ぐだ×プリヤ組inバカンス その2
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リツカお兄ちゃんが作ったハワイ特異点でバカンス中のクロよ。今日はリツカお兄ちゃんとわたし達の、ある一日を紹介しようと思うわ。
…まあ、八割方食べ歩きみたいになってるけど。でも数日前は昼にアウトドア、夜にゲームで遊び倒した訳だし、一ヶ月もあるならこういう楽しみ方もアリよね?
───
その日のわたし達は、まず手始めにホテル最寄りの回転寿司店に足を運んだ。特異点内で話題になっているらしく、店内は中々盛況だった。
…で、メニューを見てみたのだけど。
・チョコ寿司
・クリーム寿司
・ウィンナー寿司
・エスカルゴ寿司
・ヤケド寿司(上のネタがわさび100%)
・爆弾寿司(上のネタが唐辛子100%)
『『「「「「───」」」」』』
一同、絶句。
だってそうだろう。いかにも回転寿司にありそうな品目(ウィンナー寿司)もあるとはいえ、思いついたものそのまま出しましたみたいな他の品目は流石に駄目でしょ!? ゲテモノじゃない!?
『というかこれ某アニカビのカワサ◯考案創作寿司…』
『姉さん…! それ以上はいけません!』
───
話題のネタを(ヤバそうなのは避けつつ)食べて回転寿司店を後にしたわたし達は、次にハンバーガーショップに赴いた。いや、別にお口直しとかじゃないけど、うん。
「ハンバーガーかぁ……おとーさんこういうのが好きだったよね。多分、ママの料理が色々と凄まじいからその反動で…」
「いや、パパのあれは素で好きなだけじゃない?」
「そういえば、わたしの世界のあの人もジャンクフードを好んでいたような…」
『……。イリヤさん達は元の世界ネタでトークに花を咲かせてますねぇ。ちょっと寂しいんじゃないですか、旦那様?』
「…まあ、少しは。寂しいというよりは、オレの知らないイリヤ達を知ってる人達への嫉妬というか…」
『ふふ、旦那様ったらカワイイ♪』
「うっさい」
『そういうことでしたら、私と姉さんが記録したイリヤ様達の映像データがありますが、ご覧になりますか? 私達姉妹も“長い付き合い”と呼べるようになったのはカルデアに来て以降の話なので、そこまでの量はありませんが』
『え、サファイアちゃん?』
「……。…見たい」
『えー? 旦那様もサファイアちゃんも、たまにわたし以上にアクセル踏み込みますね?』
十数分後…。
『…アメリカンハンバーガーでっかぁ…。まだ残ってるぅー…』
『…苦しい……梅で味変を…』
「ルビーもサファイアも女の子がしちゃいけない顔してるぞ……そうだ、イリヤ達は?」
「「「……」」」
「こっちも撃沈済みか! 仕方ない、残りはオレが食べるから無理しないでくれ!!」
───
…「いくら食べ歩きでもこのペースを維持したら死ぬ、ガッツリ行くのはやめよう」というリツカお兄ちゃんの提案を受け入れ、今度はたこ焼き(ハワイでたこ焼き…?)を買ったわたし達。けれど、ここでたこ焼きを見つめるミユからとんでもない発言が飛び出した。
「たこ焼き……わたしの中では、ボール状のお好み焼きというイメージがある。イリヤ達はどう思う?」
「「ミユ!?」」
「だ、だいぶ違くないか? そりゃたこ入りのお好み焼きもあるっちゃあるけど」
『美遊様。材料が似通っているとはいえ、そういう括りだともんじゃ焼きも同様の括りになってしまいます』
「それは、そうだけど…」
いまいち納得が行っていない顔をしているミユ。案外違いが分からない女なのね、ミユって…。
『「たこ焼きとは地球だ」なんて言い出す某アニメキャラとどちらが困りものかは微妙なところですねぇ、美遊さんの発言は』
───
