プッチーと急行

プッチーと急行





僕は今、アマテラス急行に乗ってカナイ区に向かっている。

カナイ区最大の秘密を解き明かしてからはや一年。


マコトから

『統一政府との交渉に付き添ってほしい』

という手紙を貰い、一年ぶりにカナイ区にお呼ばれしたのだ。


「この列車も一年ぶりかぁ…」

2号車の食堂のテーブル席に座り、コーヒーを飲みながら僕は呟く。

「ユーマとプッチーは最初ここで会ったんですよね」

テーブルの向かいの席に座っている背の高い女性がそう言った。


プッチー ラヴミン

一年前のカナイ区で、僕と共にアマテラス社と戦った超探偵。

かつて記憶喪失だった僕に対して、緊張しながらも優しく接してくれた子だ。


「当時は色々ありがとう。記憶のないボクに手取り足取り教えてくれて、とても嬉しかったよ」

目線を斜め上にあげ僕はお礼を言う。

(初めて会った時は同じような高さに視線があったのになぁ…)

一年前、ここアマテラス急行で会った当時の彼女は158cmだったはず

だがここ一年で大きく背が伸び、今や180cmを軽く超えるのだとか。

一方僕の方は、全くと言っていいほど成長してない。

少し悲しくなる


「プッチーはそろそろ自室に戻ります。

ユーマも戻りましょう」

そう提案し、彼女は椅子をしまい立ち上がった。

「そうだね」

僕も同じように立ち上がり、彼女に並ぶ。


(大きいなぁ…)

僕の頭は、もはや彼女の肩にすら届いてない。

アホ毛をがなんとか肩を超え……いやアホ毛すら届いてない気がする。


「…はい」

プッチーはスッと僕に手をだす。

これは手を繋ぐサインだ。


僕は肩まで手を上げ彼女の手を握る。

彼女の大きな手が僕の手を包む。

指の長さは勿論、手の厚みさえ目に見えて違う。


「では行きましょうか」

2人で歩き出し、3号車へと向かう。

足の長さが違うせいで僕は少し駆け足ぎみだ。

引っ張られるようにして僕の自室の前に到着した。


「少しの間とはいえ、ユーマと離れるのは寂しいです」

「…ボクもだよ」

そう言うと彼女は10cmほど顔を下ろし、僕の頭上に待機した。

キスの合図だ。

僕は彼女の服の腰あたりを掴み、精一杯背伸びをして顔を近づける。

勿論届かない


「まだいけそうですが」

恥ずかしがっていることが悟られてる。

僕は仕方なく彼女の首に手を回し、体重をかけた。

なんとか足はついているが、もうほとんどぶら下がってるようなものだ。

恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら待機してると、彼女の顔が降りてきて


ちゅっ


なんとかキスをしてもらえた。

「…じゃあまた後でね」

僕はキスを終えると同時に逃げるように自室に飛び込み鍵を閉める。

心臓がバクバク鳴ってる。

付き合ってから何度かしているとはいえ、未だ慣れない。

壁に寄りかかり呼吸を整えているとコンコン、とドアが鳴る。

「1時間後にプッチーの部屋に来てください」

そう言うとコツコツという足音が聞こえ、部屋から離れていった。

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