お祭りのあとで
・DLC前提だけど特に明確なネタバレはないです!キタカミのお祭り行ってきたのをペパーに報告してるアオイちゃんってだけ!
・アオイちゃんの片想い一人称視点でペパーからの感情の方向性については触れていませんがいずれペパアオになる想定です
・元スレで出ているヨクバリス自身の発言をペパアオによる想像上の発言としているのと関西弁いじり?ととられかねない描写がありますのでご注意ください
「ただいまー!」
オモテ祭りを終えて、わたしは公民館の自室に帰ってきた。
ちゃんと個室になっているから誰かが待っているわけではないけど、なんとなく気分的に挨拶をしてしまう。
「シャワー浴びさせてもらわなきゃだけど……その前に」
スマホロトムを立ち上げ、メッセージアプリを開いた。
宛先はペパー。
キタカミへ林間学校へ行くのだと話したときに、課題のおともにするから写真を送ってほしい、と頼まれたのだ。
時差を考えると今は向こうはお昼の時間帯。休みの日だから手持ちのみんなとピクニックでもしてるかな、と考えながら送る写真を吟味する。
初日から送っていたささやかなそれも今日は華やかだ。
おっきなリンゴあめと一緒に写る写真、屋台で買った焼きそばを食べようとする写真、鬼退治フェスの景品としてもらったモチと一緒のドヤ顔写真。
なんだか食べ物ばっかり!でもペパーに送るわけだし間違ってないよね、と自分に言い聞かせて送信を押した。
すぐに返信がきて、しばらく他愛もないやりとりをする。
そうするうちに、「今電話いいか?ビデオ付きで」と突然の申し出が送られてきた。
もちろん歓迎だけど、どうしたんだろう。
ちょっとだけ身だしなみを整えて、変なところがないかささっと確認。うん、大丈夫。
「いいよ!」と返信するとすぐにスマホロトムがロトロトと着信を知らせる。
予想通りピクニックのテーブルに座っているペパーが画面に映った。
『お、そこが公民館の部屋ってやつか?』
「うん!結構新しい施設みたいで快適だよ!」
にっこり笑って手を振るとペパーも笑顔になる。
『じんべえ着てるんだな。髪はどうしたんだ?』
「いいでしょー!こっちでできた友達んちのおじいちゃんにお下がりもらったんだ!髪もその時に結ってもらったの!」
『オマエほんと友達(ダチ)作るの速ぇーな。髪も格好も祭りって感じでいいな!似合ってるぜ!』
「褒めても何も出ないよ?」
『お土産期待してるぞ、ってことだ!』
けらけらと笑うペパーの後ろから、なんだかドタドタと賑やかな音がする。
「どうかしたの?」
『ああ、そうだ。ビデオにしてもらったのはその件でな。見ろよこの困ったちゃんを』
インカメラがアウトカメラに切り替わり、映し出されたのは……ペパーのヨクバリス?ペパーが敷いたらしいレジャーシートの上でバタついている。
『オマエからの写真を見てたら寄ってきたから一緒に見てたんだよ。メシの画像が多かったから羨ましいちゃんなのかもな。あとオレにちょくちょく縋り付いてくるからたぶん一緒につれてけって言ってる』
じたばたと駄々をこねる子供みたいでちょっとかわいい。
困ったように言うペパーの声音もなんだか優しくて、1台のスマホロトムを覗き込みながら写真を見せてあげていたであろう光景に思いを馳せてみる。
もちもちと擬音が聞こえてきそうなふっくらとしたヨクバリスの姿に、わたしは一つ思いついたことを実行してみることにした。
「……いーやーやー」
思いきり声を作ってのアテレコ。電話口からぶふっと吹き出す音が聞こえた。
『いや、オマ、なんだその話し方』
「キタカミのおもち買うてーやー」
ジョウト訛り、ヨクバリスによく似合うといっつも思ってたんだよね。やっぱりぴったりな気がする。
「りんご飴も買うてーやー」
電話口から笑い声が聞こえてくる。
『じゃオレもちょっとやってみるか。……コホン、焼きそばめっちゃうまそーやねんけどー……合ってるか?』
「たぶん合ってる!」
ぱたぱたと暴れていたヨクバリスが何かの気配を察知したのか起き上がってキョロキョロし始めた。そしてカメラの方へずいずいと近寄ってくる。
「なーペパーはん林間学校連れてってーやー」
『だはは!言ってそー!』
ひとしきり二人で笑い転げて、一息ついて、ちょっとだけ静かな瞬間が訪れる。
わたしは少しだけ勇気を振り絞って、次の一言を続けた。
「ね。向こうの友達と行くオモテ祭り、すっごく楽しかったよ。……今度はペパーとも一緒に回りたいな?……その、お揃いのじんべえとか着て、さ」
自分の声がだんだん小さくなるのがわかる。ああ、これは親友の範囲を越えているだろうか。
画面にはペパーの顔は映っていない。インカメラにしていてくれればどんな表情をしているのかわかったのに。
ヨクバリスが一声鳴いてペパーの袖を引っ張るのが映る。
「ね、ほらヨクバリスも行きたいって!」
ごめんなさいヨクバリス、あなたのご飯への情熱を利用させてもらってます。内心で謝るわたしに、少しの間黙っていたペパーの明るい返事が届いた。
『林間学校はくじ引きだって忘れたちゃんか?ま、いいぜ。オマエ行くってなったら諦めないもんな!』
親友、親友として変だとは思われなかったみたい!よかったぁ。
「やった!じゃあ楽しみにしてるね!」
わたしの緊張でバクバクと跳ねる心臓なんて知りもしない様子で、ペパーの声は続く。
『お下がりって話ならオレはじんべえを自前で用意しなきゃだよな?どっかに売ってんのかね』
「あ、それなら生地用意すればスター団の友達がやってくれるって」
『手回しが良すぎるだろ!やっぱりオレを引きずってでも行く気マンマンちゃんだったな!』
やれやれとでも言いたげなペパーの声が嬉しそうに聞こえるのは、わたしの思い込みじゃありませんように。
もう少しだけ、あと少しだけ。軽い気持ちで始めた通話をどうしても切り難くて、結局わたしたちがおやすみを告げたのはしばらく後になってからなのだった。