この際

この際


・エロくない

・モブが出しゃばる

・謎時空

・モモンガさんがスモーカー君呼び

・スモーカーさんがモモンガさんに対して敬語






——これは、脈がある。

モモンガでさえ分かった。壁に追いやられ、見下ろされてる男の顔は何よりも雄弁に語っていたのだから。


最近まで、同僚や部下達が噂していたのを聞いていた。しかし所詮、噂というものは根を葉を生やす挙句尾鰭が引っ付けるキメラのような物である。種はあれど、育ちきる頃には面影などなくなっているものだ。何を言いたいかと言うと、モモンガは自分がとある男に想いを寄せられてる噂を知っていた。

モモンガに想いを寄せているのは、煙の悪魔を喰らった男“白猟のスモーカー”だ。モモンガはこの時点で頭痛がしていた。なぜ、という言葉しか思い浮かばない。モモンガだけが言えることではないが、海軍にしてはイカつい顔に、自他共に厳しいあの男は色恋という言葉から最もかけ離れている。己の信念を決して曲げず、時には上を背く姿は“野犬”と揶揄されている。しかしそれは決して短絡的ではない。場を見て何をすべきか何が必要か臨機応変に動ける器用な男でもある。そんな男が、なぜモモンガを想うなどと巫山戯た噂が流れたのか。

噂を聞いたのは、食堂で昼飯を取っていたときだ。うどんのスープに浸った天ぷらを、突いていら斜め後ろから若い声が聞こえてきたのだ。

「なァお前、海軍G-5支部のスモーカー中将知ってるか?」

「知ってるも何も有名人だろ、それがどうしたんだよ」

「おれ聞いちまったんだけどよ……あの人、モモンガ中将のことが好きらしいぜ」

「あ〜あの噂な」

「なんだよ知ってたのかよ〜」

思わず水を吹き出しかけるも寸前で止まる。好き、という二文字もそうだが。何よりもその噂がそれなりに出回ってる可能性に驚いた。

「好きって言うけどよ、それってなんなんだ?」

「それって?」

「例えば普通に尊敬とか、お前がガープ中将に憧れてるみたいに」

「だってガープ中将かっこいいじゃん」

「それはそう、あとファンというか信者みたいな」

「部下のたしぎ大佐みたいな?」

「そうそう、あとはー……恋とか?」

今度こそ耐えきれなかった。ヒゲがうどんの汁でベタベタになる。カウンターのマダムが怪訝な顔をしていたが、咳払いで誤魔化した。

「え〜よりにもよってそれかァ?」

「でも軍とかじゃ珍しくないらしいし、二つ隣の部屋のマイケルはサカズキさんに抱かれたいらしいぞ」

「マジで……?」

「男社会だしな、明日は我が身だ」

「えー……おれおっぱいデケー姉ちゃんが好きなままでいたいなぁ」

「わかる」

変に深刻そうに話す海兵達の声はモモンガにはとっくのとうに聞こえなくなっていた。それからと言うもの、気にしないようにしても噂は耳に入ってくるばかりで挙句には同僚に尋ねられたりもした。確かにモモンガもスモーカーに対して特に悪い感情を抱いていないが、それだけである。ましてやあの突っ走っていく男はずっと前を見ているのだ。自分はそもそも視界に入っていないと思っていた。

噂を聞いてから一週間と半分ほど過ぎた。その頃にはだいぶ気にならなくなっている。なにより日々、疲れ知らずな海賊に上層から末端まで振り回されているのだ。惚れた腫れたの噂ばかり気にしているわけにもいかないのだ。

「モモンガ中将」

「お」

丁度考えていた男が角から現れる。普段は新世界側に身を置いているからか、中々顔を見れないものである。軍人故に生傷が絶えないからか頬に貼られた絆創膏などは目立つ。それでも特別変わった様子はなかった。来たのもきっと定期の報告だろう。邪魔しては悪いと、軽い会釈をしそのまま去ろうとした。

「……—」

「オイゴラアァァァァ!!」

「「!?」」

「すみませえええええん!!」

後方から二人分の走る音が聞こえてくる。何かと思い見てみれば、二人の海兵が走っているではないか。一人はコートを羽織っているので、上下の関係があるのは確かだ。

「電伝虫の餌やりサボるなっつっただろがァァァァァァ!!!!」

「すみませんでしたァァァァァァ!!!!!」

(あー、これは……)

