その力は友のため

その力は友のため



今日も”偉大なる航路”を進む”麦わらの一味”の新たな船サウザンドサニー号。


その一角に存在している”麦わらの一味”の一人フランキーの作業場である兵器開発室。

そこで一人、設計図を描いていたフランキーの元に小さな影が近付いていった。


「ん?」


感じた気配の方向に顔を向けても誰もいない。

となれば、下かとフランキーは足元へと視線を移す。


「ようウタ!! どうしたァ? ここは危ないもんが多いぜ?」


予想通り、そこには”麦わらの一味”の小さな人形ウタが立っていた。


フランキーはウタの周囲にある鋭い突起物などを手早く片付け、気さくに挨拶をする。

そんな彼のを見つめながら、ウタは身振り手振りで何かを伝えようとしていた。


「ほ~う……自分も戦えるような力が欲しいってか」


その想いを汲み取ったフランキーの言葉にウタは首を縦に振る。

つまり、この小さな仲間は自分も戦えるような力が欲しいということか。


「つってもなァ…」


正直、気乗りはしていない。

改造やら武器を開発するのは自分の十八番であるし、それ自体はやぶさかではないのだが。


自分が二の足を踏んでいる原因。それはウタ達が連れ添ってきた仲間との永遠の別れにあった。


(なんか考え込んでやがったしな、こいつ……)


思い浮かぶのは「エニエス・ロビー」から”麦わらの一味”を脱出させるため最後の航海を成し遂げたゴーイングメリー号。

船の魂ともいえる竜骨の限界により、もはや次の岸に辿り着くことすら叶わない死んだはずの船。


自分と同門であるアイスバーグの手を借りて間に合わせの修復をしたとはいえ、島一つを焼き滅ぼすバスターコールの嵐吹きすさぶ「エニエス・ロビー」まで辿り着き見事”麦わらの一味”とフランキーたちを乗せ脱出に成功させた奇跡の船。

一味の一人ウソップが見た”クラバウターマン”といい、船員たちにあれほど深く愛された船を自分は知らない。


既に限界をとうに超え、自分たちを迎えに来たアイスバーグの船を確認した瞬間に船体が壊れ始めたメリー号を見てウタは何を思っただろうか。

ずっと一緒に旅した仲間との別れの時、燃えるメリー号が沈む姿を”麦わらの一味”は最後まで見届けていた。

それを共に見ていた自分たちにも届いたメリー号の声。愛された船、愛した船員たち。その友情と別れに自分も思わず大粒の涙を流してしまった。


そんな沈みゆくメリー号をウタはジッと見つめていたことを覚えている。人形だ。涙を流せないのは分かっている。

それでもウタも泣いていたのだとフランキーは感じ取っていた。


そして、それ以上に何かを考えていたのだろうということも。


(話せねェから悩みを聞くってのもできねェのがもどかしいぜ……)


