このあとハートの海賊団に入る4兄弟√アド

このあとハートの海賊団に入る4兄弟√アド



「麦わら屋をこっちへ乗せろ!」


開いた潜水艦の扉の陰に隠れながら、アドは酷く傷付いたルフィの姿を見た。ルフィを抱えているあの魚人は、たしか元七武海の人だったはず。しかも彼を掴んでいるのはシャンクスの友人であるバギーだ。どんな縁で彼らがルフィといるのかは分からないけれど、なんにせよ、


そこにエースがいないということは。


”それ”を悟ったとき、指の先から血の気が引いていく感覚がした。


​(私は、エースを救ける為にここへ来たはずなのに……!)


悔しさで『カムパネルラ』を握る手が強くなる。

扉の向こう、潜水艦の先に立ったこの船の”船長”は、空を見上げていた。


「麦わら屋とはいずれは敵だが悪縁も縁。こんな所で死なれてもつまらねェ!!」

(……!)


アドはハッとして”船長”を見た。『最悪の世代』と、ルフィと並び立って称されていた男。


「そいつをここから逃がす!!!一旦おれに預けろ!!!俺は医者だ!!!」

(………えっ医者なの!!?!???)


あんな怖そうな顔してたのに、いやでも船内はやけに綺麗だったしなんか医療器具っぽいのもあったけど、え、ほんとに医者なの……?

予想外の事実で驚いていたアドだったが、浮かんでいる魚人の向こう、潜水艦の前に現れた軍艦のマストに立つ”黄猿”を見つけた瞬間、そんな思考はすべて放棄された。


​───エースを救えなかった”くい”は、私の心に一生残る。


扉の陰から飛び出す。『カムパネルラ』を黄猿へ向ける。


​───ならば、これ以上”くい”が残らないように。


逸る心臓は、凪いでいく。


​───ルフィは絶対に救うんだ。


音はすべて凪いだまま。

海楼石の弾丸は、”黄猿”の肩を撃ち抜いた。



▫️▫️▫️



「………は?」

「わっ、だ、誰だお前!!?」

「いつの間に潜り込んでたんだ!!?」


気付かぬ間に、肩から血を流しマストから崩れ落ちた”黄猿”を茫然と見ていたローは、船員たちの慌てた声の内容を理解するのに多少の時間がかかった。

振り向くと、ポーラータング号の扉のすぐ側に、険しい顔をした知らない女が1人、片手に銃を構えて立っていた。ゆるく煙の立ち上っている銃口はまっすぐに”黄猿”の立っていたマストの上を指している。

白と青のツートンカラーの髪を揺らして、女はずかずかと潜水艦の先へ歩き始めた。……衣擦れはおろか、足音一つ響かない。ローの隣まで来た女は、何やら口を動かして叫んでいるようだったが、はく、と口が動くだけで音はなにも聞こえない。


その異様な光景に、ペンギンとシャチは戸惑った。彼女は確かに何かを訴えているのに、何も聞こえない。何してるんだこの女、おれたちこれどうすればいいんだ、と助けを求めるように船長を見た二人は、そこでようやく、船長の……ローの様子もおかしいことに気が付いた。

焦燥した顔をしていた。目を見開いて、ありえないとでも言うように、女を見つめていた。船長?とシャチが声を掛けると、ローはハッとして、なんでもない、とだけ呟いた。


「おい、そこの女!」

「ッ!?​───、………​───!!?」

「『音』。消えてるままだぞ」

「!!!​………あー、もう、またやった!!」


ローに声を掛けられエビのように飛び跳ねたアドは、指摘されてようやく自分の声がまったくバギーに届いていないのに気がついた。頭を抱えて天を仰ぎ、そのままバギーを睨みつけ、息を吸う。


「ばぁぁああああぎぃぃいいいいいいさあああああああん!!!!さっさとルフィをこっちに寄越せぇぇぇええええ!!!!!でなきゃ海軍の総戦力がルフィ目掛けて飛んでくるぞ!!!!!!」

「はぁぁああああ!!???」

「さっきだってーーー!!!!私が仕留めてやんなきゃーーー!!!!バギーさん”黄猿”にレーザー撃たれてたんだからねーーー!!!!!!」


​───バギーさん?


ハートの海賊団の面々は一様に首を傾げた。あの赤鼻とどういう繋がりなんだ。てか本当に誰なんだよこいつ。

一方で、自分がどれだけやべぇ奴を抱えていたのかようやく自覚したバギーは慌ててジンベエをポーラータング号へと投げ飛ばした。


「よし分かった!!任せたぞガキ共!!せいぜい頑張りやがれ!!!」

「わっ、ジャンバール!!受け取れ!!」


ジャンバールが抱きとめたジンベエの腕から、ベポがルフィを抱き上げ、潜水艦の中へと担ぎこんだ。出血も傷の状態も酷く、アドはそれを一瞥して悔しさで顔を顰めたが、ふとルフィが”なにも被ってない”ことに気が付いた。

ローは即座に潜水艦の扉へと身を翻した。


「海へ潜るぞ!!」

「あッ、ま、まって!!!」

「はぁ!?」

「ひぃッ顔怖………ッじゃなくて!!!」


腕を掴まれ青筋を立てたローの表情に一瞬怯えたアドは、その感情を振り切るようにマリンフォードの方を指さした。凍った海の岸では、”赤犬”がマグマを湛えルフィを斃さんと潜水艦へと向かっている。


「”帽子”!麦わら帽子、ルフィ持ってなかった!!きっと向こうで落として……!!」

「だからって取りに行けんのか!?”赤犬”はそこまで来てんだ!!ちんたらしてる暇ねぇんだぞ!!」

「それは分かってる!!!でもルフィの”麦わら帽子”は​───ッ!!」




「そこまでだァァ〜〜〜〜!!!!!!」




若い海兵の叫びが、マリンフォードに響き渡った。


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