こんな雨の日は

こんな雨の日は

キャラ崩壊・解釈違い注意!!

 最近メキメキと頭角を表し始めている海賊“麦わらの一味”。そんな彼らが乗る船はいま大雨に打たれていた。

 普段は夜中以外、賑やかな声に溢れているこの船だが、雨が降っているので珍しく静かな空気が流れている。

 通常、海上で大雨が降っているのならば海は荒れ、波や風に煽られないよう船上は慌ただしくなるはずなのだが、ここが常識外れの“偉大なる航路”ゆえか、かなりの大雨だが海は怖いくらいに落ち着いている。

 海が荒れていないならわざわざ雨に打たれる必要はない。なので船員たちはそれぞれ自由に過ごしながら雨が上がるのを待っている。


……約一名を除いて。



「早く雨止まねェかな〜。」


 そう気だるげに呟いたのは麦わらの一味の船長であるモンキー・D・ルフィ。随分と暇そうだがそれもそのはず、この男は動いていないと気が休まらないタイプの人間。常に死が寄り添う航海において、今日のような平穏な時間は珍しいのだが、それがさらに彼の退屈を増幅させてしまっている。


「眠くもねェし、なんかないか聞いて回るか〜。」


 そう吐き捨てると、やたらと重そうな腰を上げて立ち上がった。船員たちの協力を得て雨が止むまでの時間を潰そうという魂胆のようだ。






「みんなダメだった。ナミ…はなんか怒られそうだしやめておくか…。」


 どうやら全滅したらしい。

 軽く説明すると剣士は昼寝中、狙撃手は何やら発明の最中、コックは夕飯の準備中、船医は医学書を熟読中、航海士と考古学者は諸事情によりノータッチ。


「いや、まだあいつがいるか。」

 何かを思い出したようで再び歩き出す。




「ようマリアンヌ!何してんだ?」


 彼が最後の望みをかけて声をかけたのは最近一味に加わったマリアンヌという女性。…見た目だけだと女性と呼ぶほどの年齢には見えないが。


「あ、ルフィ。今は道具のお手入れしてるとこ。」

「道具?あ〜筆とかか。大変だな。」

「そうだけど、ちゃんとお手入れしないといざという時に困るからね。」

「サンジもおんなじこと言ってたぞ。」

「コックさんだもんね。……それで、何か用があって来たんじゃないの?」

「ああそうだった!雨が止むまで暇でしょうがなくてよ、何か面白いことないか?」

「相変わらず無茶苦茶な頼み事してくるね。」


 何度もこの船長に振り回されてきたマリアンヌはこういった要求にはもう慣れている。


「(う〜ん…何かあるかなあ)」


 それでも断らず彼の要求に応えようとするのは、彼女が他ならぬ船長ルフィに対して想いを寄せているから。もちろん恋心という意味で、だ。


「(あ、そうだ)」



「絵、描いてみない?」



「絵か〜…でもよ、何描けばいいんだ?」

「何でもいいよ、この部屋にあるものでも食べ物とかでもいいし。」

「う〜〜〜ん…いいやつが思いつかねェ。」


 密かに(これは失敗だったかな)と思うマリアンヌだったが、その直後に妙案を思いつく。




「じゃあさ、私のこと描いてよ。」



────────────



「私って…マリアンヌを描くのか?」

「そう、人物画ってやつ。身近な人の絵は描いたことないでしょ?」

「まあ…そうだな。」

「じゃあ準備するね。」


 半ば強制的にルフィを丸め込み、いそいそと準備を始めるマリアンヌ。普段の彼女は絵の具を使うが、今回は鉛筆を準備したようだ。


「はいここ座って、私は向かい側に座るから見ながら描いてね。」

「お、おう…。」


 準備を終えたマリアンヌに言われるがまま、ルフィは椅子に腰を下ろす。


「見ながら描くのは初めてだぞ、どうすりゃいいんだ?」

「難しく考えなくていいよ。とりあえず特徴を捉えられれば大丈夫。ルフィなら麦わら帽子とか、私なら……そうだね、帽子と髪型とかかな。」

「なるほどな〜じゃあ描くか!」


 マリアンヌのアドバイスを聞くやいなや鉛筆を走らせ始める。


 シャッシャッと、鉛筆が削れる音だけが部屋に響く。順調かと思われたその時、ルフィの手が止まった。


「どうしたの?」

「ん?ああいや、服むずいなって思ってよ。」

「じゃあ脱ごっか?」

「ほんとか!?


 ……いや待て何言ってんだダメに決まってんだろ!」

「脱いだら描きやすくなるでしょ。それに『ヌード』ってちゃんとした絵もあるから大丈夫だよ。」

「何も大丈夫じゃねえ!もうすぐ終わるからそのままにしてろ!」


 サラッととんでもない提案をしたマリアンヌに、ルフィは慌てて否定の言葉を繰り返す。

 このまま悩みながらゆっくりじっくり描いていては、マリアンヌが本当に脱ぎかねないので慌てて絵を完成に導く。


「よしできた!」

「お疲れ様、見せてくれる?」

「いいぞ!」


「うん、じょうずじょうず。」

「…何か馬鹿にしてないか?」

「してないよ…ねえ、これ貰ってもいい?」

「その絵か?おう、別にいいぞ。」

「ありがとう、宝物にするね。」

「大袈裟だなあ、そんなんでいいならまた描いてやるぞ?」

「ほんと?」

「おう!」


 自分が描いた絵を見て嬉しそうにするマリアンヌを見て、ルフィはそう告げた。ルフィ自身も後半雑に描いてしまったと珍しく少し後悔しているようだ。



「じゃあ次はヌードでお願いするね。」

「だからやらねェって言ってんだろ!お前あれだぞ、女が簡単に裸見せちゃダメだろ。」

「それはそうだね。でも私はルフィになら見られてもいいの、むしろ見て欲しい。」

「やめろっての!隙あらば脱ごうとすんな!」


 そう2人が言い争っている間に雨は上がり、晴れ間が覗いていた。待望の瞬間のはずだがルフィは気づいていない。

 さらにこの後部屋を出てきた船員たちに会話を聞かれて一悶着起きるが、今の2人に外に意識を向けるだけの余裕はない。

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