すぐりこバレンタイン
「げ…夏油!こ、これをくれてやるのじゃ!」
理子ちゃんから呼び止められて振り返ったら、可愛らしいリボンで包まれた小さな箱を渡された。
「え?理子ちゃん?これチョコレート?」
「そ…そうじゃ!黒井とクラスメイトに友チョコを作ったのじゃが、余ってしまって捨てるのももったいないからお前にもわけてやるのじゃ!有難く受け取るがよい!(早口)」
理子ちゃんの顔が赤くなっているけど、どこか具合が悪いんだろうか。
「大丈夫?熱でもあるのかい?」
「ひゃっ!も、問題ないのじゃ!」
おでこに手を当てようとしたらガードされてしまった。
そういえば女の子は前髪を崩されるのを嫌うんだったか。迂闊だった。
「おーい、傑ー?何してんの?」
「ああ、悟。理子ちゃんからチョコを貰ってね」
「チョコぉ?」
「ほれ、お前にもやるのじゃ。有難く受け取れ」
理子ちゃんはそう言うと、悟にも似たような箱を投げ渡した。
「わ…っと、投げるなよな」
「義理も義理じゃが、お返しは3倍でもよいぞ!」
「はぁ?義理なのになんで3倍返ししてやんないといけないんだよ」
悟はそう言うと舌を出した。全く大人げない。
「そう言うなよ悟。コレは手作りなんだから手間暇がかかっているんだよ?」
「へーそーですかー」
悟は小指を耳に突っ込んでそっぽを向いた。どこまで子供なんだか。
「ありがとう理子ちゃん。私からはちゃんと3倍返しするから、ホワイトデーまで待っててね」
「別に……本気にしなくてもいいのに……」
理子ちゃんに向き直ってそう言うと、また理子ちゃんが赤くなってしまった。
「だって、作るの結構大変だったでしょ?」
「それは…そうだけど……」
「じゃあ私もちゃんとそれに見合ったお返しをしないとね」
「……ありがとう…」
小さな声で呟くようにそう言った理子ちゃんを悟が覗き込んだ。
「ふーん?」
「な…なんじゃ!」
「へー、なるほどね〜」
「だからなんじゃ!」
「ま、頑張りなよ。コイツ鈍いから」
「言われなくてもわかってるもん!」
2人はやっぱり仲がいい。
もしかして……そういう事なのか?
「……理子ちゃん。私も陰ながら応援するよ」
「……夏油……」
理子ちゃんの肩に手を置いてそう言ったら、なんとも言えない表情をされた。
隣では悟がお腹を抱えて笑っている。
私は何かおかしな事を言ったんだろうか。
もう一度理子ちゃんの方を見たら、赤くなっている耳が見えて、どこかがざわりとした。
この感覚が何なのかは、まだわからなかった。