それはもはや読めないけれど

それはもはや読めないけれど


ようやく見つけた。あの日失ったはずの彼女を追いかけるルフィ。存外早く視界に捉える事は出来た。何か彼女は時折頭を押さえふらつき、転ぶ。

何故そこまでして自分達から離れようとするのかがルフィにはわからない。それでも後少し、あと少しで…というとろでルフィに見えた彼女の行先が見えて慌てて叫んだ


「!!おいダメだ!そっちは…ウタ!!」


しかし声の届かない彼女は、蔓で塞いでいた柵に引っかかり、そのまま転がる様に滝へと落ちていった。


「ウタ!!ウタ!!」


慌てて自分も飛びおりる。風でフードが脱げて、懐かしい赤と白が宙を舞う。ああ、やっぱりアイツだ。なのにどうして、またお別れしなきゃいけないのかとルフィは腕を伸ばす。頼む。掴んでくれ…


「……」


うっすら目を開けて、自分を見る彼女、手を伸ばしている様だが、ほんのあと少しが足りない。このままじゃ滝に落ちる…

その時


「!?」


崖にうつる彼女の影から2枚のボロボロの紙切れが飛び出て、黒い音符を彼女の下に展開する…が、まるで止めるには至らずそのまま、また泡の様にそれは散った。

アレがどういうものか忘れたルフィではないが、間違いなく落下の勢いは少しだけ落ちた。その腕は、今度こそ彼女に届いた。


「ウタ!おい、しっかりしろ!!」


そのあと反対の腕で陸地に着地したルフィはウタに呼びかけるが、グッタリとした彼女はなんの反応も示さない…それどころか


「あちぃ…!!ナミが病気になった時みてえだ…!!」


酷い高熱、弱くなる呼吸…あちこちにある決して小さくない傷…

間違いなく、命の危機と言っていい程の衰弱を彼女はしていた。どうすれば…と嘆くルフィの視界の隅にそれは現れた。


「!!お前…!…それ」


あの後、そのまま滝に濡れたか、びしゃびしゃのその楽譜…というにはあまりに無惨な姿の2枚はその身を這いずる様にウタに近寄る。うち一枚は、まるで焼けた様に半分が既に存在していなかった。

あまりの異様な姿に、思わず、ルフィは警戒さえ出来なかったが、その半分ほど焼け焦げた方がウタの手に触れ…そのままジッと、まるで持ち主の生命力がきれたビブルカードの様に燃え尽きた。


「は、え、燃え……!」


混乱するルフィは、気付く、ウタの顔色が少しだけ落ち着いている。呼吸も…

たった一枚になった楽譜に、ルフィは目を向けた。


「おまえ……ってええ!?おまえも端から燃えかけてるぞ!?」


まさか、と思った仮説だったがそれならばと口を開くが、その最後の一枚まで、端からジリジリと焦げ始めている。


「〜ッ!ああもう!いくぞ!!」


分からない事だらけだが、ルフィは楽譜も掴み、ウタを背負って駆け出した。大丈夫だ。ウチの船医は優秀だ。きっとウタを助けてくれる。

今度こそ、今度こそ…


「絶対、絶対次こそ死なぜる゛か!!」

「やっど、や゛っど…!!ちゃん゛ど会え゛だんだ!」


ボロボロと涙を流して、駆ける。後ろのウタを気遣いながらも出せる最大速度で…


「だから、ウ゛タ゛…!!お前も゛、諦めんな゛…!!助かるがら゛!!」


思わず手に力が入り、クシャ、と楽譜に皺が入る。

だが、その楽譜は特に抵抗はしない。


【なんだ…アンタも寂しかったんだね…】


隅からジリジリと焼けるたった一枚になったソレを、もう誰も楽譜とは呼ばないだろう。焦げて、水でぐちゃぐちゃで…しわくちゃで……だがそれでもそれは、側に在る事にした。

毒に倒れ、獣に襲われ、熱に伏せる

あまりに儚い、歌い手の側に

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