このあとハートの海賊団に乗る4兄弟√アド3
「……うん、輸血はこれで充分だな。そろそろチューブ抜くぜアドちゃん」
そう言って笑いかけるペンギンに、アドは力無く頷いて応えた。血を抜かれた影響か、じわじわと迫る眠気がアドの瞼を重くした。ゆっくりと目を閉じる。
……。
久々に、アドは幼い頃の夢を見た。
ルフィたちとコルボ山にいたときより、もっと昔の景色。みんなの前で、揺れる船の上で歌を歌っている。とても幸せな気分だった。アドの隣には───。
「………、ぅ……」
意識が浮上する。アドが目を開くと、そこは先程までいた手術室ではなかった。
「……ぇ、どこ………?」
薄い掛け布団の中でもぞもぞと動きながら部屋をぐるりと見渡す。手術室よりも手狭な部屋で、アドが眠っていたベッドは壁際にあった。それと向かい合うように、反対側の壁には本やファイルが並ぶデスクがあり、モフモフの帽子を被った男が椅子に座り、アドを見ていた。
「起きたな」
「…………ほんとにここどこ!!?」
「船長室だ」
飛び起きたアドに、ローは淡々と告げた。
「お前は輸血終了後すぐに眠った。別に採った血の量は瀕死レベルでもないし、俺はあのままでもよかったんだが……女子を固い簡易ベッドなんかで寝かすなってウチの船員がうるさくてな」
「……ええと……なんか……お手数をお掛けしたようで……?」
「全くだ」
ローは眉間に皺を寄せて扉の方を睨んだ。アドも釣られて扉を見ると、ガラス部分から誰かが覗き込んでいるのが見えた。一瞬だったが、アドと目が合ったらしい、人影はさっと消えてしまった。
「……?」
「気にするな。ウチは女の船員が1人しかいねェから、女子が乗船してきたってんで妙に浮ついてるだけだ」
「そ、そうですか……」
「………」
「………」
───沈黙が痛い……!!!
アドは泣きそうだった。
先程まではルフィを救けたい一心でそれどころではなかったが、アドは元々人見知りである。名前こそ新聞や手配書で知ってるとは言え、あまり話したこと無い人と2人っきりという状況はアドにはかなりキツいものがあった。
「……あのこの艦どこに」
「お前、ナギナギの実をどこで見つけた?」
「へ、あッ、……えっ?ナギナギ……?」
「どこでナギナギの実を食べたんだ」
アドの声に被せるようにして質問したローの目は鋭かった。緊迫感さえある表情に、アドは唾の飲み込んだ。
───この人、さっきも”ナギナギ”のこと訊いてたよな。なんでそんな気になるんだろ……。
「……昔住んでた山の裏にあった、大きなゴミ捨て場、です」
「ゴミ捨て場ァ!?」
「ひッ!?ほ、ほんとのことだよ!!」
鬼気迫る顔で睨みつけられ、アドは思わず肩を縮こまらせた。
「辺り一面全部ゴミで埋め尽くされた場所があるんです!私、10年くらい前にルフィとそこで迷子になって、ごはんも食べてなかったからお腹すいちゃって。そしたら腐ってない綺麗な果実みたいなものを見つけたんです。ルフィに見つかったらすぐ横取りされちゃうと思ったから……一気に……ガブッと……」
「……それがナギナギの実だった、と?」
アドは静かに頷いた。ローは長い溜息を吐いて片手で額を押え、ゴミ捨て場かよ……と呟いた。
───そんなところ探せるわけがねェ……!
悔しそうな顔をするローの顔を伺うように首を傾げ、あの、とアドは口を開いた。
「………ところで、この艦ってどこに向かってます?」
「あ?……女ヶ島の湾岸だ」
「にょう……ってそれボア・ハンコックの国じゃん!!!七武海じゃん!!!あの国男子禁制でしょ!!?なんで!!?うちの弟殺す気か!!?」
「そのボア・ハンコックが麦わら屋に惚れてんだよ!!!……だから、特例として匿ってもらうことになった」
数秒の沈黙。
「───はあああああああああ!!???」
アドの絶叫がポーラータング号に響いた。