きらめきはまだ終わらない
サニー号はいつも賑やかだ。
待ちに待った島での買い出しの日。留守番役をゾロとチョッパーに任せ、他の船員は何を買いに行くか決める。
サンジは購入する食材にあらかじめ目星をつけ、船長ルフィはというと、肉の事しか頭に無いようだ。
フランキーは工具を買い揃えるらしく、買い物メモには聞きなれない言葉の羅列があった。
「ねぇロビン、私と新しい服を買いに行かない?」
ナミは太陽のような笑みを浮かべる。
彼女は同じ船に乗る仲間であり、初めて出来た年下の友達でもあった。
不思議な事に、ナミと一緒にいると自分も少女に戻ったような気分になる。
もう走ったら飛んだりする歳じゃないのにね、とロビンは苦笑を浮かべる。
「良いわね。一緒に行くわ」
「やった、早く行きましょ!」
大人の女性になりかけたすべやかな手が、ロビンの腕を優しく掴む。
ナミの身体から爽やかな蜜柑が仄かに香るのは、彼女が蜜柑畑の中で育ってきたからに違いない。
今日服を買いたがっているのは、ロビンとナミ、そしてウソップ。
荷物持ちに選ばれなかったサンジは地団駄を踏んで悔しがっていた。その様子がおかしくて、思い出し笑いが込み上げる。
「で、お前らはどの店を見たいんだ?」
「そうね、ウソップも自分の服を選びたいでしょ?私達は大丈夫だから、買い物が終わったら合流しましょ」
「じゃあ、おれは向こうの男物の服を見てくるよ。選び終わったらあそこの…鳥の像の前に集合な」
ウソップは愛嬌たっぷりの笑顔を浮かべて走り去って行く。彼もまた、私たちに負けないほど洒落好きな事を知っている。
何軒か店を回った後、比較的安価で活動的な服を取り扱う店に入る。
その時、ロビンの目にとあるコーナーが写った。
それは上品なアクセサリーが並ぶ棚の、すぐ横。
ガラスで作られた宝石が嵌め込まれたネックレスやリング。どう見ても分かる、子どもの玩具だ。
しかし、ロビンの目にはそれがダイヤの指輪よりも価値あるものに思えた。
欲しい。
心の中で、幼いロビンがそう訴えた。
欲しい、町の子供達が着る可愛らしいワンピース、お洒落な靴、そして、キラキラ輝く偽物のアクセサリー。
欲しい、私が身に付けることの許されなかった品々、いつも黒い地味な服を着て、虐められていた私の密かな憧れ。
はやる鼓動を抑えながら、ロビンは自らの指にリングを通す。
子ども用の指輪はやっぱりロビンには小さくて、小指にだけ辛うじてはまった。
指先に輝く憧れに思わず息を呑んだのも束の間。ロビンは、なんだか自分がとても幼稚な事をしているように思えてきた。
この指輪は、私のものではない。
大人になってしまった私には、この指輪を手に入れる術などない。
嗚呼、遅かったのよ、小さいロビン。
私は大人になりすぎてしまった。
「ロビン〜、良いの見つかった?私にも見せてよ」
後ろから、ナミがひょっこりと顔を出す。
ロビンは思わず赤面した。小指には安っぽいガラスの赤い指輪が輝いている。
「ナ、ナミ…」
「ロビン、もしかしてそれが欲しいの?」
最早ナミの顔を直視できないまま、素直に頷く。
恥ずかしい。
子ども用の玩具を年甲斐も無く欲しがるところを、こんな可愛らしい友達に知られてしまうなんて。
ナミは無言で大量のアクセサリーを手に持った。そして。
「これ、全部下さい!」
「あらお嬢さん、それは玩具だけど良いのかしら?もっとお嬢さんぐらいの年頃の娘さんに似合いそうな品を見繕いましょうか?」
店主がそう言っても、ナミはこれでいいの、と歯を見せて笑った。
「こういうのって、子どもの頃はお金も無いから1つ2つしか買えないのよね。こんなに沢山買えるのは大人だけの特権よ!」
嬉しそうなナミに、ロビンは思わず目を丸くする。
「…でも、子どもっぽいでしょう。私、幼い頃にこれが欲しかったの。買ってもらえなかったから、自分で買い戻そうとしているの、もう大人になってしまったのにね」
ぷつぷつと話しているうちに悲しくなって、ロビンは俯いた。
「なら、好きなだけ買い戻しちゃえば良いわ。ほらほら、せっかく買ったんだから!」
ナミはロビンの首にネックレスを付けながら、自分の頭に小さなティアラを乗せた。
「あら、可愛い」
「でしょ!ほらロビンも!」
子どもに戻ったように、子どもでは買えない量のアクセサリーで互いを飾る。
それは幼少期の思い出とは一味違う、不思議な暖かさと希望で満ちていた。
キラキラのアクセサリーに囲まれた大人のロビンは、子どものロビンに負けないほど幸せそうに笑った。