この思い出も、宝物
いつものように何一つ変わりないピクニックの真っ最中。アオイは手持ちポケモンたちと和気あいあいとピクニックをしていた、筈だった。
なのに先程から視界の端に見えているキラキラと光る湖を見てしまう。
たらりと汗がこめかみから顎をなぞって滴り落ちるのがやけに気になった。
自然と目がいった。ゆびをふるを受けたポケモンが如くアオイはそれに釘付けにされていた。誘惑といっても良かった。
言い訳に聞こえるかも知れないが、普段のアオイは決してこんなことをしようとは思わない。
強いていえば夏特有のうだるような暑さが原因で、魔が差してしまったのだ。
周囲に人は、いない。念の為手持ちポケモンたちに聞いても首を横に振るだけだ。
それが示す事実にアオイはごくりと一度唾を飲み込んだ。
……じゃあいいか!
ぐらついてた心の天秤はあっさりと傾いた。電光石火もかくやの早さで全ての服や靴を脱ぎ捨てたアオイは素足で草を踏む感触に可笑しさを感じながら、じりじりと全身を焼く日光から逃げるようにざぶんと湖に飛び込んだ。
途端、素肌に纏わりつく不快な生温い空気はヒヤッとした水に早変わり。
「───あははっ!」
やっちゃった。やってやった。
きっと私がこんなことをしたと知ったらママや友人たちは心配して怒るだろうな。なんて、生まれてきたままの姿でゆったり水を掻きながらも爽快感と何故か湧いてくる達成感につい笑いが止まらない。
そんなアオイをどこか呆れたように陸から見守るポケモンたちの中で一匹、コライドンが良いことを思いついたとばかりに駆け出して、アオイと同じようにどぼんと水に飛び込むと、側へとじゃぶじゃぶやって来た。
「どうしたの?コライドン?」
コライドンはじっとアオイの瞳を何かを期待するかのような顔で覗き込む。
長い間パルデアをともに旅をしてきたポケモン。お互い声に出さずとも何が言いたいのか手を取るように分かり合えた。
「うん、一緒に泳ごっか!」
アギャアス!と元気な鳴き声が響き渡る。
今だけここは私たちだけの縄張りで、この夏の思い出は私たちだけの秘密になる。