さよならの前に祝福を

さよならの前に祝福を

心中未満ドレホドレ


「まるで恋人同士みたいだな」


 熱にでも浮かされたように言葉を放ちながらこちらに振り向くドレークはまるで子供の様に無邪気で、それでいて何処かが壊れているような歪な表情を浮かべている。 いや正真正銘子供か。ドレークも、そして自分自身も。思わず自嘲してしまいたくなるがそれをおくびにも出さずにただ一言「そうだな」とだけ返した。

 実際、指と指を絡めて固く決して離さないように手を繋ぎ真夜中に二人で山の中へ、という光景は恋人同士のそれであることは間違いないのだろう。

 それが孤独で無力な子供達の、最後の小さな逃避行であったとしても。


 繋がれたホーキンスの手に力が入る。ひとりにしないで。ドレークの言葉にならないそれを聞き、縋りを受け入れるかのように握り返した。ザクザクと草木を踏みつける音だけが静かな夜に響いている。あと少しで全てが終わる。

嬉しいような、悲しいような、寂しいような、安堵するような、そのどれとも言えないような、全てのような、濁流かの如くひたすらに流れていく曖昧な感情に支配され、互いに言葉一つも交わすことなく歩を進めた。


 木々に囲まれていた景色が開かれ、頂上に辿り着く。その時──二人はただ目を奪われた。


「綺麗」


 そう言葉を放ったのはどちらだったのか。

 満点の星空。そう呼ぶしかないほど輝かしい夜空がそこには広がっていた。キラキラと宝石のように暗闇を照らす星の数々を眺めるその時間は数秒にも、数時間にも、そして永遠にも思えた。繋がれた手の力が緩む。


 この世界は一面の星とドレーク、そしてホーキンス。それしかなかった。親だろうが宗教だろうが何もかもがない。ただ三つだけで構成された世界がそこにはあった。

 横目でドレークの方をちらりと見る。彼の目元には涙が浮かんでいた。多分、自分にも滲んでいるだろう。それほどまでに圧巻される景色だった。ドレークがポツリと呟く。


「……祝福してるのかもな」


「何をだ?」


「俺とホーキンスの〝生〟を」



 その瞬間、後ろから懐中電灯の明るすぎる光が差された。夜闇に慣れた二人には余りの明るさに、思わずぎゅっと目を瞑る。こちらに向かって走る音が聞こえた。そして二人ごと纏めて抱きしめる暖かくも力強い体温が伝わる。ゆっくり目を開けるとセンゴクがこちらを安心させるかのように「大丈夫だ」とだけ言って笑っていた。


 失敗したのか。ホーキンスはその事実に後悔や落胆はしておらず、それどころかどこか晴れやかな気分ですらあった。まぁ、最後の最後にあんなとてつもなく大きな祝福を受けてしまったのだからしょうがないか。ドレークと顔を見合わせると、互いに小さく口元を綻ばす。


星空がより一層輝いた気がした。

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