その祈りを背負うもの Side:ウタ その2

その祈りを背負うもの Side:ウタ その2


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「あのガキを見つけたぞ!! 妙な術を使いやがって!!」


「”歌姫”もここにいるな!? 纏めてぶっ殺してやる!!!」


ウタの歌が始まって少し経ち、百獣海賊団が次々とステージ前へと集まっていく。

ただでさえ目立つ場所で歌を歌うなどという行為をしているのだ。更に百獣海賊団にウタの持つ”ウタウタの実”の危険性は知れ渡っている。

一刻も早くその歌を止めさせねばならない。そしてステージで叫んだ小娘も殺してやろう。


百獣海賊団から迸る殺意を浴び、ウソップは叫ぶ。


「おわー!!? 死ぬ死ぬ死ぬーっ!!!?」


予想していたことだが集まってきた敵の数が多すぎる。こんな数の敵を相手にできるほど自分は強くないぞ畜生と心の中で泣き言を漏らす。

それでも武器を構え、迎撃の姿勢を取り続ける。


一人か二人……いや十人くらい撃ち漏らしそうだが、ここを通すわけにはいかないのだ。

仲間が、ウタが必死に歌っているのだから。


「お玉隠れてて!! ゼウス、ぶっ放すわよ!!!」


お玉を逃がし、改めて構えるナミ。先ほどのうるティと違い、敵に味方が捕らえられていることもない。

これならばゼウスも思いっきり暴れられるだろうとナミは”天候棒”を振るい、中に宿るゼウスを呼び出した。


「ごめんナミ…ちょっとだけ休憩させて…すぐ戻るから…」


「この肝心な時に何やってんのよあんたァ!!!」


先ほどのうるティを撃破した”雷霆”に力をかなり持っていかれたのだろう。小さな雷雲程度の大きさで出てきたゼウスにナミは悲鳴のように叫ぶ。

流石にこの人数をウソップと二人で捌き切れると言えるほど自分の力に自惚れてはいない。背中にはウタとお玉がいるのに。っていうか力使いすぎでしょうがこのおバカ。


ナミ達へ百獣海賊団が殺到する。これは生き残るのも大変かもしれないと二人が覚悟を決めたその時、


「ご主人様に手を出すなァ!!!」


『ギャボー!!?』


お玉の能力によって味方化した「ギフターズ」の面々が到着し、百獣海賊団を蹴散らしていった。


「ダイフゴー君!! みんな!!」


自分のお友達になった者達が救ってくれたことにお玉は顔を綻ばせる。

しかしすぐに何かを決意したように顔を引き締める。


守ってくれたことは嬉しい。でも今ここにはもっと守るべき存在がいる。

「ワノ国」のために必死に戦ってくれている皆。そんな人たちを勇気づける強い人がここにはいる。


「おウタちゃんを、守ってけろー!!!」


『お安いご用だご主人様ァ!!!』


お玉の叫びに「ギフターズ」は逡巡なく頷き防衛の構えを取り始める。

人造とはいえ”悪魔の実”を食した者達だ。これで幹部級ならばともかく有象無象の雑兵程度がウタに近付くことは不可能になっただろう。


災難が去ったことにホッと一息ついたウソップはすぐさまお玉を抱え上げ、ウタに向かって叫ぶ。


「ウタ!! おれ達は玉を守りながらここから離れる!!」


ウタの守りを「ギフターズ」に任せる形になった以上、お玉の重要性は益々上がってしまった。

お玉がやられてしまえば、せっかく拮抗し始めた戦力差が瞬く間に広がり、同時に「ギフターズ」に守られているウタも危険に晒される。

彼女を守るために、一所に止まっていてはいけない。全力で逃げながら防衛しなければ。


ウソップの叫びにウタは一瞬だけ意識を仲間たちに向ける。

歌い続けるその顔をウソップ達に向けることなく、


「……お前も死ぬんじゃねェぞ!!!」


横に大きく伸ばした腕でサムズアップすることで見送った。


ウソップ達は駆ける。この戦いに勝利するために。守るべきものを守るために。



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ライブフロアの一角にて、百獣海賊団最高幹部”火災のキング”が元白ひげ海賊団一番隊隊長”不死鳥のマルコ”と激闘を繰り広げていた。

