それはとても馬鹿みたいな、

それはとても馬鹿みたいな、






【閲覧注意】

・キャラ崩壊

・解釈違い注意

・アオキオモダカの過去捏造及びややR指定の話(直接描写なし)注意!





私の初体験は、常に間違いのように終わってしまう。


「……今のは」

「……すいません。魔が差しました」


学生時代。

宝探し中に時折戦う同級生のトレーナー。

突然の天候の都合で彼と洞窟でのビバーク中に、私のファーストキスは奪われた。

何処となく生温い、見知らぬ他人の温度。ほんの一瞬だけの触れ合い。ままごとみたいなキスをした張本人は、嫌がらないんですか。と淡々と私に問い掛けた。私が嫌がって欲しかったのですか?と、同じぐらい平坦に返せば彼は少しだけ眉を顰めた様子だった。

今更ながらではあるが、これはとても良くない分岐点で、ここで私は呆けてなければもっと正しい今や未来が舗装されたのかもしれない。そう感じる。

しかし、それは今でこそつい思ってしまうだけで、当時の私には彼の奇行はあまり不意打ち過ぎた。正直、彼の行動に嫌悪も好意もなかった。交通事故、あるいは天災に遭ったようなものだし、まあ彼が望んだことならば、別に然程悪いことではないだろう。そう思ったのだ。彼は私の様子に眉を顰めたまま、そのまま再び唇を重ねた。ついぞ私に何も言うことなく。私のセカンドキスだった。


それから彼は私と2人だけの時、キスを何度もする様になった。

私達はアカデミーで同じクラスではあったが、普段行動を共にすることはなかった。

ただ時折。古ぼけた旧図書館の隅や、深夜の家庭科室など。2人きりになったタイミングで、彼は私に触れ合いを求めた。手を絡ませ、肌を寄せて。何度目かのキスで彼に舌を入れられ、少しずつ触れ合う範囲がじわじわと広がった。


私にとって彼はよく分からない男だった。

人付き合いは然程得意ではないが、人嫌いではない。運動は然程好きではなさそうだが、運動神経は素晴らしい。ポケモンは好きそうだ。育てることも。戦うことも。おそらく。

しかし。好きなことですら何かとやる気というか覇気というか、結論から言うと向上心全般があらゆることに欠けていた。しかし彼は天才肌だった。大体のことはそれこそポケモン以外のことでも卒なくこなしてしまう。昔から基本的には不器用な私としては、彼のその姿勢はとてもやるせ無いというか、幼い私なら尚のこと憤慨する相手だった。私は彼と会う度にポケモンバトルを挑んだ。戦績は五分ではなく、どちらかといえば彼の方が良かった。彼は常日頃から鬱陶しそうな表情ばかり私によく見せた。しかし最後にはいつも私に付き合ってくれた。


「ーーーっ、あ」

「……………。すいません。魔が差しました。オモダカ」


再びその台詞を耳にしたのはきっかり1年後の宝探し中。

これまた大雨を凌ぐため、入った洞窟の先客が彼で、ほぼほぼ同じ台詞を吐かれながら私は敷いたブランケットに押し倒されて告げられた。

そのままティーン半ばになったばかりの私は彼とこのまま初体験を済ませてしまう訳だが、これがまた酷かった。彼は歳の割には大柄で私はとても小柄だったので、負担が大きいし痛みも出血も酷いし涙が止まらなかった。それなのに彼ときたら私の不様な泣き顔に何を見出したのか全く止まらないし、しかも次第にコツが分かったのか私を快楽につき落とすよう何度も愛撫を繰り返して徹底的に尊厳破壊を画策した。

