ぐだ×プリヤ組inバカンス
※注意※
・ルビーとサファイアは人型ボディ状態です
・クロは外見水着のアーチャー霊基です
・サバフェス2023におけるクロ絡みのネタ各種は一切擦っておりません
・この話のぐだ男はクロを編集地獄に叩き落としてしまったことがトラウマになっております
───
「こんなリゾートを6人で貸し切り!? 良いの!?」
思わずそんな声を上げてしまう。わたし達は今、リツカお兄ちゃんが用意した微小特異点でバカンスを楽しもうとしているところだった。
…お兄ちゃんが特異点を用意。個人的には良い案だと思う。シミュレーターだと再現に限界があるし、他の人の用意した特異点だとハワトリアの時よろしく何かしらトラブルが起きるだろうし。それならいっそ、リツカお兄ちゃんが聖杯で微小特異点を作れば良いというのは理に適っている。
「でも良かったのかな? お兄ちゃんが特異点作るなんて」
「新所長をはじめとして、各方面に許可は取ったから大丈夫。聖杯は手元にあるから、とりあえず特異点を乗っ取られる心配もない……と思いたいな」
ミユの疑問に苦笑するお兄ちゃん。その表情には、これまで散々サーヴァントに振り回されてきた身だからこその苦労が垣間見える。
まあ、余程たちの悪い人でもない限り邪魔しに来る、なんてことはないだろう。真剣な表情で「クロにまともな夏の思い出をくれ」とみんなに頼み込んだお兄ちゃんの顔に泥を塗る人なんて…。
───〜♪
「? これ、着信音?」
「でも、この音は知らない。誰か着信音を変えた?」
ミユと一緒に聞き覚えのない着信音を訝しんでいると、クロがバッグからごそごそとスマホを取り出した。
「…あー、やっぱりわたしのスマホからだわ。仕事用の番号に設定した音だから、イリヤ達が聞き覚えないのも当然ね」
((((小学生から仕事用の番号発言…))))
この時のわたしとミユ、ルビーとサファイアは同じ気持ちだったと思う。
…一同の間に流れる、バカンスには相応しくない微妙な空気。そんな中で真っ先に動いたのがお兄ちゃんだった。クロの手からスマホを荒々しくひったくり…。
「はい立香です、クロの代わりに出ました。仕事用の番号でかけてきたということはつまり、クロに編集作業をしてほしいということで間違いないですね? 答えはノーです。反論は聞きません」
凄まじい勢いで喋りはじめた。
「お、お兄ちゃん…?」
クロがお兄ちゃんに恐怖している。うん、正直当然だと思う。この前のガチお説教時と同じ能面フェイスと、あの時以上に冷たく恐ろしい怒りのオーラ。そんなものを至近距離で浴びたら誰だってビビる。
…ハワトリアの時は、みんなの功罪が入り混じってた。だから『マスターとしてみんなの“不備”を叱責する責務(割と私情込みだったけど)』を果たしたらそれで終われたんだ。というか、TPOを弁えられるレベルの怒りじゃなきゃ「それはそれ、これはこれ」して一週間ハワトリアで遊んだりできないし。
けど今回は、『お兄ちゃんの必死のお願い』と『クロの夏の思い出』、どっちにも泥を塗るような真似をされた。だから、今のお兄ちゃんが抱いているのは責務とかじゃない『本気の怒り』なんだ。
「そもそもオレ言いましたよね? クロの休暇前に『クロにちゃんとした夏の思い出を作ってやりたいから、クロの休暇中は絶対に仕事絡みでかけてこないでほしい』と言いましたよね? みんなの前で土下座してまで頼んだのに、全く響いてなかったんですね。…もう、クロの夏にこれ以上泥を塗らないでくれ。───。───(…アルキャス達でもみんなは止めきれなかったか。帰ったら無茶なお願いした詫びを入れに行こう…)。───はは、クロはおっちょこちょいだなあ。これに懲りたら、休暇の時くらい同人作家の番号はブロックしておこうな? 同人は好きでやってることで商業じゃない、多少は気楽にいかないと!」
「う、うん…」
…お兄ちゃんは相手の反論を一切許さぬまま、有無を言わさずノーを突きつけて通話を切ってしまった。やっぱりお説教時なんて比較にならない怒りだ(あの時は理路整然とものを言っていたし質疑応答だって受け付けていた)。
というか、クロに笑顔でスマホ返す前にしたあの操作って、多分連絡先そのものを消去してるよね? よっぽど頭にきたんだろうなぁ…。
…わたしとミユもお兄ちゃんとこういう関係じゃなかったら、あれを言われる側だったんだろうなぁ…! それは死んでもやだなぁ…!!
