じぃや頑張った

じぃや頑張った


R-18




 特異点では何が起こるか分からない。

気付けば上空に放り出されて落下しているだとか、何故かマスターのみ分断され逸れてしまったりとトラブルに見舞われる事はザラである。

なのでこうして逸れた側のサーヴァントが合流を目指し、そして足止めを食らう事も珍しくはなかった。

「山小屋があったのは不幸中の幸いというやつだな。……長く使われてないようだが贅沢は言えないか」

 埃の積もった床に顔をしかめながらもコルテスは足で乱暴に扉を蹴り閉めた。

ぐっしょりと濡れた髪や服からは雨水が滴り落ちて汚れた床に雫で線ができる程に酷い有り様で、サーヴァントとなった身であっても不快以外の何物でもない。

それでもコルテスは、腕の中に宝物のように抱えた少年がほとんど濡れていないことに安堵の息を吐いた。雨が降り出してからは咄嗟に自分のコートに包んだ事が功を奏したのだと、内心で自画自賛する。

 なんの事はない。レイシフトのため同行したはずのサーヴァントがトラブルでマスターと逸れ、山中をエネミーと戦いながら活路を探し、イスカリの魔力が尽きかけ雨にまで降られた所で幸運にも山小屋を発見したというだけである。

元々コルテスは軍隊を率いるサーヴァントだ。彼が本領を発揮するのは膨大な魔力消費を賄うマスターを横に据えての軍対軍の集団戦である。山を住処とする凶暴な獣を掻い潜り生存の道を探すのは、似たような経験はあれど補給もままならない現状では厳しいものがあった。

 それに早々に見切りを付けたのが共に逸れたイスカリである。彼は王でありながらジャガーの戦士であり、自ら銃を両手に携え先陣を切って戦った。

コルテスの焦燥にも構わずイスカリは襲い来るエネミーと戦い続け、敵わぬ相手から逃げ出したのか、あるいは獲物が弱るのを息を潜めて待ち構えているのか、周囲に敵の気配がしなくなる頃にはイスカリは地面に膝を付き魔力の枯渇に喘いでいた。

イスカリとて常にこうも向こう見ずではない。普段は淡々とマスターの指示に従い、そこに是も否も言い出さない。冷めた目で命令に従うだけの機械めいた有り様である。

それがマスターの目が離れた途端にこうだ。見るからに投げやりになっているイスカリをコルテスが放っておけるはずもなく。弱り果てながらも文句だけは一丁前のイスカリを抱きかかえて方々駆け回り、ようやく休息が取れそうな山小屋へ転がり込んだというわけだ。

「置いて行けと言っただろう」

「私をこんな山奥に一人ぼっちにする気かい?寂しくなるような事を言わないでおくれ」

 コルテスはベッドに積もった埃をできる限り丁寧に払ってからイスカリを寝かせ、消滅の危機にあるせいか冷え切った両手を自分の両手で包む。効果があると信じていたのでもなく、ただそうせずにはいられない衝動から来た行為だった。

 山小屋の外では一層雨脚が強まり、遠くで雷鳴が唸りを上げる。

しばし二人の間には沈黙が落ち、イスカリの荒い呼吸だけが閉じた空間でか細く響いていた。

「以前にもこうして貴方の手を握った事がある」

「……?」

 空気の重さに引きずられたかのような重い独白が沈黙を破る。

コルテスの両手に挟まれたイスカリの手は未だ冷たく、温まる様子がない。

「どんどん冷たく……重くなって。貴方は治療を拒んだから、私は貴方を助けるチャンスすら取り上げられた」

 手早く両手首を片手で戒めたコルテスは、戸惑うイスカリの薄い顎を指先で持ち上げ、唇を重ねた。

イスカリが驚いて硬直しているうちに捩じ込まれた肉厚の舌が口内を思う存分に蹂躙する。薄い少年の体がびくびくと跳ねるのを抑えながらコルテスは魔力を含んだ唾液を無理矢理喉奥に注ぎ飲み込ませた。

翻弄されるばかりのイスカリは呼吸すらままならず、弱った体でなんとかコルテスから逃れようと藻掻く。そんな弱々しい抵抗をコルテスが許すはずもなく、イスカリの餓えた体は貪欲にコルテスの魔力を得て徐々に満たされていった。

「何も出来ずにまた目の前で貴方を失うなどあってはならない。そんな恐ろしい事は、二度と起こさせはしないさ」

コルテスの指がイスカリの衣服に掛かる。自らの命運を悟ったイスカリの目が、怯えに揺れていた。




 風に煽られて立て付けの悪い窓ガラスがガタガタと鳴る。そんな騒音をかき消すように古ぼけたベッドをギシギシと鳴らす二人の吐息が重なり、クチュリと湿った音がまた鳴った。

「あッ、いらない、もういい、嫌、」

「こんなタイミングで止めろだなんて酷い事を言う、なっ!」

酸素を吸い直すのもそこそこに抗議したイスカリに、仕置きと言わんばかりにぱちんと皮膚のぶつかり合う音を鳴らしてコルテスが猛る杭を打ち付ける。薄い腹を深く抉られる衝撃にイスカリの喉から細い悲鳴が迸り、それすらもコルテスの口内へ飲み込まれていった。

