このあとハートの海賊団に入る4兄弟√アド2
赤髪海賊団が、マリンフォードに現れた。
”新世界”の四皇なんかがこんな海に来るとは。その珍しさで、ローは沖に並ぶ軍艦の向こうを眺めていた。
バギーから帽子を受け取り、ベポに急かされローは今度こそポーラータング号の扉を閉めようとしたが、アドがずっとマリンフォードに目を向けたまま立ち尽くしていた。
「シャンクス…………?」
「おい!」
ローはもどかしくなってアドの腕を雑に掴んで中に引き入れた。扉を閉めるのと同時に、潜水艦は海に潜る。
「帽子は取り返した!もういい加減にここから離れるぞ!!」
「……ッ、……うん、わかってる」
「キャプテン!!」
ローのもとへ駆け込んできたのは船員のペンギンだった。目深に被った帽子の頭にはペンギンのマスコットが揺れていて、アドは思わずかわいい、と呟いた。
ペンギン表情はあまり明るくない。
「どうしたペンギン」
「さっき麦わらとジンベエの血液型検査したんですけど、二人ともF型で!一応麦わら優先で輸血パック使ってんですけど、どっちも重症だから足りるかどうか……!」
「ッくそ、面倒な患者だな……!パックはそのまま麦わら屋優先で回せ。いざとなったら俺の血を───」
「あの!!」
アドの声が二人の間に割り込む。海軍の追っ手を振り切るために揺れ動く潜水艦に足がもつれそうになりながらも、ローを見据えアドは自分の胸を叩いた。
「わ、私の血、ルフィに使って!私もF型だから……!」
「………」
ペンギンが不安げな表情でアドとローを交互に見る。それを横目に、ローはアドを指差した。
「………血液提供は歓迎するが、その前にお前について教えろ。一体お前は誰だ?なぜこの艦に乗った」
海軍の猛追も収まってきたらしい、先程よりも揺れが弱まった艦内で、アドはまっすぐローの目を見つめた。
「私はアド。ルフィの姉で、…………エースの妹。これだけ言えば理由は分かるでしょ」
「…………どいつもこいつも、随分と家族思いなことだな」
ついてこい、とぶっきらぼうに言ってローはペンギンと共に廊下の奥へと進み、アドも慌てて後を追った。
▫️▫️▫️
「止血は済ませたが、麦わら屋の出血量はかなり酷い。よってお前の輸血量も多くなるわけだが、本当にいいんだな?」
「いいよ。元より兄弟を救けたくてここに来たんだから。私の血でルフィが救えるならいくらでもあげる」
ルフィが眠るベッドの隣に添えられた簡易ベッドに横たわったアドを一瞥して、ローは輸血の準備を進めた。
腕に針が刺さる。ゆっくりとチューブに血が流れていくのを、アドはぼうと眺めていた。その奥では、ルフィが眠っている。
……こんなにも静かに眠るルフィは見たことがなかった。微かに聞こえる呼吸音に合わせて上下する胸板の動きに、アドは少し安堵して息を吐いた。
輸血の処置を終え、ベッド脇の椅子に座っていたローがおもむろに立ち上がった。
「出来る限りの処置はしたが、目覚めるかどうかは本人の気力次第。現状お前の血がこいつの命を繋ぎ止める”命綱”だ」
「そう。……でも、ルフィならきっと起きるよ。まだルフィの”夢”は終わってないから」
ローはそれに応えないで、手術室の扉に手をかけた。だが、そこでふと思い出したように立ち止まり振り返った。
「お前、ナギナギの実の能力者だよな」
「えっ?うん、そうだけど……なにか?」
「……別に。献血にも問診は必要だろ。……俺はしばらく席を外すが、何かあったらそのボタンで呼べ。間違ってもさっきみたいに『音』を消すドジは踏むなよ?」
「なっ……!あれドジじゃないし!!」
「でも『またやった』んだろ?」
「ッ!ぐ、ぐぅ………ッ」
輸血中で身動きが取れず、アドはただ悔しそうにローを睨みつけた。ローは意地悪く笑って手術室を出た。