この恋のあきらめ方.method - コピー - 最新 ←これが最新
※キラーとローが恋の相談をする話のようななにか
※捏造しかない(元々集団幻覚)
「なあコラさん聞いてくれ、あいつに銀行口座を教えるのはダメだ。絶対ロンダリングに使われる」
隣町のファミレスでキラーはローと二人で席についていた。二人きりで、だ。
この会に名前は無いが、単に定例会とだけ呼んでいる。
向かい合わせに座ってドリンクバーとチキンドリア、ペペロンチーノを注文した直後、ローのスマホに着信が掛かってきた。軽くうなずき通話に出ることを促すと短く礼を言われた。
「気づいたらコラさん名義の口座を作成されてた? それに暗証番号があいつの誕生日?」
この定例会ではお互いの想い人に対する胸の内を話して、アドバイスし合うことを目的としている。
今回のように知り合いと会う確率の低い隣町まで赴きファミレスで駄弁ることもあれば、カラオケで五時間ぶっ続けで失恋ソングを歌ったりする日もある。以前ボニーに話したら「告白もしてないのに失恋ソングメドレー……?」と、ほうばっていたピザを落とすほど驚かれ、キラーは少し泣いた。
自分の好きな人が別の人に恋をしている。言葉にすればそれだけのことを心から共感し合える相手が身近にいるのはきっと幸運だ。
たとえ自分の好きな人が目の前の相手に恋をしているのだとしても。
「その口座は絶対に使わない方がいい。次の休みは? コラさんの新しい口座作りに行くのにおれも付き添う」
ローの方は少々込み入った話になっているようだ。漏れ聞こえてくる内容に不穏なものを感じつつキラーは席を立った。ドリンクバーで自分用にアセロラジュースをローには少し迷ってウーロン茶を入れて戻る。
今回はキラーもローに重要な話をするつもりで来ていた。
「不正の証拠見つけたらさ、盛大にあいつの会社の株、空売りして大儲けしよう? その資金でセンゴクさんも誘って旅行に行こう。ついでにさ、その旅行に連れて行きたい奴が……」
ローがペーパーナプキンにボールペンで『悪い、もう少しで終わる』とメモを書いて見せてきたので、ボールペンを借りてにこちゃんマークを描いて返した。
頼んだ料理はまだ来ていない。
キラーは暇を持て余し特に目的も無くカメラロールを開いて写真を眺めていた。
大晦日にクラスの皆で大騒ぎをした時、クリスマス会でのプレゼント交換、ハロウィンパーティー、文化祭、海水浴。どの写真にも中心にキッドがいて我ながら分かりやすいなと苦笑いをした。
さらに遡ると定期テスト対策のためキラーの部屋でキッドと二人、テスト勉強をした時の写真が目に入った。
早々に寝落ちたキッドに背後にある窓から夕日が差していて、眩しくて泣きそうになったのを覚えている。触れようとする手を抑え、とっさにシャッターを切った自分を褒めたかった。
この先この思い出さえあればいいとすら思えるほど、胸に焼き付いた光景だった。
ローが通話の相手に挨拶をしている声が耳に入りハッとした。
いつの間にかグラスに付いた水滴がテーブルに水たまりを作り始めていた。
「待たせて悪いなキラー屋。あとウーロン茶も助かる」
「気にするな。それより今日はどうしても話しておきたいことがあって……ん?」
「どうした?」
スマホの画面を消す直前、テスト勉強時の写真の近くに覚えのないサムネイルが見えた。
タップし開いてみると、机に突っ伏し眠っているキラーの顔のすぐ傍に、爪をポリッシュで塗った男の左手がピースサインをして映っていた。机に置いてあるプリントの裏に舌を出して憎たらし気に笑っている顔の絵が、強い筆圧で書かれていた。
思わずスマホを取り落としてしまい、テーブルに転がり大きな音がした。
ローの肩がビクッと震えたのが目に入ったが、キラーの心中はそれどころではなかった。
恐る恐るスマホを拾う。薄目で見た画面にはやはり先程の写真が表示されている。