「ミユ。わたし、これからは心入れ替えて真面目に頑張るよ」
『イリヤ様? 涙目で突然どうしたのです?』
「同人誌製作のこと言ってるなら、お兄ちゃんが言った通り商業じゃないから義務とかないはずなんだけど…。…でも、そうやって軽く考えたせいでクロが苦しんだんだよね。わたしも反省しなきゃ…」
『イリヤさんも美遊さんも辛気臭い顔するのはそこまでです! 旦那様もそういうのは望みませんよー!?』
───
一方その頃カルデアでは…。
「「「わァ……ァ…」」」
アルキャス「泣いちゃった!」
「「「」」」
モルガン「こちらの一団はショックでフリーズしているな……全く、だから言っただろう! 我が夫の嘆願を無下にはするなと!」
ノクナレア「まあ、良い薬にはなったんじゃない? 創作意欲があるのは良いことだけど、クロエのためにあそこまでしたマスターの面子を潰してまでっていうのはいただけないし。…そもそもあの子、ハワトリアじゃ散々だったじゃない。『できるから』とか『本人の望みだから』で全部片付けるのはいかがなものかしら。…だ・か・ら、そこの懲りてない極一部! もうあっちに連絡とかさせないわよ?」
モルガン「…はあ。事前に交渉し、スピーカー通話にさせたのは正解だったな。一回の通話で『これが愚かな行い』だと全員に理解させることができた。この阿呆共が一人一人個別にコンタクトを試みれば、我が夫が本気で怒り狂うのは確実。汎人類史の映画にあった、ルドヴィコ療法(※)なるものを実行に移しかねん」
アルキャス「いや、リツカがあんな残虐なことする訳…。……。…あるかな? あんなに必死で頼んだのに結果がこれだし、さっきもすっごく怒ってたし。…リツカにそんなことさせるの、やだなぁ…」
※ルドヴィコ療法……『時計じかけのオレンジ』という作品に登場する架空の療法。一種の条件付けor洗脳とされる見解が一般的。ロボトミー手術の近縁種とも。
投薬・拘束・瞼のクリップ留め・目薬の点眼を行いつつ、被験者に忌避させたい事象の映像をひたすら鑑賞させるのが手順。
投薬によって起こる吐き気・嫌悪感と鑑賞中の映像が紐付けられることで、特定の事象に拒絶反応を引き起こすよう暗示をかける。
───
…気を取り直して。ここからは、わたし達の夏の思い出をオムニバス? のような形式で紹介していこうと思う。だって数が多いからね!
「えーでは、夏休みの自由研究としてホムンクルスベビーを飼育してみようと思います!」
「ええー…」
「あの、立香お兄ちゃん。やめた方が良いと思う…」
「ミユと同意見よ、やめときなさいリツカ。これはホムンクルス鋳造に長けたアインツベルン出身者としての忠告よ」
「渾身の冗談が通じないとは…。まあいいか、ほんとに飼育するのはこっちのカブトエビ! 長生きさせれば50日は生きるぞ!」
───
「あ、壊れた。ヘラクレスオオカブト相手に普通の虫取り網は無謀だったかなあ」
「ふふ、じゃあわたしが替わりの出してあげるわ。投影開始(トレース・オン)っと」
「ありがとうクロ、助かったよ!」
「クロの投影って便利だなー。それとエミヤさんの投影って、普通の投影魔術? とは違うんでしょ?」
「ええ、わたしは話に聞いただけだけど、これは固有結界の能力の一部なんですって。でもわたしの心象風景があんな荒野だとは思いたくないわねー」
「心象風景云々はともかく、クロやエミヤさんの投影にわたし達が助けられているのは事実」
「そうそう、オレも缶詰食べる時クロが投影してくれたフォークとスプーンに助けられてさ。あの時はほんと有り難かったよ」
「もう、おだてても何も出ないわよ?」
「本心なんだけどなぁ」
「というか、ここってハワイ再現の特異点よね? なんで南米の熱帯雨林にいるヘラクレスオオカブトがいるのよ?」
「この手の外来種は割とどこにでもいるからなー。案外、イリヤとヘラクレスの縁に引き寄せられたんじゃないか?」
「特異点の主のクセに適当言うわねー。まあ、わたしとイリヤだけオスメス合わせて4匹くらい捕まえてる以上縁があるのは確かみたいだけど。で、そっちはどうなのよ?」
「オレ達? …えーと、ルビーとサファイアはギラファノコギリクワガタとかコーカサスオオカブト、オレと美遊は日本のカブトムシを3匹くらい捕まえたよ」
「ほんと何でもありねここ…」
───
「このヘラクレスオオカブト、羽が青白い?」
「それ激レアの亜種じゃないか!? すごいぞイリヤ!!」
