とある医者の話

とある医者の話



私が医者を目指したのは金が欲しかった、それだけだ。

こんな乱れた世の中で安定して稼げる仕事であって、怪我人も病人も尽きることはないのなら何処までも稼げるだろうと思っていた。

勉強をしてどれだけ技術を積み上げて行っても変わらなかった。


そうして順当に進学し試験に挑み…順当に医者へとなった。

そして…私は……人をはじめて助けられた時は本当に嬉しかった。


それだけで…劇的な何かもなくたった一回「ありがとう」と言われたことで私は医者を続けて行きたいと思うようになり、人を救けたいと願うようになったんだ。


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私はきっと人を救けるために…


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また一人救けられなかった。


ありきたりな交通事故だった。

後、ほんの少し速く着けば助かるような事故だった。


偶然起こったヒーローとヴィランの戦いでほんの少しだけ遅れた。


……きっと誰も悪くはなかった。


でも私の手が触れる躰は冷たかった。


もちろん今までに助けられた人はいる、それでも自分の中で助けられなかった人が大きくなっていくのを感じる。


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私は人を救けて…


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また救けられなかった。


怪物の暴れた災害のような跡で私は救命活動をしていた。

トリアージ。私は命を…より多くの命を救けるための判断をした。


間違ってはいなかった。

誰もきっと。最善だった。


……何もかもが足りていない。

もっと…


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もう疲れた、いや私は人を救けるために…


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また救けられなかった。


あるヒーローとヴィランの戦いの果て。

両者ともが病院に搬送され治療を行った。


そして……片方は死んだ。

治療が間に合わなかった。


生き残った彼に話を聞いた。

生き残る気力を出してもらうためにも話を聞いた。


………最初は彼はただ生きるのに必死だっただけだった。

それでも…治療は果たされ生き延びて……そして世間の声によって死んだ。


私は何も出来なかった。


………誰も悪くはなかった。

悪いのはきっと…巡り合わせだけだ。

……………もしほんの少し運命の歯車が優しい方へと噛み合っていれば…


いや、仮定の話に意味はない。

事実はただ一つ私は何も救けることは出来なかった。

ただの医者でしかない私には。


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私は…弱者でしかない…だから当たり前に救えるモノしか……

いやまだだそれでも救け合えればきっと……


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私はようやく救けることが出来たのだ。


私の元へとやってきた彼女。

全てを諦め切った、死病に侵され、余命幾許もないという患者で…医者として失格だが…それ故に儚く、美しささえあった。


そんな彼女を私は…いいや私たちは!

力を合わせ、新しい術式やようやく実用化された新薬を使い…

私たちは…奇跡を掴んだ。


コレは奇跡だ。可能性に賭けたが掴めるとは誰も断言が出来なかった。

それでも最善を尽くしてようやく掴めた。


退院も近い!

……退院祝いには何か渡してみるのもいいかもしれない!

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ああ…そうだ私は誰かの笑顔が……


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彼女は死んだ。自殺だった。

どうやら闘病生活で心を病んでたらしい。


誰もそれに気づけなかった。


この世界を生きる時間が増えた所でそれは彼女にとって絶望をより色濃くしてしまっただけらしい。

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……ああ…私はもう疲れた。

いいや、まだだ今度は人の心も救う方法を……


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また私は失敗を積み重ねていく。


また誰かが死んでいく。

誰もきっと悪くない。

タイミングが合えば救けられた。


また誰かが死んでいく。

誰もきっと悪くない。

あと少し薬が現場にあれば救けられた。


また誰かが死んでいく。

誰もきっと悪くない。

その貧しさゆえに治療が間に合わない。


また誰かが死んでいく。

誰もきっと悪くない。

……その心を癒せれば……




また誰かが死んでいく

それは歪んでいる世界が悪い





なら…もし世界を人に優しく変えることが出来たのなら、

それは…きっと…

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