とある子供の追憶
「俺たち」という存在が発生したのはまだあの人に拾われる前、暗闇の中で眠っていた頃の話だ。
生まれることすら出来なかった水子の魂の集合体、それが「俺たち」という存在だった。尸魂界のそういう存在が集まって「何か」が核になった物。最初はそういう存在だったのだ。
暗闇にいた時のことはあまり覚えていない。それは暗闇の中がどこか母胎の中を感じさせるような暖かさを秘めていたからだろうか。
それが終わったのは唐突だった。
「そんな暗い所におらんでこっちに来ィ」
声とともにキラキラとした物が空から降ってくる。キレイなものだと思ってそれを思わず掴んだ。
「きれいだね、キラキラしてる。」俺たちが笑う。光を帯びてキラキラしたそれは強く掴まないと手の中から滑り落ちてしまいそうだった。
手に力を入れて滑り落ちないようにする。
すると、「ちょいと抱えるで」という言葉と共に「俺たち」は何かに包まれて上に引っ張られた。
「なんだろう」「なんだろうね」「どこ行くの?」「俺たち」の声も抱えた人からは分からないようだった。
「平子隊長」とその人を呼ぶ声がする。
「ひらこたいちょう、だっておれをすくってくれたひとのなまえ!」「なまえってなに?」「わたしわからない」「ぼくもわからない」「あたし、しってる!」「俺たち」がザワザワし始める。生まれることの出来なかった水子と言っても生まれることを望まれたが生まれることが出来なかった子と生まれることすら望まれなかった子とでは多少とはいえ持ってる知識に違いがある。前者であっただろう「俺」が「なまえっていうのはね…」と説明をしていると”平子隊長“の声がする。「子供拾うてん」その言葉に説明していた「俺」の声が止まり、再び「俺たち」が騒ぎ始める。
その声は、今思えばくすぐったいような柔な形をしていた。
”平子隊長“は太陽みたいな人だ。「俺たち」が暗闇にいても、いつもキラキラ光っている。キラキラしたそれを掴んでも、窘めることはしても強く怒鳴ったりすることは無い。構われることが楽しくてわざと強く掴んでいることには気づいていないようだった。
その陽だまりはあまりに暖かくて、眩しくてポカポカする。「俺たち」がその人を好きになるのに時間が掛からなかった。たとえ「迎え」が来たとしてもこの人を選ぼう、そう意見が一致する位には。
その気持ちがいっそう強くなったのは「名前」をつけてくれたその日のことだ。いつものようにキラキラを掴んで遊んでいると、その人は「俺たち」を掬いあげて「名前」を付けてくれた。「なまえっていうのはね、だいすきのかたちなのよ!」とは「俺たち」の言葉だ。この暖かくてポカポカした気持ちが大好きという感情ならば、この人も同じ感情を抱いてくれているのだろうか。そう考えたら嬉しくなって目の前のキラキラを掴んだ。
それが「俺たち」が俺という1人になった瞬間だった。