フランキー一家を束ねていた頃は自分なりのやり方が通用した。

夢破れたもの、道を踏み外しかけたもの。そんな奴らと時に殴り合い、時に酒を酌み交わし、本心を曝け出しあった。

そうしていたら、いつの間にか自分を兄貴と慕う一団となっていった。


だがウタは話せない。喋ることができない以上、ウタ自身の表現から推測することしかできない。

ウタが喋れたのならば、もっと相談に乗ってやれるのだが。


メリー号との別れに何かしら思うところがあったというのは、一味に加入して日が浅い自分ですら分かるのだ。

あるいは、あの船のように命を絞り尽くしてでも仲間の助けになろうと決意したか。


ウタから切り出すこともできない今の状態では、聞き出すことも出来ず、あまり力になれることもないだろう。


ならば、そうだ。

ウタの要望を聞いてやることも大事だが、気晴らしになれるようなこともしてやろう。


「……いや、分かったぜウタ!! お前の覚悟と心意気をよ!!」


「仲間のために何かをしたい」というその想い自体は尊ぶべきものだ。


ウタが何を思っているのかは分からない。

だが、その根底にあるのは人間と人形の違いからくる無力感なのだろう。


ここで自分が「気にするな」と諭しても、ウタに響くとは思えない。

ウタから見れば自分も「仲間のために何かをできる」側の存在なのだから。


だから今やるべきことは、ウタのために何かを作ってやることだ。


自分の作るものが少しでもウタの気を晴らせるのならば、それでいい。

いつかウタ自身が、無理をせずとも仲間達の支えになっていることに気付くまでは。


「任せろ!! おれ様のスーパーな武装を楽しみに待っておきなァ!!!」


ウタに向けて力強く宣言した後、フランキーは意気揚々と新たな図面を描き始める。


友のため、仲間のためならば幾らでも力が湧いてくる。

フランキーとは、そういう男だった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「完成したぜ!! これがおれ様渾身のスーパーウタだ!!!」


サニー号にフランキーの声が響き渡る。

その足元には彼の宣言通り、全身を武装したウタが立っていた。


「両腕に搭載したのは近距離用の突撃槍!! そしておれ様の『風来砲』を元に小型化した射撃装置!!」

「勿論、これだけじゃあ機動性が死んじまってる……」

「そこで!! 背中にはジェットを二基搭載して空中を縦横無尽に駆け回れるぜェ!! ん~!! スーパー!!!」


ウタの安全面を考慮して火力はお察しだが……とフランキーは小さく呟く。

それでも己の作品として胸を張れる出来栄えであると自信満々である。


「うおおお~!! ウタァ!! すっげェかっけェぞ!!」


「抱えにくそうね……」


目を輝かせるルフィたちを遠目に見つめながら、ロビンはゴテゴテになったウタを残念そうに思っている。


このロビン、可愛いものが大好きである。当然ウタのことも大好きである。

以前まではそれでもロビンなりに一線を引こうと努力していたが、自分を狙う「世界政府」とその陰謀に端を発した「ウォーターセブン」や「エニエスロビー」での大騒動を経て”麦わらの一味”の一員として正式に加入してからはもはや隠すことなくウタを可愛がっている。


(可愛くないわ…)


そんな彼女の美意識からすると、今の武装を装着したウタは非常にお気に召さないものとなってしまった。


でも仕方ない。ウタが望んだことだから……

自分にそう言い聞かせながら静かに目を閉じたロビンを後目に、ルフィは目を輝かせたままいつもの調子でウタを持ち上げようとする。


「重ッ!?」


ウタを持ち上げようとしたルフィが驚愕の声をあげる。

普段ならば片手で肩に乗せることも容易なはずのウタが、両腕にかなりの力を籠めなければ地面から浮かせることもできない重量になっている。


そんなルフィとウタの姿を見て、フランキーは腕を組んで唸る。


「色々搭載したからな……」


(持ちにくい…)