幾度も繰り出されるキングの破滅的破壊力を秘めた攻撃をいなし、時に受け止め無力化していくマルコ。


「あの”不死鳥のマルコ”が…たかが小娘のために命を張るか!!」


キングは常にステージに立ったウタに狙いを定めている。マルコが食い止めていなければその鋭い一撃が彼女の下へ即座に届いていただろう。

故にキングは疑問に思う。何故この男は”歌姫”をこうまで守るのかと。


「生憎とオヤジの最後の願いがまだ残っていてね…」


マルコの全身に痛みが走る。先ほどまでキングとクイーン、百獣海賊団最高幹部を二人纏めて足止めしていたツケが回ってきた。

この拮抗状態もそう長くは続かないだろう。


だが、まだだ。2年前に我らの父”白ひげ”が遺した願いを無下にするわけにはいかない。



――エースが守った家族を……

――絶対に死なせるんじゃねェぞ!!!!



今更おんぶにだっこをしなければならないガキでもない。いつまでもどこまでも守るなど過保護に過ぎる。あの子たちには進むべき道があるのだから。

だがあの願いを聞いた身であるならば、何よりエースが守り抜いた家族であるならば、今ここで奮起しない理由は微塵もない。


「”花形”が復活するまで、あの子に手出しはさせないよい!!!」


残る力を振り絞り、マルコはその身に纏う青き炎を昂らせる。

”新たな時代”を背負う若者よ、さっさと起きてこいと身勝手な期待をかけながら。


一つの”時代”を背負った偉大なる父の想いを継ぐ不死鳥は燃え盛る翼竜を食い止めるべく、高く高く飛び立った。



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「チッ、キングは何やってんだ……」


百獣海賊団最高幹部の一人”疫災のクイーン”が忌々し気に呟く。


「サッサと”歌姫”を止めねェかバカが!!」


ライブフロアのステージで歌い続ける”麦わらの一味”のウタ。機動力で自身を遙かに上回るあいつならばあの女を止めることも容易だろうが。

普段はおれのことを「無能」だの「お荷物」だの言うくせに、こんな時には役に立たねェと毒づく。


キングが当てにならない以上、自分自身の手で止めるべきだ。しかしそれを許さぬ男が目の前に立っている。


”麦わらの一味”の一人にして、かつて所属していた研究チーム「MADS」の同僚ヴィンスモーク・ジャッジの息子”黒足のサンジ”。

クイーンがウタへ意識を向けようとする度に、その隙を逃さず攻撃を叩き込み続けるこの男を倒さねば。


「折角のウタちゃんのステージを台無しにしようなんて、無粋な奴だなてめェ」


ウタが無事だったことは喜ばしい。もはや息をするように無茶をするのも慣れっこだ。

あの子が歌を歌うというのなら、その邪魔は誰にもさせない。大体この歌声を聴いて危害を加えようとするのがそもそも信じられん。


サンジは目の前に立つクイーンへこれまで以上の怒りと敵意を向ける。

仲間の、更に女に手を上げるようなゲスには指一本だって触れさせはしないと固い決意を漲らせる。


「ムハハ!! ”歌姫”っつっても大したことねェんだから仕方ねェ!!」

「わざわざ戦場で何の意味もねェ歌を歌うなんておめでたい奴だよなァ!!」


クイーンはそんなサンジと彼が守るウタを嘲笑う。


”歌姫”は確かに脅威だ。歌われた時点で実質的に自分たちの負けだと認めてやってもいい。

あの女が歌い続けられる以上、自分たちは常に喉元にナイフを突き立てられているに等しい状態だ。


だが、”ウタウタ”の能力も使わずに歌い続けるような愚か者を守るのは理解できない。


ただただ自分を危険に晒すだけの行為に何の意味がある?

