その目には星が 

その目には星が 


💙

星が似合うという話で思いついたもの

少し切ない感じになってしまいました

どっちかというとホー → ドレ






 その日は見回りが任務として割り当てられていた日だった。民の怯えたような視線を浴びるだけの道中は、退屈なうえに居心地が悪い。しかも何故か、ホーキンスと数名の部下も同じ任務にあたっていた。どう考えても過剰戦力、この地にはもう、戦意が残っていないのは明白だろうに。

 自分が滅ぼした編笠村の跡地を眺める。悲鳴が耳にこびりつくような柔な精神ではこの任務は務まらないとはいえ、気分が沈まないのもまた問題である。自分は、人を守る海兵なのだから。心のうちに違和感が木霊する。何度も何度も反響し、やがて大きな渦となって自分を飲み込む。そんな気分の悪さにも、もう慣れた。

「ドレークさん!あっちに人影みたいなのが見えたぜ!」

「ならばお前らで確認してこい、おれはここでもう少し見回りを続ける」

「え~俺らだけ?」

「お前らが言い出したことだろう、早く行け!」

 わざと大きな声を出して部下を追い立てれば、彼らは飛び六胞の機嫌を損ねたくないのか足早に散っていった。ホーキンスを除いては。

「お前はいかなくていいのか、手柄を立てるチャンスかもしれんぞ」

「おれが言い出したわけではないからな」

「・・・そうか」

 ホーキンスとはたまに同じ任務につき、その中でもさらに低い確率で会話をする程度。シャボンディ諸島でともに黄猿と相対したとはいえ、決して仲がいいと思える関係性は持っていなかった。だから、こうして二人きりになってしまうとどうも気まずい。一人になるために先行しようとすれば、雨粒が鼻先をかすめた。

「やはり降ったな」

「雨が降ると分かっていたから村の外に出なかったのか」

「ああ」

 さきほどから今にかけて占いをしていた様子はなかったから、おそらくは任務が始まる前に占っていたのだろう。それならば部下にも言っておいてやればいいものを、と思うがそうもいかないのだろう。あのカイドウの部下たちが、占いを信じるとはとても思えない。

 雨宿りのために半壊した家屋に足を踏み入れ腰を下ろす。崩れた壁を吹き抜ける風は、声もなく悲痛な想いだけを運んでいた。


「貴様は来世を信じるか?」

 ホーキンスからの問いは唐突なものだった。雨音に向けていた意識でホーキンスをとらえ直す。

「なんだ、占いだけでなくそんな迷信も信じるのか」

「まァ信じるか信じないかで言えば、おれとしてはどちらでもいいが」

 それではなぜおれにそのことを尋ねたのだろうか。世間話のつもりか?——いや、この魔術師は軽口を好まない。おそらく何か意図があってのこと、なのだろう。

「・・・わからんな、何故この話をおれに振った」

「今の星の巡り合わせが、惜しいと思った」

「星?お前そんなものまで見えるのか」

 確か前は部下に死相だなんだ言っていた気がするが、よもや人を取り巻く性まで見えていようとは。コイツは随分と奇妙な星のもとに生まれているのではないだろうか。

「どこか別の場所で、今とは違う立場であったのなら。違う結末を選べていたのかもしれない」

 ホーキンスは独り言のように言葉を落とした。その顔は、普段とはあまり変わりないように見えて、どこかもの寂しさをたたえていた。

「巡り合わせといったな。この国の人間に恋でもしたか。百獣海賊団真打ち殿」

「・・・船員の話だ。おれがあいつを海賊になんてしていなければ、いつか象の背中でタキシードでも着ていたことだろうにと、ふと思った」

 船員の話、こういった話の流れで唐突に人物が指定されるのは、それが本当に示すところは違うというのが常套だ。だが、この男があえてぼかしたのだ。深くは聞くまい。

「おれは、来世なんてものは無くていい」

「ほう、言い切るな」

「もしそんなものがあれば、おれの父は今頃どこかで生を受けてすくすくと育っていることだろう」

「会いに行ってやらなくていいのか?」

「会うことに意味はない。ソイツはもう、おれの父ではないのだから。・・・来世なんて、他人だ。所詮な」

「・・・そうか、他人か」

 ホーキンスは少しだけ、その目を伏せた。そして僅かに、唇に自嘲の色が乗る。

「もし今と同じ姿かたち、今生の記憶をもっていたとして、それは父ではない。父は今生の記憶など、生まれた時には持っていなかったのだから」

「随分と、面白いことを言う。こんなオカルトめいた話をロジックで解こうとは」

「お前こそなんだ、感傷に浸る柄でもないだろう」

 そう言えば、ホーキンスは少し遠くに視線を移した。その目には、もう長いこと見ていない澄み渡る星空が映っていた。

「・・・少し先のことを見ただけだ」

「——それでは、運気を上げなくてはな。どうする、スカートでも履くか?」

「いや、今日は近くの者に触れればいいらしい。頼まれてくれるな、ドレーク」

「なぜおれが・・・まぁ好きにしろ」

 一瞬だけ強く吹いた風が、最後の雨粒をどこかへと連れて行った。


「おれと貴様の星は今日が最も近い位置にある。これ以上はない、ということだ。安心しろ」

 それだけ言ってホーキンスは立ちあがる。

「さぁ任務の続きだ、ドレーク。少し休み過ぎた」

「ホーキンス」

「置いていくぞ、早くしろ」

 そう言って、ホーキンスは家屋から出ていった。

「お前は、それでいいのか」

 ホーキンスは、おれになにを見たのだろうか。いや、おれとの間には何も残らないと、知っていたのだろうか。


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