ロビンの眉間の皺が更に増えた。

そんな彼女の様子に気付くことなく、フランキーは説明を続ける。


「だがその分、ジェットの機動性は凄いんだぜ!!」


そんなフランキーの自信満々な声と共に、カチリと何かが起動する音が聞こえてきた。


「え?」


突如ウタの身体がブルブルと震え始める。

それが背中のジェットを起動させた振動だと周りが気付いた時には、既にウタは空高く飛び立っていた。


「あああああァァァァァ~~~~……」


そんなウタを掴んでいたルフィもまた、共に舞い上がっていった。


「ルフィ~~~~っ!!?」


「ウタァ~~~~っ!!?」


滅茶苦茶な軌道で空を飛ぶウタとルフィを見上げ、ウソップとチョッパーが叫ぶ。


空からはウタの悲痛さを感じさせる叫びとルフィの笑い声が聞こえてくる。

そんな姿を満足げに眺めていたフランキーに背後から強烈な一撃が叩き込まれた。


「オワー!?」


「ウタになんてことしてんのよあんた!!」


怒りを滾らせながらナミは気炎を吐く。

ただでさえ手の掛かる仲間が多いというのに、数少ない自分側であるウタを危険に晒すとはこの男は何をしてくれやがったのか。


その後も続いたナミの折檻によりボロボロになったフランキーの元へロビンが近寄り声をかける。


「フランキー」


「ろ、ロビン……」


もしや助けてくれるのだろうか。

そんな期待と共にフランキーは彼女へと顔を向けた。


「早く外して。そしてウタに近付かないで頂戴」


「……オゥ」


怒っている。それはもう怒っている。

能面のような無表情の裏にフランキーは鬼を見た。


しかもあの目。


口答えしたら間違いなく”グラップ”される未来が見える。

今度は最後まで”殺る”気だ。そういう目をしている。


流石にちょっと出力を強くしすぎてしまったのは反省点だが、そこまで怒らなくても……

フランキーは項垂れ、さめざめと涙を流す。


ふと、地面に転がるフランキーの身体に触れるものがあった。


「う、ウタ……」


ウソップ達によって空から無事に救出されたウタが優しくフランキーを撫でていた。


「自分が望んだことだから、フランキーに責任はない」

「自分のためにありがとう」


まるでウタがそう語りかけているようだとフランキーは感じ取る。


「お前って奴は……」


涙が溢れてくる。

この小さな仲間は、なんて優しい心を持っているのか。


その胸にある熱い魂に、フランキーは猛烈に感動していた。

それをウタに伝えるべく、静かにサムズアップし笑みを浮かべる。


「……スーパーな、男だぜェ」


直後、ウタは自身の腕に装着されたままであった射撃装置をフランキーに向ける。

そのまま圧縮された風圧が銃口から撃ち出され、失礼な男(フランキー)の顔面に直撃した。


「ギャー!?」


フランキーの悲鳴を背景に、ナミが呆れ顔で呟いた。


「ウタは女の子よ」


「フランキー。ウタに近付かないで頂戴」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「ドレスローザ」、王の台地にある”SMILE工場”前。