午後、リツカお兄ちゃんがアイスキャンディーを買ってくれた。今時珍しいダブルソーダバー3つを、イリヤとミユ、ルビーとサファイア、わたしとリツカお兄ちゃんで割って食べた。
のだが、イリヤの舐め方が、どうも…。
「イリヤ、イリヤ」
「? どうしたのクロ?」
「アイスキャンディーの舐め方やらしいわよ」
「え、え?」
「衆人環視の中でそんなことするもんじゃないわ。ほら…」
「「───」」
「ミユとお兄ちゃんが煩悩を抑えてる」
「そ、そんなにやらしかったのわたしの舐め方!?」
『ええ、それはもう♪ 周囲の方々の視線を遮りつつスクショするくらいには♪』
「そ、そんな!? 嘘だって言ってよルビー!」
『…美遊様はイリヤ様のようにはならないでくださいね』
「…衣装センスがえっちなサファイアが言う?」
そんなやり取りもありつつわたし達は街をぶらぶら歩いていた訳だけど、ここで…。
「ごめん、さっきので手持ちが尽きそう」
リツカお兄ちゃんから突然の衝撃発言。当然わたし達は驚いた。
「えー!?」
「一大事じゃない! ここはホテルからも結構離れてるし、徒歩で帰るとしたら走っても軽く一時間はかかるわよ!?」
「…か、神稚児パワーで紙幣偽造くらいなら…!」
『気が動転しているのは分かりますがご自愛ください美遊様』
『ルビーちゃん印の薬を路上販売すれば…』
『姉さんのそれは洒落になりません。巻き添えで全員逮捕もあり得ますからやめてください』
しかし、お兄ちゃんはわたし達の混乱ぶりを見てもどこ吹く風。その理由は当人が語ってくれた。
「いや、今の手持ちが尽きたってだけだから大丈夫だよ。この特異点に限って言えば、オレが管理してる聖杯で直に調達すれば簡単に手に入る。ただそれだと風情がないから…」
『『「「「?」」」』』
「あそこでちょっと稼いでくるよ」
そう言ったリツカお兄ちゃんの視線の先には……明らかにカジノと分かる建物の姿。
「いや金稼ぎにカジノは駄目でしょ!? そこにあるのは欲望という名の魔物だけだから! 約束された勝利はないから!!」
「クロの言う通りだよ!! それリツカお兄ちゃんがカジノ行きたいだけでしょ!?」
「立香お兄ちゃんはわたし達を外で待ちぼうけさせる気なの!?」
「いや違うよ!? ほら、このガイドブックに子供でも楽しめるって書いてあるから良いかなって! 流石に外で待ちぼうけはさせないよ!?」
『なる程、ガイドブックに掲載されるくらいのところなら安心して賭けができると』
『まあ、わたしとサファイアちゃんはアングラな賭博場でもギリギリ行けそうですけど、それだとイリヤさん達がチンピラに絡まれそうですしね』
「そういうこと。さあ、カジノで一山当てて軍資金を10倍くらいにしていこう! 夢は大きく一攫千金だ!」
───結論から言うと、リツカお兄ちゃんのビッグマウスに反して収支はマイナスになった。お兄ちゃんやルビーはそれなりに勝てたけど、他のメンツは勝ち負け半々だったりボロ負けだったり…。
結局わたし達は『聖杯を使って資金を調達する』という、リツカお兄ちゃん曰くの「風情のない」手段を採る羽目になったのだった。
───
そうして最後に訪れたカラオケボックスにて…。
『BUMP OF CHICKENの『カルマ』……クロさん、選曲が重いですね?』
「あら、そういうルビーもCoccoの『やわらかな傷跡』なんて選んでるじゃない。あなた、実は重い女だったり?」
『わたしっていうか、わたしのオリジナルな気がしますけど、まあ旦那様への想いは割と大きいですよ?』
「というか、『ひとつ分の陽だまりにふたつはちょっと入れない』って……これわたしとクロのことだよね? お、重い…!」
