お姫様
「准将。大佐が倒した海賊達の捕縛が完了しました。逃げた海賊達の追撃はどうしましょう。」
「ありがとう。追撃は良いかな。どうせルフィが追ってるだろうし、2、3人捕縛係を付ければ大丈夫だよ。みんなも警戒は解かずにね。」
「了解です!」
ウタは軍艦の上で油断なく構えながら部下達に指示を出す。現在彼女達は補給に寄った島で海賊達による襲撃を受けていた。“いた”である。襲撃に来た海賊達はウタと一緒にいたルフィにあっという間にのされ、残った海賊は現在ルフィが追撃中である。それも時期に終わるだろう。
ならば何故警戒してるのかと言えばその答えは簡単だった。
「准将!北から来ます!巨人族です!」
見張り役からの声と同時に軍艦が大きく揺れる。ウタはその耳で即座に状況を判断する。丘から目立つ巨人族が陽動をかけ本面は水中から迫る魚人族。どうやら複数の海賊団が手を組んでるようだった。
「“歌姫”だな?悪いがおれ達と一緒に来てもらおうか?おっと、抵抗するなよ?傷が付くと価値が下がるんだ。」
混乱に乗じ近付いて来た巨人族の海賊が話す。ウタは瞬時に頭の中にある懸賞金リストをめくり、彼が億越えをしてない事を認識する。
偶に居るのだ。力の差を理解出来ず、ウタをルフィという王子様に守られたお姫様であると勘違いする輩が。ルフィを引き剥がしさえすれば簡単に攫えると勘違いしたバカ達が。この部隊はそんな事を沢山経験している。海兵達は素早く隊列を組み戦える状況を整える。
「そう。好きにすれば?」
そう答えるウタの反応を、巨人族の男は強がりだと判断した。汚い手がウタに伸びるが海兵達は動かない。それに対して海賊達は怖気付いてると思い薄ら笑いを浮かべていた。
「ちょうどこのくらいが蹴りやすいんだよね。」
だからこそ、誰も認識出来なかった。彼らが見たのはウタが巨人族の海賊を蹴り倒しているという結果だけである。ウタの鋭い蹴りが顔面にささった巨人族の海賊は後ろに倒れ、起き上がる事は無い。
「うん。結構良い武器使ってるじゃん。じゃあちょっと借りるね。」
呆然としてる海賊達を無視し、ウタは巨人族の海賊が持っていた剣を手にする。自身が握り易いように持ち手の部分を細くし、両手で軽々と振り上げるとそのまま肩に構える。元々巨人族サイズの剣はウタが持つと最早グレートソードとでも言える武器に様相を変える。
「はぁぁぁっ!!」
気合いの入った声と共にグレートソードが振るわれる。巨人族のサイズで作られた剣は人間相手にはその鋭さを発揮せずに鈍器のようなダメージを海賊達に与える。冷静さを欠いた海賊達にウタのグレートソードを止める術は無く、なすがままに蹂躙されていく。
結局、向かってくる海賊達を全て蹴散らした後にグレートソードを地面に置き手をはたく。向かって来た海賊は全員部下によって捕縛されており、逃げた海賊の追撃に向かったルフィも帰ってきて捕縛作業を手伝って居た。
「そんな気はしてたけどやっぱり手応え無かったなぁ。」
「ウタ!終わったか?」
最近業務が立て込んでおり日頃のストレスが溜まっていたウタはその呆気なさに少しガッカリしていた。そんな所に後ろからルフィが抱きついてくる。
「うん。予想はしてたけど、やっぱりこの程度だったね。」
「つえー奴らはもっと周到にやって来るからなぁ。」
肩から顔を出すルフィの顔を撫でながらウタは愚痴を溢す。ルフィもウタの愚痴を聞きながらなすがままにされてる。
「よし!ウタ。膝枕してやる!こい!」
「ありがとう。流石に巨人族の剣を振り回すのはちょっと疲れたから休ませて貰うね。」
疲れが溜まっていたのかウタは抵抗する事無くルフィにもたれかかって来る。ルフィはそれを優しく受け止めると、お姫様抱っこで甲板まで運び、そこに膝枕でウタを寝かせる。
「悪いなお前ら。ウタは疲れてるんだ。ちょっと休ませてやってくれ。」
「了解です。大佐。」
「なんなら部屋まで連れて行ったらどうですか?ベッドの方が休めるでしょう。」
2人に気を使う海兵達はウタの部屋までの道を開けるが、ルフィはそれを笑顔で首を振って拒否する。
「気にすんな。寝入ってるウタを起こすのも気が引ける。何より、ここは太陽の日差しが心地いいし良い風が吹く。」
珍しくロマンティックな理由を話す上官を、海兵達は作業しながらも笑顔で眺めていた。