百獣海賊団が自分を無視できないという事実を利用して、自らを囮に仲間が隙を突けるようにでもしたか?

だとしたら無駄に終わった。”歌姫”の仲間である目の前の男は隙を突くどころか”歌姫”を守るように動いて今は膠着状態だ。


「…………」


クイーンのウタを嘲る言葉にサンジは眉間にしわを寄せていく。

そんなサンジの様子に気付かぬまま、クイーンは罵倒を吐き捨てていく。


「ああ、おれ達がその声を買ってやるってのもいいな!!」

「あの”赤髪”の娘だ!! 高く買い取ってやるよ!!」


おれ達が聴きたい時だけ囀らせる金糸雀にしてやるのも一興だ。

その出自、能力、才能。”歌姫”はどれをとっても利用しない手はない逸材だ。


少なくとも、こんな風に遊ばせておく程度の奴らよりおれ達の方が余程上手く「使える」ってもんだ。


「おれ達の”金色神楽”の方がイカしてるけどなァ!!」


「頭だけじゃなく耳まで腐ってんのか、このイカレクソ野郎」


聞くに堪えない言葉の羅列に我慢の限界を迎えたのか、サンジがクイーンの言葉を切り捨てる。


「あァ!?」


あの歌声に値段がつけられると考えてる時点で間違いだ。彼女を甘く見過ぎている。

そもそも金であの子の価値が測れると思ってるのが気に入らない。そんなものではないんだ彼女は。


全く、何でこういう奴らはどいつもこいつも人を利用価値やら何やらでしか測れないのか。

呆れて果てて怒りすら沸いてこない。


胸に溜まった感情をゆっくり吐き出すように一つ、大きな溜息を吐く。


「おれ達の歌姫の美声が、お前らのきったねェ声と比べられるわけがねェだろ」


そもそも勝負の土俵にすら立ててもいない外道どもが、あの子の歌を測れると思うな。

仲間を侮辱した敵を見据え、決意を新たに燃え上がらせる。


この外道にウタの歌を聴かせるのは勿体ない。

そんな使命感を胸に抱き、サンジは強く駆け出していった。



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歌姫を守るものあれば狙うものあり。ここにもそんな男が一人立っていた。


