その思いまだ知らず。
坂野翠、露峰まひろ学パロ時空
予兆有り。
「...みどり、何してんの」
ガラガラと引き戸を開けて化学室に入ってみれば、薬品や実験器具は閉まったままで。代わりに置いてあるのはテキストの山。そしてその中で唸りながらペンを動かす見覚えのある緑頭。
自分と同じ学年組の坂野翠がそこに居た。
「あ、まひろちゃん」
眼鏡越しに名の通りの緑の眼が此方を見る。真剣な表情から一転、顔を綻ばせて頬を緩ませるみどりに少し動揺しながらも、自分も席に着く。何をしているかと思えば、何やら英語を解いているらしい。
「またここで解いてるの?」
「うん。政兄に聞くのもいいけど、ちょっと厳しいから...」
「先生に聞けばいいのに、そこ最近やった文法じゃん」
「まひろちゃんに聞いたほうが早いかなって」
一寸の曇りもない目で見るみどりが何を考えているのかわからない。早くはない早くは、何なら先生に聞いた方がずっと早いんだ。天然のきらいがあると思ってはいるけれど、そこは鋭くあってくれよ。
そんな声を出したい衝動に駆られながら、渋々ノートを覗く。無変化型動詞まで変わってる...と思いつつ、違った形となった単語を少しずつ直していく。
「ここはそんなに変えなくて良いし、こっちは形が変わらない。それと...スペルlじゃなくてr。」
「わ、いっぱい間違ってる...まひろちゃんよく気付くね、すごいなぁ。」
「...別にそこまでじゃないし、...早く直しなよ。」
呑気に眺めるみどりに書き直すように促して、そのまま問題に集中させる。すぐに直されていく英単語を見ながら、少しばかり熱くなった耳元を横髪で隠す。
...別に。
だからと言って何にもないんだけど。