きずあと
百合でもいいよね短いよ。
ハンコック×クロコダイル
*
情欲に蕩けた夜の海のような瞳が、クロコダイルの顔を見つめる。
クロコダイルはこの顔が嫌いだった。
目の前の女は白い頬を桃色に上気させ、薄く開いた唇から、濡れた赤い舌をちらりと覗かせている。
剥き出しの欲望をたたえた表情までもが、ぞっとするような凄艶さで、腹が立つ。
「きれいよ……」
熱い吐息を漏らして、ハンコックは指をクロコダイルの顔の、横一文字に走る傷跡に這わせながら呟いた。
くだらないことを……とクロコダイルは心の中で毒づく。
「こんな傷の、一体どこが」
「ふふ。気づいておらぬのか。そなたが頬を染めると」
ハンコックの細い指先が、クロコダイルの縫い目のような傷をゆっくりとなぞる。
「きずあとが、桃色になって」
ぞくり、とクロコダイルの背中が粟立つ
「興奮に、充血して、ぷっくりと膨らんで」
クロコダイルの顔が赤らむのを、ハンコックは笑って見ている。
「濡れたように、ひかって」
「っ……!」
敏感になった傷跡に、そっと這う指の感触が快感となってクロコダイルの背筋を這い上がる。
「いやらしくて」
「さわっ、るな……」
顔面を横断した指が、クロコダイルのピアスをしていない耳たぶまでたどり着いた。
熱くなった耳の縁をそっと撫でられ、息が漏れる。
「っ……ぅ……」
「……きれい」
ふふっ。と息を漏らして、ハンコックが首を傾げて微笑んだ。
その顔に、一瞬でも見蕩れてしまう自分にクロコダイルは腹が立った。
この感情を分析して、押さえつけようとしても上手くいかない。
どう足掻いても心を乱してきて、自分の心に余計な言い訳をさせる、この女の顔が、態度が、ひどく嫌いだ。