注がれる魔力を受け取ったイスカリの頬に赤みが増していく。冷え切っていた体は今や汗ばむほどに熱を持って男の情欲を煽っていた。

「うっ、やぁ……!」

 イスカリの内でコルテスから分け与えられる体温と魔力が自分のそれと混ざり合う感覚に拒否感が芽生える。肢体をくねらせシーツを蹴りながら熱源から逃れようと暴れるも体格に優れるコルテスに安々と引き戻され、より深く男を銜え込む羽目となった。

苦痛を伴うはずの行為であるにも関わらずイスカリの苦悶の声にどんどん甘さが増してゆく。与えられる魔力をより取り込みやすくするために餓えた体は拒む心を裏切りイスカリを快楽の坩堝へと突き落とした。

 ふと唾液を飲ませる事に夢中になっていたコルテスが腹の上を掠める熱に気付く。身を起こして確認してみれば、イスカリの陰茎がすっかり膨らみきって先走りに濡れていた。同性の性器でありながら少年らしく使い込まれた形跡の無い薄い皮膚をしているせいか、コルテスにしてみればいっそ可愛らしさすら覚える程だ。

 コルテスの中で嗜虐欲がグラリと煮え立つ。イスカリを支配しているという感覚が男の茹だった頭を欲望のままに突き動かしていた。

コルテスが髪を結んでいたリボンを解く。生前とは違う色に染まった金髪が広がり男の表情を影で覆った。

イスカリがそれを疑問に思うよりも手早くコルテスは眼下で頭をもたげ主張する若い雄の根本をしっかりと縛り上げてしまった。

「ヒッ…!?なんでぇ…?」

「なんでって魔力供給なんだから、出しちゃ駄目だろう?……ね、我慢我慢」

「やだ、外せっ…!くぁっ、っだ、めっ、…!」

イスカリが縺れる指でリボンの結び目をカリカリと引っかくも、固く結ばれたそれはちっとも緩む気配を見せない。

吐精の悦楽を奪われたイスカリの中に快楽がどんどん蓄積していく。それは色事に不慣れな少年の体ではただ翻弄されるばかりであった。

「っあぅ…ッひっ…!?止めろ、やめッ…!あ゛、ぁあ゛ッ…!!」

 コルテスが奥をトンと突いただけでイスカリの薄い体は陸に揚げられた魚のように跳ねる。もはや快楽以外の感覚がない下半身をガクガクと震わせて泣き喘ぐだけの少年に、当初の目的すら忘れた男がねっとりと腰を押し付け興奮に奥歯を食いしばる。

「ぐる、し、やァ゛…ッ!ひい゛っ、あ゛、う゛ぅ…!ハーーーッ…ハ…、あぁ…、ひ、も゛、ぉっ、ぬけ、ってぇ…!」

泣き腫らした目から溢れる涙を啜りながら男は遠慮なく痙攣する腸壁を捏ね回す。いよいよ自身の限界が近い事を悟ると肉付きの薄い腰に痣が残りそうな程の力で鷲掴み、一分の隙間もなく皮膚を密着させた。

当然その全長はイスカリの中に埋まりきり、きつく閉じる弁へ向けて精が放たれる。

「あ゛ーー……、あ゛づい、…中、出て、…う、ぅ゛ー……」

 グッ、グッ、と最後の一滴までをイスカリの体内に擦り付けて、コルテスは深い溜め息と共に萎えた性器をゆっくりと引き抜く。

いつもは嫌悪に歪んだ表情でコルテスを見上げるイスカリも、今は虚ろな目でゼイゼイと荒い呼吸を繰り返し、涙や涎でぐちゃぐちゃになった顔を取り繕う余裕もない。

その汚れた頬をコルテスの分厚い掌が壊れ物に触れるかのように撫でていく。

伝わる体温はぽかぽかとしていて眠りに落ちそうになる子供のようで、少なくとも魔力不足で消滅する危機は脱したと言ってもいいだろう。

力無く横たわりコルテスの手を振り払う気力もないイスカリに再び獣欲が疼くのを感じたが、少年の瞼が徐々に閉じかけていくのを見て、それを見ない事にした。

 このまま消滅したところでカルデアに帰還するだけであろうことはコルテスにも分かっていた。それでももしかしたらという恐怖はどうしても拭い去る事ができずに衝動のまま少年の体を暴く暴挙に及んだ。

「……どうなんだろうな」

もっともらしい言い訳を並べ立てているだけで本当はただ彼に触れたかっただけなのかもしれない。過去に許されなかったその行為をぶつける絶好の機会に身を委ねただけなのでは?

コルテスは脳裏に浮かんだ全てから目を反らして手中の少年をきつく抱き締める。今少しこの満足感に浸っていたかった。

 外ではまだ冷たい雨が降りしきっている。



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