私はその日最終的に喉を痛め声を枯らした。腰も大層痛めた。

当然。まともに身動きも取れなかったので、大雨が止んだ後私は不承不承彼におぶってもらいアカデミーに帰った。

彼は「あなたはもう少し肉付きが良い方が良いと思います。正直折れそうでやりにくかったです」と平気でのたまうので私は後日相棒で奇襲を仕掛けた。

バトルは私が勝った。


そんなバトルしたりキスしたりセックスしたりの爛れているのか一周回って健全なのかよく分からない奇妙な関係が2年ほど続いたが、突然終わりを迎えた。

彼は両親の仕事の関係で、地元のカントー地方に戻ることになったのだ。

彼の男友達やクラスメイト達が彼との別れを惜しむ中、私は何も言えなかった。

ただその日の夜。彼を誰もいないグラウンドに呼び出した。


6VS6のフルバトル。

勝者はいなかった。彼のムクホークと私のキラフロルは同時に倒れた。

勝ったら言うつもりだったことは言えず。

負けたら聞くはずだったことも聞けず。

私と彼の関係は、結局のところ何も成すことなく。ここで一度分たれたのだ。





「……………。と言った感じですね。私のファーストキス並びに初体験その他諸々は。相手が全部同じ人間のため流れで全てお話しましたが……」


シーーン。

深夜の宝食堂。どんちゃん騒ぎのを飲み会において。

先程までアルコールに巻かれ誰も彼も盛り上がっていたジムリーダー及び四天王…ポピーは帰宅しているが…達が一斉に静まり返っている。

沈黙が重苦しく、永遠と錯覚するぐらい場を支配する。宴会の筈なのに、まるで葬儀のようですねとオモダカはぼんやり思った。


「………申し訳ありません。皆様のその反応…盛り上がりに欠ける内容でしたね」

「い、いやーアハハ!き、聞いたのはボクだからそこは気にしなくて良いんだけど…ケド…」


ナンジャモが明後日の方向にコイルごと目線をキョロキョロさせている。仕組みがよく分からないが技術的には目を見張るものがあるとオモダカは内心感心した。

誰も彼も微妙な顔をしてオモダカから目を逸らす中、いつの間にかオモダカの隣に座っていたアオキがはあ…と溜息をつく。


「……何ですかアオキ。これ見よがしに溜息をついて」

「……別に。予想通りの空気になったので呆れてるだけです」

「……ほう。そこまで言うならば貴方はとても素晴らしい恋愛経験の話題を提供できる。そういうことですよね?アオキ」

「……はあ。自分ですか?いや、自分の初体験の話に限るのであれば、それこそ2度手間かと。結局トップの視点違いを話すことになるだけですが、それでも本当に構わないのですか?」

「え」

「えっ」

「えっ」

「ええ…?」


ナンジャモ及びその他のジムリーダー四天王達がぼそぼそとあちらこちらで驚愕の声が上がる。

オモダカは更に周りの雰囲気がガラリと変化したことがよく分からないまま、空気を読めず真っ直ぐアオキに詰め寄る。


「何ですって?アオキまさか貴方あの時初めてだったのですか?」

「……年齢を考えれば普通そうでは?」

「いえあまりに場慣れというか…手つきに迷いがなかったのでてっきり…それでも確かに初体験は大層散々でしたが…」

「………………。結局、その童貞に死ぬ程喘がされたのは他でもない貴女ですけどね」

「お黙りなさい。あの時は…まあ初心でしたからね私。今は別に溺れませんよ、とても理性的に…何ならこちらがリード出来るぐらいで」

「やれもしないことを堂々と言われてもな…今でも結局前戯は下手ですし自分をリード出来るとはとても」


「はーいストップストップ!お二人とも痴話喧嘩はホテルでした方が良いんじゃないカナ!?カナ!?」

「せやでうち口からなんか砂糖吐き出しそう」

「グルーシャさんなんかお二人がお熱くてもう溶けそうですよ〜」

「い、いやそんなことは決して…ぼくもまあ大人だし…」

「マフラーで顔が見えてないぞグルーシャギャルド」

「コルさんの言うとおりですよ。冬ですがここは暖房がよく効いています。これでは熱中症になりかねません。お冷やをどうぞですよ。あとアオキは明日アカデミー美術室に来るように単身で」

