ただ一夜だけ

ただ一夜だけ


 ずっと人間が憎かった。それを愛する妻の気持ちが理解できなかった。

 それでも、うつくしいものを見たのだ。

 己を裏切ったのはただ一度だけ。その一度さえ頭を下げたこの誠実さをうつくしいと言わずして何と言う。

 たった一晩だけの小さな宴会。己と、この男と、釣瓶火だけが知っている上等な酒を囲んだ一夜。

 己の命も顧みず、己を愛したもののために涙を流し、果てには己を守るものすら我が妻のためになげうって妻と我が子を守り抜いたこの男の未来が見たかった。

 あゝ朋よ 君を泣く 君死にたまふ事勿れ




 願わくば、あの夜をもう一度と夢に見る

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