「ハァ…ハァ…」


「ハァ…ゼェ…」


そこではドンキホーテファミリーの一人、おしゃぶりにピケハット、おむつを履いた赤ちゃんのような風貌をした男セニョール・ピンクと、

”麦わらの一味”の一人、フランキーが互いに肩で息をしながら立っていた。


「セニョール~!!」


「フラランド~!!」


セニョール・ピンクの取り巻きである美女達、フランキーと共に工場を破壊しようとしたトンタッタ族が悲痛な声を上げる。

この二人、先ほどから互いの攻撃を躱さずに受け続けている。


膝が笑い、目の前の敵を見据える目は霞んでいる。

だというのに、二人はまだ倒れない。


「坊や、何故そこまで戦うんだ…!?」

「お前を支えるものはなんだ!!? チュパ!!」


セニョール・ピンクは震える身体に鞭を打ち、疑問を口にする。

何がこの男を突き動かしているのか。興味があった。


「友達(ダチ)のためさ……!!」


「!! トンタッタ族か…!?」


セニョール・ピンクの視線がフランキーを応援する小人たち、トンタッタ族へと向けられる。


なるほど確かに。自分たちはあの一族を奴隷の如く働かせている。

そんな彼らを解放するために戦っているのかと、納得しかけた。


「そいつら”も”だ!!」


「…!?」


その納得は、続くフランキーの言葉で霧散する。


「あいつは、ガキの頃から笑うことも泣く事も…」

「助けを求める声も奪われてた!!!」


あの日、恩人であるトムさんが自分の作り上げた兵器を利用され、謂れなき罪を背負い連れ去られていった時。


力の限り反抗しようとした。

自分たちが必死で作り上げた海列車”パッフィング・トム”がトムさんを連れて行くことが許せなかった。


結果は変わらなかった。

自分の作り上げた作品がどれだけ危険なものだったか、それを知りもせず作り続けた愚かな少年の意志は鋼の塊にいとも容易く砕かれた。


全てが足りなかった。

力も、意識も、誇りも。”船大工”としての何もかもが自分には欠けていた。

あの時の己は愚かで、結果として大切なあの人は海の彼方へと消えて行った。


自分だけでは足りなかったから、鋼の力を取り込むことにした。


無謀な反抗によって死にかけた身体を生き延びさせるため。

そして大切な家族を守れなかった愚かで弱い自分と決別するために。


自己を改造したのは、足りないことを自覚したからだ。

自覚して、己の力で強くなるために必要なことだったからだ。


「分かるか? 女のガキがだ!!」


だがウタは違う。


あの子は足りなかったのではない。奪われていたのだ。

理不尽にも、かつて持っていたあらゆるものを。


どれだけ無念だっただろう。

かつて出来ていたことが出来なくなり、その苦悩を誰にも明かすことができないなどと。


「心細かっただろうさ、苦しかっただろうさ!!」

「おれ達は、誰もそれに気付いてやれなかった!!!」


この国で対面したウタ以外で初めての「生きているオモチャ」。

最初こそ、「ドレスローザ」がウタの故郷なのかと驚きと喜びに満ちた一味たちを見て、ウタが何かを伝えようとしていたことを覚えている。


今ならば分かる。

あれは仲間を危険から遠ざけようと必死に警告していたのだと。


その後、トンタッタ族と出会いこの国に潜む闇を知り、義憤に燃えた。

暗闇の中でも純真無垢に信じ続けている小さな人々の心意気に感動した。


だから、ウソップに指摘されるまでウタの真実に気付けなかった。


考えてみれば当たり前だった。

何故気付けなかったのかと己を心の内で罵倒した。


「ドレスローザのオモチャ」が「人間」であったという真実を知って、「ウタ」だけがソレと無関係な「世にも珍しい生きた人形」であるはずもないというのに。


それだけ無意識的に「ウタはそういうもの」と認識し、受け入れていた証明でもある。

だが、その結果として仲間の重大な真実を見落としかけていたことをフランキーは許せなかった。


「てめェらがこの国でやったことと同じだ…」

「おれ達の仲間にも、それが降りかかってたってだけの話ではある」


その真実に辿り着いた仲間の反応は様々だった。


ロビンは傍から見ても分かるほどに激怒していた。


彼女は仲間の中でも特にウタを可愛がっていたものの一人だ。

まさか大切な仲間がそのような事情を抱えていたと知れば、その怒りも当然のものだろう。


ウソップはそれまでの消極的な態度が消え去っていた。


フランキーが仲間に加入するきっかけとなった「ウォーターセブン」でのこと。

ウソップがメリー号を巡り仲間と大喧嘩した時に、どうやらウタに何か負い目のあることをしてしまったようだ。