「甘すぎるぜ、”赤髪”の娘……ペロリン♪」


ビッグ・マム海賊団幹部、シャーロット・リンリンの長男シャーロット・ペロスペローがライブフロアの中心地から離れた位置よりウタに狙いを定めていた。


本来ならば己の妹プリンとの結婚を滅茶苦茶にし、こんな国まで来てカイドウと組む原因となった憎き「ジェルマ」の出来損ないヴィンスモーク・サンジを狙いたかった。

だが自身の私情を優先し、目の前に存在する更なる脅威を見過ごすほどペロスペローは未熟ではない。


「ママの命令だ。命までは取らねェ」

「だがお前が自由に歌うってのは危険なんでね…」


己の母”ビッグ・マム”シャーロット・リンリンから「”赤髪”の娘は生かして捕えろ」と厳命されている。その命令は果たす。


しかし今は”ウタウタ”の能力を使用していないとはいえ、いつあの危険な力を振るうかわからない状況を放置もできない。

歌えなくなる程度に傷つけてやろう。奴を守るために他のものが気を取られれば、そこから隙を突いて確保するのも容易なこと。


己の能力で作り上げた義手に力を籠め、ペロスペローはステージで歌うウタへ狙いを定める。

激闘の最中にいるサンジを狙うより遙かに容易い標的だ。この一撃で歌は途切れる。


「ペロリン♪ 悪くねェ歌だが、歌うのはここまでだ!!!」


己の放つ一矢により訪れる未来にほくそ笑み、矢を発射せんとしたその時、


「やらせるかァ~~!!!」


「ぶベッフェ!!!」


横から飛んできた巨体がペロスペローを壁へと叩きつけ、そのまま壁を突き抜け場外へと弾き飛ばした。


「あの子の戦いを邪魔はさせん…!!」


”赤鞘九人男”の一人、ミンク族のネコマムシは傷ついた身体を軋ませながらペロスペローの吹き飛んだ方向を睨む。

今、ウタは戦場に歌を響かせている。ただの歌ではない。これは「ワノ国」の「祈り」だ。


苦しめられてきた人々の、苦しみの中で死んでいった人々が叶えたかった願いがすぐそこまで来ている。

その「祈り」を、彼女の戦いを遮ることは許さぬとネコマムシはその身を奮い立たせる。


「そしてペドロの仇、ここで取らせてもらうぜよォ!!!」


己が最も信頼を置いていた部下ペドロ。ビッグ・マム海賊団の本拠地「ホールケーキアイランド」から”麦わら”のルフィたちを救うためその命を散らした男。

彼が守った希望は今「ワノ国」に”新たな時代”の幕開けを予感させている。その希望の一人をやらせはしない。


愛する部下の偉業に報いるため、その仇、ビッグ・マム海賊団の幹部を討ち取るべくネコマムシは疾風の如く駆けていった。



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「歌姫屋か……」


「へッ、アガる曲じゃねェか……」


”ハートの海賊団”船長”死の外科医”トラファルガー・ロー。”キッド海賊団”船長ユースタス・”キャプテン”・キッド。

海の頂点に君臨する”四皇”を打倒すべく一時同盟を結んだ両名は激闘の中聴こえてくる歌に耳を澄ませる。


こんなことをする奴を自分たちは一人しか知らない。

同じく戦い続けている”麦わらの一味”の一人”歌姫”ウタ。あの女がまたしてもとんでもないことをし始めたと二人は口元に笑みを浮かべる。


事ここに至って今更逃げの手を打てるほど自分たちに余裕があるわけではない。

何より自分たちの船長が敗北したと告げられた”麦わらの一味”が諦めず戦っている証明が今戦場に響き渡っている。


こんなところで逃げてはそれこそ”格下”と呼ばれて仕方のない存在に成り果ててしまう。

元より不退転の決意。それが改めて強固なものへと塗り替わっていくのを感じ取る。


「マ~ママハハハァ!!」


そんな彼女たちを嘲笑うは”四皇”の一人、シャーロット・リンリン。


「”赤髪”の娘ェ!! ”ウタウタ”も使ってない歌で何ができるってんだい!!」


