その歌の名は
宿った小さな二つの命。後悔の念も自責の念も吐き出してしまえば後に残ったのは母親としての決意だった。
諦めるという選択肢はない。現実の世界に体はもうないけれど、このウタワールドで宿ったのならここで産み育てる事ができるはず。決意を新たにウタは立ち上がった。
立ち上がったはいいものの、はてどうしようかと首を傾げる。ここはウタワールド。ウタの思うがままではあるが妊娠など当たり前だが初めてであるし、何をどうすればいいのかわからない。きちんと育つかどうかという不安は意識の外へと放り出し、まずは生活拠点を用意することにした。
12年住み続けたエレジアを再現する。城も廃墟のような城下や港、ライブ会場とした骨を含む生活には不要な場所も全てを再現する。
「あれ?」
一瞬だけなんとも言えぬ違和感を感じたが、本当に一瞬だったため気のせいということにしておいた。
自室に戻りベッドに座る。子供を授かるまでの一般的な知識こそ教えられたため知ってはいるが、何をどう用意すればいいのかは全くの手探りである。
「地下でも見てみようかな」
地下にある沢山の書物なら何かためになる事が書いてあるものがあるかもしれないと思い足を運んだ。
「……何これ」
地下はぐちゃぐちゃだった。何をしたらこうなるのか、ため息を一つつく。額に当てていた手を意志をもってふり下ろせば、荒れ壊れ果てた地下が修復されていく。壁や柱、書架に天井さえも元通りだ。
「まったく! どこの誰かは知らないけど、貴重な譜面や楽譜も保管されてるっていうのに何てことするのよ」
ウタワールドの中のことだけであってほしいとウタは思う。ここにあるものはゴードンが大切にしていたエレジアの遺物なのだから。
この辺かなぁ、と呟きながらウタは目当てのものがあるか探し始めた。
「んー。あんまり無いなぁ」
色々と確認してまわった結果、目的のものに近いものがあるにはあった。ただしここはなにぶんエレジア。音楽に関するものとのしての情報ばかり。胎教にはこんな曲がいいだの、楽器を演奏するならこうだのといった内容だ。
だが収穫が無いわけではなかったため、ウタはいくつかの本を手に地下を後にした。
……彼女が地下から出た後に天井がうっすらと光った。