事の発端でもある自分があまり踏み入るべきことでもないだろうと軽く聞いただけだったが、どうやらウソップは想像以上にそのことを気にしていた。

それまでとは一転、自分たちの中で最もこの作戦に意欲的に取り組むまでになっていた。


自分と言えば、語るまでもないことだ。


「だが、落とし前くらいはつけてもらわねェとなァ!!!」


質問に答え終わったフランキーがその巨腕を振り上げる。


「”フ~~~ルルルァンキィ~”……」


気付けなかった己への怒り。

そして仲間を苦しめていた敵への怒りを籠めて。


「”ストロングハンマー”!!!」


鋼鉄の拳が放たれた。


「グフッ…!!」


その一撃を、回避も防御もせずにセニョール・ピンクは受け止めた。


「!!?」


フランキーの顔が驚愕に染まる。


この男は背後に巻き込まれかけた者がいた時、その身を挺して守ることは分かっている。

現に何度もそうして自分の攻撃を受けたセニョール・ピンクの男気に感銘し、涙を流したこともある。


だが、今この男の背後には何もなかった。受ける道理はなかったはずだ。

なのに、何故今の一撃を受けたのか。


「キャー!? セニョ~~~ル!!?」


周囲で見守る取り巻きの悲鳴が響き渡る。

攻撃をまともに受けた自身を心配する声を背景に、セニョール・ピンクは身を起こす。


「お前が言ったこと……おれには何のことだかさっぱり分からんが……」

「女を、それも子どもを泣かせたか……」


脳裏に浮かぶは愛しき妻、そして我が子。

己の嘘で絶望させてしまった最愛の人達。


妻と最後に言葉を交わした時。

雨でも流せぬほどの涙を湛え、怒りに震えていた彼女の姿をセニョール・ピンクは幻視する。


過去の幻影が己の身体を縛り付け、気付けばフランキーの一撃を受けていた。


「確かに、それは殴られても仕方ねェな……!!!」


すまねェ若。あんたなら同情もせず、ただ踏み潰すだけなんだろう。

だが、こればかりは譲れない。


知らぬことなら何を思うことも無し。

長年海賊を生業としてきた悪逆非道の輩であるという自負もある。

己の所業が誰かの涙をすする外道の行いであることなど百も承知。


だがこうまで真正面から言われては逃げ道も無し。

この男の胸に宿る炎は、今の自分には少し熱すぎる。

鈍り、錆びつき、腐っていくと実感していた心が燃え上がるほどに。


愛する妻と息子を騙し、二人を失意の底で死なせてしまった罪。

背負い続けると誓ったソレが囁くのだ。「この男の怒りは受け止めねばならない」と。


そうしなければ、自分は愛する家族への誓いすら裏切った最悪の男に成り果てる。

セニョール・ピンクはそう確信していた。


「……礼は言わねェ」


「言われたくもねェな…」


拳を構えるフランキーにセニョール・ピンクは吐き捨てる。


お前のためにやったことではない。

これは全て自分のエゴだ。


「全部おれ自身のためさ……チュパ!!」


愛しきルシアン、そしてギムレット。

おれが君達に許されることは永遠にないだろう。


こうして、また泣いてる誰かのために戦う男を倒すのがドンキホーテファミリー、”セニョール・ピンク”という悪人なのだ。


それでもおれは永遠に謝り続ける。

ただ、家族をこれ以上裏切りたくないという己が願いのために。


「こんな形じゃなかったら、お前とは良い酒が飲めそうだった」


残念そうにセニョール・ピンクは呟く。


フランキー。この男には信念がある。大した男だ。

正直に告白すると、”麦わらの一味”でなければ友になれたかもしれない。

巡り合わせとは、かくも残酷なものである。


そんなセニョール・ピンクに向けて、フランキーは静かに語り掛ける。


「気にすんなよ”兄弟”」

「拳をぶつけ合わせれば、何よりも雄弁に語れるのが男ってもんだ」


フランキーはこの男の事情を知らない。分からない。


だが戦いの中で理解した。この男はただの外道ではない。

譲れない信念を胸に抱き、己の前に立ち塞がっているのだとフランキーは確信していた。


そんな男に敬意を込めた拳でうち倒し、この国の闇を払い、仲間を救い出してみせよう。


「フッ……」


フランキーの言葉に、セニョール・ピンクは苦笑する。


全くこの坊やは。何処までも青臭いことを言ってくれる。

つくづく敵として出会ったことが惜しくなる。


「同感だ!!!」


互いに譲れぬものを胸に秘めて、二人の男は吠える。

友のために振るわれる鋼鉄の拳と、失った家族への誓いを固く握りしめた男の拳が再び激突した。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「ナミ~~!! またフランキーが私のマイクに変な機能つけた~~!!」