無駄に目立ち、無駄に力を使い、無駄に死ぬ。若い身空でそこまで死に急ぐとは。信じ難いほどの愚か者だったか。

だが死なれては困る。あの娘は”赤髪”に対する強力な切り札になる。ペロスペローが上手く確保できればいいのだが。


目の前の小僧どもを殺すまで、精々死んでくれるなよとリンリンは愉快そうに笑う。


「わかっちゃいねェな、てめェはよ…」


「あん?」


キッドは凶悪な笑みを浮かべ、リンリンを嘲る。

この歌の良さが分からないとは、”四皇”ともあろうものが情けない。


「良い音楽ってのは力になるんだぜ!! それくらい覚えときな!!」


”麦わら”のルフィの仲間が歌っているのだと考えると対抗心が燃えてくるが、それはそれとして良い歌は良い。そこで評価を捻じ曲げるような真似はしない。

この歌は、力を奮い立たせるに足る強き歌だ。キッドはそう確信した。


身体に時折走る激痛にも、これならば耐えられる。


「お前もそう思うよなァ、トラファルガー!!」


自身の隣に立つローに同意を求めるキッド。その声を受けてローは静かに口を開く。


「ユースタス屋、おれは既に歌姫屋の歌の力を見たことがある…」


思い起こすのは己の過去の清算を果たした「ドレスローザ」での激闘。

彼の地を支配していた宿敵”王下七武海”の一人ドンキホーテ・ドフラミンゴ。奴の国民を一掃せんと発動した「鳥カゴ」を皆で押し返さんと団結した時に響いた歌。


あの歌を聴いた時の衝撃は今でも胸にある。今響く歌も同じだ。あの時のような逆転を見事起こしてみせよう。


「お前より理解度は遙かに上だ」


だが、それはそれとして歌姫屋の歌の理解者面をしているこの男は気に入らない。


「あァん!? 一発で見抜いたおれの方が上に決まってんだろうがァ!!」


突然の実質的な”格下”発言にキッドはローに向けて敵意を飛ばす。

1回聴いただけで理解したおれの方が2回も聴いたお前より上に決まってるだろうが。


自身を前にして互いに火花を散らし始めたローとキッドの姿にリンリンの怒りが跳ね上がる。


「ふざけた若造たちだ!! たかが歌で”四皇”の座が揺らぐものかよ!!!」


歌の力?仮にあったとして、その程度の後押しでお前達がおれに勝てる道理など存在しない。

海の頂点に立つ皇帝がそんなもので超えられるか。


「お前らを殺した後にでも”赤髪”の娘はおれとカイドウのどっちが確保するか、ゆっくり決めることにするかねェ!!!」


リンリンの全身より迸る”覇気”はこの戦場において最強に近い。これに匹敵する”覇気”を持つものは同じく”四皇”であるカイドウくらいだろう。


これが”四皇”、これが世界の頂。これが自分たちが超えねばならぬ一つの”時代”を背負う者。

それはつまり、ここを超えれば少なくともこれ以上の怪物は現状存在しないということでもある。


ローは武器を構え、静かに揺らめく闘志を燃え上がらせる。


「生憎とそんな未来は訪れねェ…」


そろそろ老兵が座る席を若者に譲る時が来た。

武器を構えたローに呼応するようにキッドもまた構え、吠える。


「てめェはその座から叩き落されるんだからなァ!!!」


海の頂点に君臨する”四皇”の一角、必ず引きずり落とす。

燃える闘志を宿し、ローとキッドはそびえる高き壁、”ビッグ・マム”シャーロット・リンリンを見据える。


「やってみせろよガキどもがァ!!!」


ケツの青い小僧が良く吠えた。ならば存分に思い知らせてやろう。

お前たちが挑む世界の頂の高さというものを。


次なる世代を担う二つの若き超新星と、荒れ狂う時代を生き抜いた古き巨星。

並び立たぬ二つの”時代”をそれぞれに背負う者達の激突が再び始まろうとしていた。



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歌い続ける。力の限り。この「祈り」が報われるように。届くように。