どの海兵も一度は通る道である。所属された部署の電伝虫には、日替わりで餌やり当番があるのだ。几帳面なものならともかく、忘れっぽい輩は毎年必ず現れる。餌を忘れてしまえば、いざという時に電伝虫が臍を曲げて通信機能が麻痺してしまう。その場合は餌をきづいたものが餌をやり、忘れた物を上官に報告するのが常であった。モモンガも報告したことがある。

(あ)

走ってきた上官が、モモンガにぶつかる。謝る間もなく走っていったのを見るに、あの海兵は常習犯なのかもしれない。それよりも、ぶつかった拍子によろけたモモンガら両手を壁に付いた。鍛錬不足かと、反省しながら目線の先の白い頭に気づいた。

「すまないスモーカー君、怪我はない……」

「……」

煙の悪魔を喰らった男は、頭からペンキでも被ったかのように白い。その男が顔を赤くしていた。流石にモモンガも熱などではないと分かる。そう、あの噂の事実を突きつけられたのだ。


冒頭に戻る。噂の答えを語る顔は、いつもより強張り緊張しているのが伺える。一文字に結ばれた口を開く。

「だい、じょうぶなので……」

そう言いながら目を伏せた。例え怪我をしていなくても、その顔の赤さは誤魔化せない。なぜ、こんなにも赤く染まっているのか。ふと話を思い出す。食堂の見習いか、若い娘達が話していた。まだ青さの抜けない彼女達は、頬を染めながら理想の男性像を語っていた。その際に、一つのシチュエーションを聞いたのだ。

(壁ドン……)

男性が、手や腕を壁に当て女性を壁際に追いやる。どうにもそのとき縮まる距離が醍醐味なんだとか。では、この男もそうなのだろうか。ちなみにモモンガは気づいていないが、壁ドンは一般的に片腕、片手のみ使う戯のようなものである。しかしモモンガの場合は、不慮の事故だったため両手を使っていた。そして二百を超える体躯は、スモーカーを包んでしまうほどあった。つまり、食堂の娘達が語る理想像より破壊力が桁違いなのだ。運が良かったのはモモンガは彼女達のストライクゾーンには当てはまらないこと、運が悪かったのはスモーカーがモモンガに対して尊敬以上の感情を抱いていることである。

「あの、」

「大丈夫とは言うが、顔が赤いな」

ズイ、と一か八かモモンガが近づく。興味半分と善意半分、結果は更にスモーカーが顔を赤くした。本人しか拾えないくらいの小さな悲鳴だってあげている。

「熱でもあるんじゃないか?」

無いことは分かりきっている。それでも手の甲を額に当てれば、火が出そうなくらいに真っ赤になった。白い髪が映えるくらいに。何か言いたいのか、口をパクパクと開いているが言葉は出てこない。何が出てくるのか気になって、見つめて待った。しばらくして、意を決したかのようにスモーカーが口を開いた。

「気づいて、ます……?」

そう、スモーカーは勘の良い男でもあった。


「……すまない」

「ひでェ人だ、人の気持ちを弄んで」

流石に言葉が詰まる。ぐうの音も出ない。実際、混乱したスモーカーは滅多に見れるものではなくて少々面白かったのも事実だ。睨みながらも、顔の赤さは治らない。

「それで」

「忘れてください」

「……は?」

「尊敬が恋慕に変わっただけ、別にまだどうしたいかも考えてないんです」

「それにしたって……」

「とにかく、今回のことは一旦無しにしてください」

身体の一部が透けていく。お得意の能力で逃げるつもりだとすぐに気づいた。武装色を纏い、透けかけていた腕を掴む。

「あんな顔見て忘れられるわけないだろう」

「……忘れろ、とは言ってません」

「……あ」

「それと、傲慢ですが好きな男の前で簡単に照れたおれの気持ちも少しは汲んでくださいよ」

「え」

そしてスモーカーはモモンガの前から文字通り姿を消した。取り残されたモモンガの顔は、伝染したように熱を持っていた。

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