「え、そうなの? えへへ…」
───
『ひまわり畑、ですか。クロさんじゃないですが、この特異点ってほんとなんでもありですねー』
『それだけ旦那様の情熱が注がれている、ということでしょう』
「そう言ってくれると嬉しいな。迷路みたいになってるから、ちょっと行ってみようか」
『はいっ♪ ほら、サファイアちゃんも!』
『ね、姉さん…。…ふふっ』
───
『『「「「「海だーーーッッ!!!」」」」』』
『やはりハワイといえば海! ですよねぇ! 旦那様ったら分かってるぅー!』
「同人誌作りであんまり泳いで無かった分、バンバン遊んじゃおう!!」
「最後の一週間は一応泳げたけど、確かにあれで満足できたとは言い難い。…そもそも、リゾート地で同人誌作ってること自体おかし…」
「はいはいそこまでよミユ。それ以上言うとルルハワでのサバフェスまで否定しなきゃならなくなるから。まあ今年のは忘れてほしいけど」
「クロの言う通りだ! クロ絡みのあれこれは忘れよう! 今はただ夏を楽しめば良い!!」
『では旦那様、私がビーチパラソルを用意しておきますので…』
「何言ってるんだサファイア! きみもこっちで遊ぶんだぞ!!」
『え、ぁっ…! …もう…』
───
「もうちょい右よリツカお兄ちゃん! そうそっち!」
「ああ、行き過ぎだよ立香お兄ちゃん! 少し戻って!」
「な、斜め右上…」
「今のイリヤの声だよな!? 斜め右上って!?」
「いや、その……ルビーがドローンを使って持ち上げてて…!」
『フフフ…』
『姉さん…』
「くそぅ、覚えてろルビーーー!!!」
───
夜…。
「豪華な夕食楽しんで、その後は何でも揃ったホテルの一室で一晩中ゲーム三昧……良いのかなこんな贅沢!?」
「良いよ良いよ、そのための特異点だし。責任が生じても全部オレが取るから思う存分遊んでくれ!」
「でもスマ◯ラとかマ◯カばかりっていうのは流石に飽きるわねー。この特異点他に何のゲーム用意してあるのかしら?」
「そう言うと思って、イリヤと一緒に探してみた。そうしたら…」
「アーマー◯・コアの、4とfA? ガッツリロボットゲーね。ミユの趣味な訳ないし、リツカの趣味かしら?」
「たはは、お恥ずかしながら」
「リツカお兄ちゃん、このゲームやってみて良い? テレビもソフトもちょうど人数分あるし」
「え、良いけど、そのシリーズはどの作品も操作難しいよ? イリヤ達にできるかな?」
数時間後…。
「お兄ちゃん! このゲーム聞き覚えのある声がすごいする! 先せ……ジャガーマンさんとか、エミヤさんとか、メディアさんとか! 果てはママとかミユの声までするぅー!!」
「あー、そう言えば…」
───
「ミユ、そっちのゲームはどう? 進んでる?」
「イリヤ。…終盤には入ったよ。けどこのステージ、即死トラップが多すぎる。トゲだらけにすればいいってものじゃないと思う」
───トゲだらけにすればいいってもんじゃないのにね!
「わたしがやってる方のゲームも同じセリフ言ってるわ。サファイアと同じ蒼い蝶モチーフなお助けキャラが言ってるし、妙なシンクロニシティね?」
───
『いやー、イリヤさん達のゲームプレイを肴にお菓子をつまむ……中々悪くないですねえ』
『今年の夏に私達姉妹が求めていたこと、ひとつクリアできましたね』
『ええ。ほんとはイリヤさん達三人がワチャワチャ同人誌作ってるとこを茶化したかったんですが…。…まあ、このハワイ特異点にハワトリアの禍根を持ち込むのはこの辺りにしておきましょう』
『ですね。これ以上あれこれ掘り返す必要はないでしょう。…美遊様、イリヤ様、クロ様。そろそろご休憩なさっては? そろそろ特異点の調整作業を終えて旦那様が戻ってくる時間ですよ』
───
「今日はいっぱい遊んだねー…」
「…眠い…」
「この分じゃえっちなこととかやる余力はないわね。ミユなんてもう寝落ち寸前だし」
『寝る子は育つと言いますからねぇ。まあ、今はサーヴァントなのでその辺り複雑なんですが』
『ですが、こういう休暇や道楽は精神衛生上重要なものです。こうして人型ボディを得た私や姉さんにとってもそれは同様かと』
「だな。という訳で、今日はしっかり寝て明日に備えよう。オレ達のバカンスはたっぷり一ヶ月あるんだから、やりたいことは焦らずやっていこう。…それじゃあおやすみ、みんな。また明日」
『『「「「…おやすみなさい…」」」』』