「ワノ国」が夢見る”夜明け”が、泡沫の夢で終わらぬように。


心の底から、皆が幸せに笑えるように。



♪例えば朝目覚めたら みんな出鱈目だった

♪そんなことも考えてたんだ

♪ずっと ずっとずっとね



受け継いできた意志と「祈り」を背負って戦っている仲間たち。「ワノ国」のお侍さん達。

そして、たった一人でカイドウを食い止めているヤマト。


届け、届けと声に想いを乗せながら歌い続ける。



♪嗚呼如何に 此処が地獄なりとも 生きた輝き 決して絶えない



最初に出会った時こそ驚いてしまったけれど、落ち着いたらなんてことはない。

彼女はただひたすら己の信じるものを曲げずに戦い続けていただけなのだと気づいた。


彼女もまた、”夜明け”を信じ続けている一人なのだと。


その胸に宿っていたのは高揚感。待ち望んだ機会が訪れたことに対する昂り。

その胸の奥に垣間見えたのは、強迫観念にも似た強烈な使命感。己の命すら捨てても良いと決意している強固な心。


彼女にとって”おでん”という言葉にどれ程の想いが籠められているのか。自分には想像もできない。



♪今際の際でぼくらの歌をやさしく 口遊もう君に



それでも理解できた。彼女もまた何かを背負い、受け継いでいる。

譲れない想いを抱いて、戦うことを決意している。


だからヤマト。あなたも一人じゃない。皆と一緒に戦っている。



♪この狭い世界でただ小さく 静かに生きたい ただそれだけ

♪緩やかな滅びの中でぼくらは やさしい歌うたう

♪さあ ほら目を閉じて



届け、届けと声に想いを籠めて歌い続ける。

”夜明け”を告げる者が戻ってくるまで、必ず勝利してくれる大切な幼馴染が帰ってくるその時まで。


命の限り、叫び続けよう。


「あああああああああああああああああ!!!」


突如、悲鳴を上げながら巨大な龍がライブフロアの天井を突き破り突入してくる。

その衝撃で崩れ落下していく瓦礫に敵味方関係なく逃げ惑う。


「うわああああ!!!」


「えーーー!? カイドウさん!!?」


突如現れた龍に皆が困惑する。「ワノ国」であのような姿をしているのは”四皇”カイドウただ一人。

まさか狂乱でもしたのかと百獣海賊団が狼狽えているが、やがてあることに気付く。


色が違う。カイドウの龍形態は青き鱗、青龍だったはず。今突っ込んできた龍の鱗は桃色だ。

つまりカイドウではない。もう一匹の龍が戦場に現れたのだ。


「止まれモモ!! 何やってんだ!!」


「ここはどこでござるかァ~!!!」


滅茶苦茶に動き周囲を破壊し続ける龍の背から声が聞こえてくる。

その声の主の姿を見た”麦わらの一味”は喜びと驚愕の顔に染まる。


ルフィだ。ルフィが正体不明の龍に乗って帰ってきた。

相変わらずとんでもないことばかりをすると苦笑いをする者もいる。だがモモの助の言葉通り、彼は確かに帰ってきた。


目を閉じ、ライブフロアのあらゆる場所に身体をぶつけながら桃色の龍はウタのいるステージの脇へ突っ込んできた。

ウタは歌を中断し、迫りくる龍とその身体から起こされる衝撃から逃れようと身を躱す。


破壊を齎しながら去っていく龍とその背に乗っていた姿にウタの顔が喜びに満ちる。

ルフィが帰ってきた。それにあの龍は何でそこまで大きくなったのか分からないけどモモの助君だ。


自分たちの努力に彼らは応えてくれた。「ワノ国」の”希望”が帰ってきたのだ。


「っ……」


胸を満たす喜びも束の間、突然の立ち眩みにウタはよろめく。

その姿に護衛をしていた「ギフターズ」の一人が慌てて近寄る。


「大丈夫ですかい!?」


「だ、だいじょうぶ……」


”ウタウタ”の能力を使った覚えはない。能力を使った後にいつも感じる全身を覆うような倦怠感とは違う。


心臓が熱い。鼓動が早鐘のように脈打っている。落ち着こうと深呼吸してもあまり効果がない。

これは何だろう。少し苦しいけど、悪い感覚ではない。新しい何かが掴める。そんな予感を感じる。


ウタはその場に座り込み、胸に響く鼓動に合わせるように呼吸をし、適応していく。


まだ戦いは終わっていない。カイドウをルフィが打ち倒し、本当の意味で勝利へとたどり着くまで戦いは続く。

今なお戦い続ける仲間たちへ。もっと歌を届けなければ。


その胸の奥に灯った小さな光。今はまだ誰にも気付かれぬ”新たな時代”を作る”鼓動”は確かにそこに息づいていた。


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