「…………なんていうか鳥も食わないって奴かいアンタら」

「それをいうなら犬でしょライムちゃん。……それにしてもゴイスー趣味が悪…いえお互い様ねきっと…リップとってもクリビツ」

「ウォーーー!!!お二人ともお幸せになあ!細やかながらオイラも幸せをお祈りするんだい!」


バタン。

ジムリーダー四天王達からの怒涛の発言のどさくさに紛れて思い切り背中を押され宝食堂から追い出されたオモダカ、とついでにアオキは2人で顔を見合わせる。


「……はあ。トップのせいですよ。まだ自分は出汁巻注文するつもりだったのに」

「……私のせいだけにするのは不公平ですよアオキ。元はと言えば貴方があそこで…」


どうにも今戻るのは難しい。

振り返る間も無く容赦なく閉じられた扉から心なしか『絶対今日は戻ってくるな』の他全員のオーラがひしひしと伝わる。何せ持っていた荷物毎無理矢理追い出されたのだ。これでは腹を括ってもう帰るしかない。

やれやれと大袈裟に肩を落とすアオキをわざと無視して、オモダカは帰路につくべくタクシーを呼ぼうとする。しかし。


「オモダカ」


いつの間にかすぐ背後まで近寄っていたアオキが、頭上から腕を回し、スマホを持つ手ごと包み込むように制した。

あの頃。重ね合わせた掌よりずっと大きくなった彼の手。無骨でささくれた、年齢を重ねて今なお、トレーナーとして前線に立つ者のみが持つ分厚く硬い掌。

平凡に妥協したいアオキにしてみればきっと不満だろうが、オモダカにとって見ればそれは一つの救いだった。

互いに大人になって。

ろくでもないしがらみばかり付き纏って離れないが。それでも変わらないものも少なからずある。


「……何ですか。アオキ」


オモダカは首だけアオキに振り返り問いかけた。

アオキは相変わらず茫洋とした黒灰の瞳で、オモダカと微妙に焦点が合っていない。


「……まさか今からリーグ本部に戻る気ですか?」

「いけませんか?」

「アルコール。結構飲んでたでしょうに」

「生憎酒量はキチンとセーブしています。先程までの足取りも依然軽かったの、ご覧にならなくて?」


ほら、

オモダカがアオキの腕からするりと抜け出して一歩前に踏み出す。

そして、これ見よがしにその場で一回転をした。

金銀の煌きが燦々と差し込まれた青褐の髪が同時に翻る。それはまるでワルツを踊るかのように軽やかに。


しかしアオキの反応は相変わらずだった。

撫然とした表情を微動だにせず、はぁ。と、オモダカの茶目っ気を呆れるように溜息を溢してオモダカを捕えるように同じく一歩踏み出した。

オモダカの手首を、一回りも二回りも大きいアオキの手が、強引に引き留める。

アオキはオモダカの瞳を真っ直ぐ見つめて明確に告げた。


「行かせません。……いい加減観念して帰りますよ」

「……もう。アオキは冷たい人ですね」

「それは。外に居るからでしょう。何せ真冬でコート一枚ですから」

「……まったく、ああいえばこういう。昔から本当、お変わらないこと。……それで。貴方が私の家まで送ってくれるのです?」

「……そこは面倒なので明日…いや今日の昼以降で良いですか。自分のポケモン達も寝てますし……」

「……では。私達も習うべきですよね?貴方の家に着いたら、速やかにシャワーと就寝。異論はあって?アオキ」

「……まあ。今のところは」


……………。気分が変わったら互いに徹夜かもしれませんが。

ボソリと付け加えられたアオキの一言を、オモダカは圧のあるアルカイックスマイルで制した。

アオキの顔色が心なしか青褪めるのを、気分良くオモダカが眺めた後、自然と2人肩を並べて歩き出す。

無言で繁華街を通り抜け、アオキの借家が間も無く迫った頃、オモダカがポツリと小さく呟いた。


「……………。条件次第ではこのまま徹夜しても別に構いませんけどね。明日から連休ですもの。1日堕落して過ごしても、許容範囲です」

「……はあ。ちなみにですがその条件とは?また仕事の追加ですか?」

「まあ、随分食いつきが早いこと。……条件なんて、そんなの決まってるでしょう?」


オモダカはボールを構えるように胸の前で空を握り、臨戦態勢を取る。

オモダカのおねだりを即座に理解したアオキは、暫くの長考を挟んだ後にポケモン達の調整期間1日先に下さいと一言付け加えた。



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