ここにいるよ

ここにいるよ


※幻覚エフ+タイ

※時系列が謎








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「そろそろ始まるかなあ」


時刻は18時30分。

私とタイちゃんは、夕食もお風呂も早めに済ませ、美浦寮の前で空を見上げていた。冷たい風が頬をくすぐる。ブルっと身を震わせながら肌寒さを感じる時期になったことをぼんやりと実感した。

すっかり日が落ちた時間帯だというのに、周りは美浦寮の生徒たちで賑わっていた。


今日は皆既月食。

数年に一度の貴重な機会。

明るい星しか見えないこの地域で、夜の空をわざわざ見上げるのは随分と久しぶりのことだった。


隣に立っているタイちゃんは、スマホを持ち上げながら「う〜ん、やっぱりぼやけちゃうなぁ」とカメラの設定に苦戦していた。

しばらく画面を操作していたが、シャッター音が2、3度聞こえた後、スマホをズボンのポケットにしまい「スマホで撮るのは難易度高かった」と苦笑。どうやら綺麗に撮るのは諦めたようだ。


2人並んで空を見上げる。

月は一見変わり映えしていないように感じたが、よく見ると下の方が欠け始めていた。

じわじわと闇が月を蝕んでいく様子を私たちは無言で眺める。


静かに存在を消していく秋月。

私はふと、言いようのない不安感に駆られた。


隣に立つタイちゃんの手をギュッと握る。

冷たい夜風に当てられ、2人の指先はすっかりと冷えていた。


普段しない私の突然の行動に、「どうしたの?」と彼女は優しく問いかける。

自分自身、なんでこんなことをしたのか解らなかったので、つい聞こえないふりをしてしまった。


私の思惑に気がついたのか、そうでないのか。

半分ほど月が欠けたところで「…寒いし、もう戻ろっか」とタイちゃんがポツリと呟く。


お互いの手に体温が戻ってきたことに私は少しだけホッとしたのだった。



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