な上、微弱ながらも海楼石に侵された体とあっては、ろくに力も入らない。

この状況を自力で脱出するのは不可能だった。



ウタ「…………どうしよう。」



どれだけ暴れても錠はビクともしない。

これ以上騒げば、今も探しているだろう人攫い達に見つかってしまう可能性も無視できない。




……今の私には、仲間の助けを待つ他なかった。










───────────









────事件が起きたのは白昼堂々。太陽が1番天辺へ登り、白く眩い輝きでこの世界を照らし出すお昼頃。

その太陽が今は、瓦礫の隙間から赤く、橙色に差し込んで来る。

.......1日の終わりを告げる光が、私の不安と、寂しさを助長させる。



ウタ「お願い…………ルフィ……みんな…………気付いて…….......!!」



ルフィを筆頭に、人の気配を感じ取ることが出来る「見聞色の覇気」に優れた仲間がいる。その事を希望に私はじっと待ち続けた。


……いや、そうすることしか出来なかった。

大声で助けを呼べば、近くにいるルフィ達が気づいてくれるかもしれない。


だが周りの状況が一切分からない。人攫いの仲間がまだ近くにいる可能性も捨てきれず、迂闊な行動は出来ない。

あいつらに見つかってしまったら一巻の終わりだからだ。




……自分の無力さに目を滲ませる。1人では、こうも何も出来ないものなのかと。










─────────────










……あれからどれだけ時間が経っただろう。

既に陽の光は差し込まなくなり、この一帯は完全に宵闇に包まれてしまった。

ここは居住区から、はるか遠く離れた廃墟の地。人の生活圏から発せられる光すら僅かにでも届かない、真の暗闇。


寂しさで支配されていたエレジアで暮らしてた時ですら、蝋燭の灯火があった。ゴードンだっていてくれた。


…………でも、ここには何も無い。


星の光も届かない

闇に閉ざされた

誰もいない

ひとりぼっちの世界



ウタ「………グスッ…………ひぐっ…………!ふぅぅ…………えぐっ…………!……ぅっ…ぅぇぇっ…………!」



ウタワールドへ逃げたかった。

でも取り付けられた海楼石の錠が、ウタウタの力を使う事を許さなかった。



大声で泣きたかった。叫びたかった。

でもこんな静寂の常闇では、敵に場所を知らせてしまう。



だから口を塞いで、必死に堪えようとした。


でも堪えきれないほどに


恐怖と


不安と


寂しさと


悲しみが


心の底から、洪水のように溢れかえってきた









ウタ「助けてぇ…………!お願い………!!早く……助けてよぉ…………っ!!!

ルフィっ……!!!

みんなぁ………………っ!!!」







思わず漏れだしてしまった感情の吐露。

咄嗟に手で口を覆ったが、既にその声は周囲に響き渡った後である。



人攫いが近くにいたら?


その上ルフィたちが近くにいなかったら?



ひとたびボタンをかけ違えれば、最悪の一手になりうる行為。


今1度、辺りが静寂に包まれる。
















………………タッタッタッタッ……………………











だれかくる



明らかにこちらに向かってくる足音



心臓の鼓動が速くなる



呼吸の息遣いも荒くなる



希望を覆い尽くしてしまうような後悔と絶望



なにもかも悪い想像をしてしまう



おねがい



やめて



やめてください



どうか


おねがいします.......!




















「…………………………ウタ!?ウタ!!!やっと見つけた!!!!」













─────なんども聞いた、聞き覚えのある声。


何度も何度も私を助けてくれた、優しい声。


この宵闇を照らす太陽のように、暖かい声。






あのルフィが


私の目の前に


.......来てくれた









ウタ「ぁ…………あ……………………」



ルフィ「ずっと探してたんだぞお前!!人攫いぶっ飛ばしたらお前の事話しててよ!あの街んとこ探してても全然見つかんねェし、おれ心配で心配で……!大丈夫か!?どこも怪我してね……」






ウタ「ル゛フィ…………っ!!!



うわああああああぁぁぁん!!!ルフィ!!

ル゛フィ!!!うあああぁぁぁぁぁぁ……

………………!」


ルフィ「うわっ!!?……」





ルフィ「…………………………」






ルフィ「………………ごめんな。すぐ見つけてやれなくて。………………辛かったよな。」




思わず溢れ出した声と涙。

まるで子供のように、見るも耐えない泣きじゃくり方をしてしまう。


……でもルフィは、おくびも出さず、優しく抱きしめてくれた。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜








ルフィ「……そうか、そいつらを助けてあげたんだな。立派じゃねェかウタ。」


ウタ「そんな事ない……結局わたし1人じゃ、逃げるのが精一杯で……

.......ルフィたちにも、迷惑を.............」


ルフィ「んなこと気にすんな!こうして無事会えたんだ、お前が気に病むことはねェよ!にしし!」




ルフィ「……さて、この状況をどうすっかだなァ。おれが触っても平気なくらい弱ェ海楼石みてェだけど、簡単に壊せるほど脆くはねェみたいだし……。

かと言って下手に壁壊すと、建物崩れるかもしんねェな……」



ウタ「うん……」



ルフィ「見たとこ鍵穴はあるみてェだし、こじ開けりゃあ外すことは出来そうだな……


うし!フランキーかウソップ呼んできてやるよ!それまで待っててくれウタ!」






ルフィの言っている事が正しい。


実際力ずくでどうにかできる状況では無い。仲間を呼んできて、助けて貰う方がずっと早いはずなのだ。


私にもそれは理解出来ている






──────ガシッ



ルフィ「え?」








…………でもわたしは、


またルフィがここから離れる事を





堪えることが、出来なかった








ウタ「やだぁ…!!行かないでよルフィ…!

ここ暗いの……!寂しいの……!!もうひとりぼっちはやだよぉ……!!お願い……!!

.............1人にしないでよルフィ…......…!」





……私はいつからこんなに弱くなったのだろう


昔なら1人で待つことくらい、平気だったはずなのに


一瞬でも、この暗闇の中でまた1人に戻る事が、あまりにも怖かった。








そんな縋る私の手を、ルフィは優しく握り返してくれる




ルフィ「…………わかった、ずっとここにいる。お前を1人になんかさせねェよ。」



ウタ「ありがとう…………グスッ……

ごめん……ごめんねルフィ…………」


ルフィ「謝んなって!まァ、ウソップなら直に見つけてくれるだろ。心配すんな!」







我ながら、自分のことを情けなく思う。


私を探しているのはルフィだけじゃない、

ルフィの仲間が全員で、総出で私を探してくれているはずなのだ。


なのに私は助けに来たルフィを引き止めて、この暗闇の中で彼を独占しようとしてしまっている。

暖かいこの温もりを、少しでも間ですらも、手放したくはなかったから。







……そして自分の事を、卑しくも思う。


ルフィから与えられた無償の温もりを、

欲深く今以上に、

……更に欲するようになってしまったから。









ウタ「…………ねぇ、ルフィ……」


ルフィ「なんだ?」


ウタ「…………………………ちゅーして」


ルフィ「……いいぞ」




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