お揃い
「手間をかけるが、いいか?」
「ええもちろんです。私も楽しみです。」
六車からの頼み事に歌匡は笑って快く引き受けた。
「かきょうおねぇちゃ、なにしてるの?」
「うん?衣を縫っているのよ。お膝にいるのはいいけれど危ないから手やお顔は出さないでね修ちゃん」「ぁい。」
「良い子ね」
歌匡は修兵の頭をかるく撫でて作業を再開した。
今日は歌匡は非番の日で、六車宅で修兵と一緒にいてくれるのだ。
「修ちゃん、ちょっとバンザイしてくれる?」
「??」
「お願い。できるかな?」
「うん、できる!」
「――――どうぞ。サイズは大丈夫だと思いますが必要ならまた手直ししますから」
「悪いな。手間をかけさせた」
「いいえ、大人用とは違ってさほどの大きさはありませんからそれほど手間はありませんでした。要も私も、修ちゃんのことはとっても可愛いので、喜んでもらえたら嬉しいです」
気まぐれというと語弊はあるが己の一存で拾い上げた子は、悪意にもさらされているが同時に多くの者から愛してもらえるようになったことが六車はこの上なく嬉しく思った。
「修兵」
「はぁい!なぁにけんせー!」
まろぶように飛び込んできた小さな身体を受け止めて六車も笑う
こうやって、呼んだ時や、呼ばなくても修兵の方から飛び込んで来られるようになったのはつい最近で、幸せに不慣れだった子がようやくそれに慣れつつあるのだと大人達に実感させてくれる。
それがまた大人達をも幸せにして循環している。こんなにも穏やかな、砂糖菓子のように甘い日常を己が手にするとは、修兵に出逢うまで六車自身考えもしなかったが今はもうこの子が愛しくてしかたない。
「いい子にしてたか?」
「ん、きょうはおうちにひとりだったけど、なかないであそんでたよ!」
「そうか、いい子だ。実はお前にやりたいモンがあってな。これだ。」
「?、これなぁ…、に」
言葉の途中で気がついたのか、修兵は小さな口をポカンと開けて、目を真ん丸にした。
思わずくすりと笑い、マシュマロのような軟らかな頬を突くが、本人は驚いてそれどころではないのか、抗議の声は上がらない。
小さな頭はキャロキョロと動き、拳西に見せられたモノと壁にかかっているモノとを見比べている。
「わかるか?お揃いだ」
「おそろい……。けんせーと、いっしょ?」
「そうだ。欲しかったんだろ?」
「けんせぇと、いっしょ…っ!いいの?」
「次に歌匡に会った時に、ちゃんとありがとう言えるか?」
「かきょうおねえちゃん?」
「そうだ。流石に俺は縫い物はできないからな。これは歌匡が作ってくれた」
「うん、ちゃんとありがとういう!」
いい子だ、と褒めてやりながら、拳西は修兵にそれを着せてやった。
歌匡が作ってくれたのは、修兵用の隊長羽織だ。
修兵は一応ある程度の時間一人でいても泣くことはなくなったが、やはりまだ、長い時間になると不安定になることもある。
そういう時は拳西は、白羽織を修兵にあずけて持たせてやることで泣かないように工夫している。もちろんこれからも白羽織を預けることはしばらく続けるつもりだが、とても大事そうに白羽織を握りしめる修兵を見ていて、揃いのものをやったらいいんじゃないかと思うようになった。
修兵は少しずつ甘えることができるようになったとはいえ、まだまだ自分のためにあれが欲しいこれが欲しいと積極的に強請れるわけでは無い。
それにプロの仕立て屋に頼むにも抵抗があった。白羽織というのは瀞霊廷において『特別』であることの象徴でもある。
そんなものを子供一人のために真似て作れといえば、普段はあからさまに不快感を出さない店主であろうとごねられる可能性があった。それが修兵の耳に入って悲しい顔をさせれば本末転倒である。
そこで東仙が歌匡にそれとなく訊いてくれて、今回修兵を喜ばせることができたのだ。
「いっしょ、いっしょ!けんせーとしゅう、いっしょだよ!」
これまでで一番かもしれないキラキラした笑顔でお揃いを喜んでいる姿に、テンション上がってて今夜は寝付くの遅いかもな…なんて思うが、それも全然嫌な気持ちではない。
「そうだな。一緒だ。俺も嬉しい。でも、見ての通り袖がないから、寒い時はちゃんと別の羽織を着るんだぞ?これは温かい部屋で遊ぶ時用だからな」
元気で居るために約束な?と言葉を添えると、膝から降りてくるくる回っていた修兵は、わかった!ともう一度飛びついてきた―――。