ちいさなサプライズ

ちいさなサプライズ

ナイショ話やハロウィンなど書いた人


・コラさん生存3人旅√


 ここ最近、ルカがなんだかそわそわしている。

 弟のどこか浮き足立って落ち着かない様子を見て、ローはそう感じていた。緩みがちな表情からして不安から来るものではないようで、むしろ嬉しそうな雰囲気だ。

 コラソンもなんとなくそれを感じているのか「最近ルカはご機嫌だなぁ」と能天気に笑っている。そんな彼が着てるシャツの裾を、ルカがちょいちょいと引っ張った。


「どうした?ルカ」


 見下ろしてくるコラソンによく見えるようにと、筆談用のノートが掲げられた。


【次の島にあとどれくらいで着く?】

「もう島の影が近くなってきたからなぁ、だいたい1時間くらいで着くんじゃねぇか?」

【わかった!】


 答えを聞いて満足そうに頷いたルカは、少しずつ大きくなっていく島の姿に目をキラキラ輝かせていた。


「何か楽しみなことでもあるのか?」


 試しにローが聞いてみると、ルカは【ナイショ!】と記した紙面をこちらに見せてきた。そして唇の前に人差し指を立てて、にぱっと無邪気な笑顔を浮かべた。


 それから1時間後、何事もなく島に到着。まばらに漁船が停まる小さな港に船をつけて、3人は上陸した。辺りを見渡すと、いかにものどかな港町といった風景だ。

 珍しくルカが急かすように先を歩くので、ローやコラソンはそのあとをついていく。やがて物陰で立ち止まると、くるりと振り返ってローたちに笑いかけた。


「兄さま!コラさん!ぼく、喋れるようになったよ!」


 数秒、静けさが訪れた。クゥクゥとカモメの鳴き声がその場を通り過ぎていく。

 ローとコラソンは揃って目を丸く見開いてぽかんとした表情で固まっていた。不意にコラソンがルカの方へ歩み寄ろうとして……ずっこけた。その衝撃により、ローは正気に戻った。


「ルカ……!今の声……!!」

「うん、ぼくの声だよ……わッ!?」


 気づけば、ローは弟を抱きしめていた。


「……よかった」


 掠れるようなささやきが、ローの唇からこぼれた。


「おれの悪魔の実の能力でも、お前の声を戻してやれなかったのが……悔しくて……!もしかしたらずっとこのまま戻らないんじゃないかって、不安だった……!!だけど……ほんとに゛、ッ喋れるようになってよかっ゛だ……!!!」


 肩口に顔を埋めたまま徐々に涙声になっていく兄の背中を、ルカはぎゅっと抱き返した。


「うん……兄さま。今まで心配かけてごめんね、ありがとう」

「〜〜〜〜〜〜ッ!」


 ルカは肩のあたりがさらに濡れていくのを感じたが、口に出すことはしなかった。なんせローはどんな時でも、気弱なルカが不安がらないように毅然とした態度を崩すまいと頑張ってくれた。そんな兄が泣いてることをわざわざ指摘するなんて、野暮だろう。

 そうして兄弟が抱きしめあっていると、さらにコラソンの長い腕が二人を包み込んだ。


「ル゛カ゛〜〜〜〜ッ!!お前、お前ェ〜〜〜〜!声、出るよう゛になっでよ゛か゛っ゛だな゛ァ!!!」


 顔中涙でぐしゃぐしゃにして、鼻水まで垂らして。目元の化粧も少し流れ落ちていた。全力で喜んでくれているのは分かるが、酷いことになっているコラソンの顔面にローとルカは思わず吹き出した。


「ぶはっ!?コラさん、なんつー顔してんだよ……ッ!!」

「こ、コラさん……ッ!!んふッ、顔、凄いぐちゃぐちゃ……!!」


 くすくすと漏れた笑い声は伝播して、やがて三人とも笑顔を浮かべていた。

「で、いつから話せるようになったんだよ」

「三日前だったと思う」


 ひとしきり3人は喜んだあと、お祝いしようということで町にあった大衆向けな雰囲気のレストランに入った。注文した食事を待っている間、ローからの質問へさらっと告げられた答えにコラソンは「えぇッ!?」と驚嘆の声を上げた。


「そんなに前から!?じゃあその時に言ってくれよ!」

「だって船の上で言ったら、コラさん驚いて海に落ちちゃいそうだから……」

「ああ、それは確かに」


 その理由に、ローは納得して頷いた。コラソンのドジっ子具合の酷さは本人を含め全員がよく知っている。間違いなく船から落ちるか、何かしら致命的なことをやらかすだろうと言う確信が3人の中にあった。


「くっ、否定できねェ……!それでも、もっと早く聞きたかったよおれは……」


 テーブルに突っ伏して悔しがるコラソンの頭に、そっと手が添えられた。何かと思って顔を少し上げると、ルカがふわふわした金髪を優しくかき混ぜるように撫でていた。申し訳なさそうに、少し眉を下げながら。


「ごめんね、待たせちゃった分はこれからいっぱい聞かせてあげるから……だめかな?」

「ダメじゃねえ……!!」


 そんなことをあざとく小首を傾げて言われ、コラソンはあっさり陥落した。一連のやりとりを眺めていたローは、歯にものが挟まったような複雑な表情で弟の横顔を見つめる。


「ルカ、お前……愛嬌使いこなし始めたな……」

「……てへへ」


 兄からの指摘に、ルカはちょっぴり頬を染めてはにかみ笑いを浮かべた。


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