こんな出会いがいい

こんな出会いがいい


ある日、ルフィはシャンクスの船に乗っていた。航海に参加しているわけではなく、ウタに頼み込んで停泊中の船の探検をさせてもらっていた。

初めは意気揚々と船の説明をするウタの話を「へー」「ふーん」と聞いていたが、元来落ち着いて解説を聞くような性格じゃないルフィは、自分が気になった方へ勝手に動き回り始めた。

とある部屋の扉を開けると、置かれた小さなベッドの上に誰かがいた。つい先程まで一緒にいたウタ、とルフィは思ったがよく見ると違う。

見た目こそウタと瓜二つだが、紅白の髪の彼女とは違う青い色が目立つ。目も、勝ち気なウタより少し垂れ気味で、"弱そう"に見えた。

少女は突如部屋に侵入してきたルフィを怯えた目で見ている。

「誰だおまえ」

勝手に入ってきておいて不躾にそう問うと、少女はビクッと体を震わせる。自身にかけられていた毛布を握りしめ、目を伏せた。

「アド……」

「そっか!おれはルフィ!おまえも赤髪海賊団なのか?」

「……ちが」

「こら!!」部屋に怒鳴り声が響く。驚いたルフィが振り向けば、ウタが立っていた。

「勝手にどっか行かないでよ!探したでしょ!」

「だってウタ話なげェし……」

「あんたのために説明してあげてたんでしょ!」

ウタはルフィからアドに目を移すと、ふっと優しい顔になる。

「起きてたの、アド。ホンゴウさんの薬はもう飲んだ?」

「うん……大丈夫」

「つらくない?何かあったらあたしに言うのよ?」

「うん。ありがとうお姉ちゃん」

ウタはよしよしとアドの頭をなでる。

アドも嬉しそうに、少し照れくさそうに目を細めた。ルフィはそんな2人の様子に首を傾げる。

「ウタ、そいつ誰だ?」

「アドよ。あたしの可愛い妹!」

「へー!そっくりだな!」

「当たり前でしょ。あたし達双子だもん」

双子、ルフィは目を輝かせた。

「じゃあアドも一緒に勝負しよう!3人で誰が1番海賊に相応しいか決めよう!」

「ばーか、海賊じゃないのはあんただけじゃない」

それに、とウタは続ける。

「アドはダメよ。アドは体が弱いんだから、あんたの無茶になんか付き合ってらんない」

「え?ビョーキなのか?」

「風邪ひきやすいだけ!……大事をとって、まだフーシャ村に下りられてないの」

ルフィはアドを見る。目が合ったアドは、気まずそうに目をそらした。

「そっか……じゃあ、おれがいろんな話、聞かせてやるよ!」

ニッと笑い、ルフィはアドのベッドに飛び乗った。ギシリとスプリングが軋む。目の前に現れたルフィの笑顔に驚き、アドは毛布の中に隠れてしまった。

「あ、もうルフィ!アドを怖がらせないで!」

「フーシャ村のこととか!ウタとの勝負のこととか!おれの修行のこととか!おまえに聞かせてやる!」

ウタは怒るがルフィは構わず、盛り上がった毛布に声をかける。恐る恐る、と言った感じで毛布からアドが顔を覗かせた。

「そんでさ!アドが元気になったら、3人で勝負しよう!チキンレースとか、かけっこ勝負とか!楽しいぜ!」

嬉しそうに続けるルフィをアドは困惑げに見上げる。ウタはため息をつきながらも、同じようにベッドに腰掛け、妹の頭に手を置いた。

「わかった、ルフィも聞かせてあげて。……ルフィの話よりあたしの話の方が楽しいけどね」

「何をー!おれの方が楽しい!」

「あたしは毎晩アドにお話ししてあげてるもん!」

「しゃあ今日の勝負はお話し勝負だ!アドを笑わせた方が勝ちだからな!」

「望むところ!」


いつもより騒がしい自分の部屋。自分を心配していつも暗い表情だった姉が、楽しそうに笑っている。最初は驚いたけれど、騒がしくて、楽しい友達もできそうだ。

アドはかぶっている毛布や、置かれた大好きな姉の手とは別の温かいものを感じ、勝負が始まる前に微笑んだ。





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