くの一告白
「好きでござる。拙者と付き合って欲しいでござる」
差し出した拙者の手に乙夜殿の視線が突き刺さる。やっぱりダメでござろうか。拙者と乙夜殿は中学が同じでござったが、そこまで関わりのない後輩の顔などいちいち覚えてないと思うでござるし。そもそも中学同じってことも認知されてるか微妙でござるな。連絡先がわからず、こうして呼び出して告白なんて古典的な告白方法をとったくらいには高校でも関わりが薄いでござるし。サッカー部は今日休みでござるから、早く帰ってやりたいこともあるでござろう。
「……いえ、急にお呼び出しして悪かったでござる。ご迷惑をおかけしたでござるね。今日のことは忘れて欲しいでござるよ」
「んや、いーよ。付き合お」
「え、本当でござるか!? 無しって言うのは無しでござるよ」
乙夜殿は俺の信用なさすぎじゃね? なんて言って笑って。拙者は緊張からの解放と乙夜殿と付き合えることになった高揚で心臓が大変なことになってるでござるよ。バックバクでござる。乙夜殿は笑った顔がとても可愛いでござる。
「一緒に帰る?あ、部活は?用事あったりする?」
「大丈夫でござる」
「おっけー。嫌なとこあったら言って。直すわ」
そんなそんな。嫌なところなんて見当たらないでござるよ!!
「好きでござる。拙者と付き合って欲しいでござる」
差し出された手を見る。手紙で呼び出しての告白とは随分古風な子だと思ったが。まさか任務で近づく予定だったターゲットの方から告白してくるとは。これは幸運か、それとも乙夜をはめる為の罠か。予定ではもう少し接触を増やして乙夜の方からモーションをかける予定だった。考え込んだ乙夜に彼女は断られると思ったらしい。忘れて欲しいと言って帰ってしまおうとする。乙夜は彼女を呼び止めて言った。
「んや、いーよ。付き合お」
「え、本当でござるか!? 無しって言うのは無しでござるよ」
「俺の信用なさすぎじゃね?」
好きだという割にひどい言い草だ。まあ任務で人の心を弄ぶのよりひどいことはないが。彼女の態度は明るいが、意外と自分に自信はないようだ。この告白も勇気を振り絞って来たのだろう。震える手を握り込んで頬を染める姿は小動物のよう。乙夜は任務以外で遊んでみたかったなと思った。
「一緒に帰る?あ、部活は?用事あったりする?」
「大丈夫でござる」
知っている。それくらいのことは事前調査で把握していた。知らないはずのことを知っていたら不自然だから聞いただけだ。
「おっけー。嫌なとこあったら言って。直すわ」
「そんなそんな。嫌なところなんて見当たらないでござるよ!!」
恋は盲目ってやつだ。できればそれが続いてほしいと、乙夜は思った。