お穏やかなローロビ
95静かな波の音を聞きながらゆっくりとページを捲る。
仄かに揺らめくランタンの炎がささやかな影を落とす。
見張りのブルックが奏でる音楽が遠くに聞こえて心地よい。
時計の針は、日付を跨いで深夜3時を差している。
眠気はまだこない。
でもなぜだろう、とても心地よい。
窓からふわりと風が吹き込んで、黒髪がさらさらと踊る。
「私、嬉しいのかしら」
思わず声にしたくなるほどに、私の心は満たされていた。
分厚い本にクローバーの栞を挟んでベッド横の小さなチェストにそっと置く。
手持ち無沙汰になった右手を膝上に寄せる。
「…あたたかい」
当たり前の感想を、つい口に出してしまうほどに気が緩んでいた。
ゆっくりと上下する体。
手首を握ると「とくとくとく」
また風が吹いて黒髪が視線を遮った。
「俺専属のナースに就職する気になったか」
風が止むとニヤリと口元を緩めた顔と目が合った。
「年収と賞与、休日日数と福利厚生によるかしら」
手首を握っていた手をぎゅっと握り返され私も自然と微笑んだ。
ちょうど2時間前、就寝準備をしていた時だった。
ベッドに置いてあるくまの小さなぬいぐるみを一撫で。
さぁベッドに入って寝ようかとした瞬間の出来事。
「あら」
「よう」
さっきまで枕でお座りしていたくまの場所に大きな大人が寝転がっている。
ほんの少し疲れた表情をしている…ように見えた。
「近くに来てたの?」
「色々、だ」
「目の下が黒いわ」
「そりゃいつもだ」
そう言われるとそうだったな、なんて思う程に久しぶりに会ったみたい。
「ちょっと貸せ」
「何を」
「膝」
「取り外したらちゃんと返してくれる?」
「外さなくていいから貸せ」
言うと膝上に頭を乗せて目を瞑り、すぐに寝息が聞こえてきた。
よく見ると怪我はしていないが、闘ったのかもしれない痕がちらほらと。
スヤスヤと眠る姿に思わず目を細めた。
無防備に私の膝に全てを預けているのがなんだかほっとして眠気が飛んでしまったの。
「ねぇどうしてここに?」
いよいよ時計の針が4時を差すころ、瞼が重くなりだして私もベッドに横になる。
「無事に帰ってきたのを愛する人に見せるため」
「あら、ありがとう」
「反応が薄いな」
つまらなそうな顔をしているのは辛うじて判断できた。
「ごめんなさい…もう、眠くて…」
視界がぼやける。
「あぁ次は俺が見守る番だ」
なんだか言われた気がするけれど、言葉として理解が追いつかない。
「でも…貴方も…戻らないと……」
ふわりふわりと頭を撫でられて、ぎゅっと抱き締められて体がふわふわしている。
「何もしないまま戻れるかよ」
もうわからない、ほとんど夢の中。
「オヤスミ」
日が昇る前に私は穏やかな気持ちで眠りにつく。
「寝込み襲ったら…さすがにまずいか」
耳元で囁かれたセリフはもう聞こえなかった。
翌日、起床が遅いロビンを起こしに来たナミが絶叫するまであと5時間。