「いい加減懲りなさいフランキー!!」


「ギャー!?」


サニー号にフランキーの悲鳴が響き渡る。

その声を聞いた一味たちは「またか」と各々呆れ顔になっている。


その視線の先にはウタに泣きつかれたナミがフランキーにお仕置きしている光景があった。


「フランキー、またなんか作ったのか?」


そんな喧騒の中心にルフィが遠慮なく近づいていく。

能天気なその顔を認め、ウタがルフィに駆け寄り手元にあるものを突き出す。


「見てよルフィ!! これ!!」


ウタの手にあるのはフランキーが用意したマイク。

その脇に存在していたボタンを押すと、機械的な駆動音を響かせながらマイクが変形していく。


動作が終了すると、そこには立派な火炎放射器があった。

轟々と豪快な音を響かせながら、ソレは周囲に大量の熱を感じさせる炎を空中に向けて噴射し続けている。


「すっげェ!! かっけェ~~!!!」


「またこんな機能つけて!! これで何回目よ!!」


変形に目を輝かせるルフィを後目に、若干の気疲れを感じながらナミは地面に転がるフランキーを睨みつける。


この変態による無断改造、これが初犯ではない。

既に何度もこのような行為を続けている。


その度にウタがナミに報告し、フランキーを𠮟りつける。

そんな事を既に片手では数えきれないほど繰り返していた。

もうそろそろ懲りてもいいと思う。


ナミの言葉に呼応するようにウタが怒りの声を上げる。


「そうだよ!! カッコいいけど、マイクにつけるのはやめて!!」


「ウタ……?」


何か今、信じられない言葉が耳に届いた気がする。

そんな顔で見つめるナミに気付かぬまま、ウタはフランキーに捲し立てる。


「私が欲しいのは歌うための道具!! 武器に変形しちゃうのはなんかさ…違うでしょ!?」


「なんでだ!? 変形は男の浪漫なんだぜ!?」


「そうだぞウタ!!!」


「ルフィは黙ってなさい!!!」


ダメだ、ルフィがいたら話がややこしくなる。

そう判断したナミはルフィの腕を掴み渦中の空間から引き離していく。


そして、残されたフランキーとウタの二人による会話が続いていった。


「いやでも色々詰め込んだ方がよォ…」


「とにかく!! やめてね?」


「…おう」


反論を続けようとしたフランキーであったが、ウタの発言に遮られ気勢を削がれる。


要らぬお節介だったか。

意気消沈しているように黙り込んだフランキーの傍にウタが座り込む。


「……心配してくれてるのは分かってるからさ」


「……!!」


フランキーは驚きの表情を浮かべ、ウタに顔を向ける。


何故フランキーがこんなことをしているのかは分かっている。


ウタはお世辞にも戦闘面で優れているとは言えない。

”麦わらの一味”の中で、ほぼ間違いなく正面からの戦闘行動に関しては最下位を争う弱さだろう。


だから、護身用にと武器を搭載しているのだろう。

変形機能は間違いなく本人の趣味だろうが。


それはそれで別のものとして渡してくれれば自分も素直に受け入れるのに、とウタは苦笑いする。


でも分かっているのだ。

こういうくだらないやり取りに興じられるのも、フランキーなりの気遣いだろうと。


気の置けない仲間達との交流。

今まで言葉で交わせなかったこれらを提供し、ウタが何かしらを溜め込む前に発散させようという意図もあるのだろう。


多くの道に迷った者達に「兄貴」と慕われた男の気遣いが、嬉しくないはずがない。


「ありがとう、フランキー」


「…へっ!! 任せときなウタ!!」


胸に秘めていた想いを見透かされていたことに少々気恥ずかしさはあるが、そんなものよりも仲間から発せられた感謝の言葉に喜びを感じる。

こちらに向けて微笑むウタに負けないように、渾身の笑顔をフランキーは返した。



後日。


「ロビン~~!! フランキーが私のアンプに変な機能つけた~~!!」


「フランキー」


ウタに泣きつかれたロビンが無表情のまま、静かに腕を構える。

見つめる先には自分の迎える未来を察知し滝のような汗を流すフランキー。


「”二輪咲き”」


「待ってくれロビン!! せめて機能の説明だけでも…」


「”グラップ”」


「ホデュアーーーーーーーっ!!!?」



拝啓、トムさんへ。


大笑いしながら蹴り返してくれてありがとよ。

いつかそっちに行ったら目一杯話してやるぜ。


いや、もしかしたら既に知ってるかもしれねェな。

特にあいつの歌は、あの世にまで響きそうなスゥーパァーな歌だからな。


まあ、それ以外のことも話題は腐るほどあるから心配すんなよ。

おれとアイスバーグ達が作った最高の船に乗る、最高の仲間たちの話はな!!



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