心臓が激しく音を立てていた。
「お、おいキラー屋、何だその写真。ユースタス屋か?」
「そう……みたいだ。こんな写真撮られてるなんて気づかなかった」
撮られた日付を見ると定期テスト後の日にちを示していた。
なんとか記憶を遡りその頃の出来事を思い出す。
「たしか定期テストが終わった後に見直しをしようと言って呼び出した気がする」
「見直し? ユースタス屋がそんなことする訳ないだろ」
「ああ、まあ集まる口実だしな。教科書を開いた記憶もない」
すっかり忘れていたがキラーはその日、テストが終わって緊張が解けたのか珍しくキッドがいる間に少しだけ眠ってしまったのだ。写真はその間に撮られたものだろう。
だがキッドがわざわざキラーのスマホで写真を撮る理由がない。
もしあるとすれば、キラーへの意趣返しだ。
「バレてた。バレてたんだ、どうすればいい? いやまて、だが……」
「落ち着けキラー屋。話が見えない、ひとつづつ話せ」
「……少し頭を整理させてくれ」
「ああ。今度はおれが待つ番だ」
テーブルに肘をつき頭を押さえて思考を整理していると、ようやく頼んだ料理が運ばれてきた。
あたたかい料理を食べると自然と心が落ち着いてくるのを感じる。
チキンドリアで舌を火傷したローを笑えるくらい冷静になると、ぐちゃぐちゃだった内心が不思議と言葉になって出て行った。
「待たせてすまない。……まず今日トラファルガーに話したかったのは、おれがキッドを追いかけるのをあきらめようと思っているということだ」
「先月の定例会でも聞いたな」
「今度こそはと覚悟を決めてきた、つもりだ。つもりだった、が正しい。おれはキッドからは相棒としか思われていないが、この関係が壊れるのも怖い」
ローは無言でチキンドリアに息を吹きかけ、キラーに話の続きを促した。
「夏休み前の定期テストの勉強会をキッドと二人でやった時、あいつが寝落ちたのをいいことに勝手に寝顔の写真を撮ったんだ。だが、」
「知らない間にやり返されていた」
「そうだ。なあトラファルガー、キッドは……」
「無責任に聞こえるかもしれないが、その問は直接ユースタス屋にぶつけた方がいいんじゃないか? 仕返しされてたのに今気づいた、とでも言ってみろ。キラー屋が好きになった相手はそんな小さいことを気にする奴じゃないだろう」
「……そうだな。ありがとうトラファルガー」
キラーはメッセージ画面を開いてキッドに向けて『今気づいた』との旨を送信した。
冷め始めたペペロンチーノを啜っているとキッドから通話が掛かってきて、ローが早く出ろとキラーに向けて頷いた。
「急に悪ィなキラー」
「構わないが、何か用事でもあったか?」
「用ってほどの話でもねェよ。今日は行くとこ行くとこドレークとホーキンスのデートコースと被っててな、なんか疲れた」
「ああ、そういうことか。お疲れ様」
いつもと変わらないキッドの声に安心する。
ローがキラーの隣の席に移動し、スピーカーに耳を近づけて成り行きを見守ってくれているのもありがたかった。
「やっとおれからの仕返しに気づいたんだってな」
「あ、ああ」
「キラーはよくおれの写真撮ってるだろ?」
「……気づいてたのか」
「そら知ってるだろ。でも、撮るなら一緒に撮ろうぜ? おれもキラーとの思い出ほしいし」
危うくまたスマホを落とすところだった。
ローが「罪な……」と口の動きだけで言っているのが分かった。
キッドは相棒のキラーに向けて言っているのは理解しているが、それでも顔が紅潮するのを止められない。
またキッドを好きになってしまった。あきらめようと思う度に改めて好きになってしまうせいで、この恋のあきらめ方がまた分からなくなってしまう。
「キラー屋の問題も解決したことだし、次はおれの相談だな。麦わら屋の幸せを考えるとおれは身を引くべきなのかどうか……」
「先月の定例会でも聞いたぞ」
えんどれす!