「ふふ、ジョークよジョーク、アインツベルン流の。…リツカは“クロエとしてのわたし”のみならず、“イリヤとしてのわたし”すら受け入れてくれた。リツカっていう陽だまりはとっても大きいから、弾き出される心配とかないでしょ?」
「うー、それはそうだけど……やっぱり選曲が重い…」
「あなたね、女の子に重い重いって連呼するんじゃないわよ! そういうイリヤは何選んだの!?」
「え、misonoさんの『VS』だけど」
『…なんだか声ネタの気配を感じますねー』
「え、何? わたしも某ネコミミモードとか歌わなきゃ駄目?」
『美遊様は林明日香の『小さきもの』ですか。良い選曲かと』
「そういうサファイアはSOFT BALLETの『PARADE』……ルビーみたいに時代を感じるチョイスだね。二人はわたし達と出会う前、どこで何をしていたの?」
『何と言われましても、我々は元々魔術礼装ですので。……。…今にして思えば、色恋のひとつもない侘しい日々でした。こう思うのも人型ボディに引っ張られているせいでしょうが、やはり勿体ないとは感じてしまいますね』
「ふぅん…」
『『「「「そういえば、お兄ちゃん(旦那様)はどんな曲を…」」」』』
「オレ? 秦基博の『透明だった世界』」
「え…」
『『「「……」」』』
「…どうしたのイリヤ? 他のみんなも?」
「いや、わたし達坂本真綾さんの『色彩』とか歌うのかと……マシュさんが好きな曲だって言ってたし…」
「ははは。オレも好きな曲ではあるけど、声の高さ的に歌うのはちょっとキツいよ」
「う、うーん……これってつまりマシュさんが『色彩』なのにリツカお兄ちゃんは『透明』ってこと? …なんか複雑…」
「そんな重く考えなくても良いのに。ほら、誰から歌う?」
───
「今日も一日遊んだわねー。ハワイ感はあんまりだったけど」
「はは、確かに」
時刻は夜。キングサイズベッドの上で、わたし除くイリヤ達がむにゃむにゃと眠っている。リツカお兄ちゃんはわたしにも休んでほしそうだったけど、「二人で静かに寄り添いたい日もあるのよ」と強弁して強引に押し切った。
「明日は何して遊ぶ? わたしは今日行けなかったカフェとかに行ってみたいなって思うんだけど」
「良いよ。今日は各地を駆けずり回ったから、明日はゆっくりのんびりしよう」
「ええ」
会話はそこで終わり、後はイリヤ達の寝息などが聞こえるばかりだ。会話がなくとも気まずくならないこの空気感が、わたしは好きだ。
リツカお兄ちゃんの肩に頭を預けながら、物思いに耽る。
───ボロボロの心と身体を引きずって、涙を隠して誰にも讃えられないことを頑張る。…まるっきりハワトリアでのわたしなのだ、リツカお兄ちゃんは。
その彼がハワトリアでのわたしを見て、何を思ったかは当人が証言してくれた。
───やめよう。ふざけてる、こんな話。
…アルキャスさんに言おうとして言えなかった言葉。同類を引き止める言葉。リツカお兄ちゃんはそれをわたしに言ったのだ。相手の意思を尊重できなくなるくらい、彼は同類の末路に絶望していた。
リツカお兄ちゃんの力になると誓ったわたしが、傷になった連中のようにその心を傷つけた。幸せの損得勘定に自分が入っていないことがどれだけ身近な人を傷つけるのか。わたしはあの時、ようやくそれに気づいたのだ。
───わたしはリツカお兄ちゃんが大切だ。共に支えあって、これからも一緒に生きていきたいと心の底から思う。
だから、今回みたいなのはもうやめにしよう。わたしは彼の力になりたいのであって、傷つけたい訳ではないのだから。というか、ブレーキ役がアクセル踏んで自滅とか馬鹿らしすぎて笑えないし。
リツカお兄ちゃんの温もりを感じながら、穏やかな眠りにつく。この時感じたものは、ハワトリアでは最後の一週間以外禄になかった安らぎだった。