おでぶダイヤとビキニ
【以下トレウマ注意】
久しぶりに取れた休日を利用して、俺は元担当と南国の無人島まで来ていた。無人島といっても、ここはサトノグループのプライベートビーチ。木々はよく手入れがされ、白い浜辺と吸い込まれそうな青い海が眩しい。二人の他には、誰もいない。寄せては返す波の音が、周りの静かさをむしろ引き立てていた。
「…ど、どうですか?」
元担当のサトノダイヤモンドが、新しくおろしたというビキニを着てセクシーポーズをとる。勝負服を想起させるオリーブ色をベースに、彼女の大好きなフリルのレースをふんだんにあしらったデザインだ。散りばめた金のダイヤの意匠が時折、キラッと光る。ゴージャスだが、厭味はない。彼女らしい、上品でフェミニンな水着だった。
「うん、可愛いよ。ダイヤも、そのフリフリのビキニも」
「もうっ♡こんなおでぶの豚になっても可愛いって言ってくれるの、トレーナーさんぐらいなんですからねっ」
「本当だって。ダイヤは可愛い豚さんだな」
「ぷんぷん!女子に向かって、もう怒りましたから!ぶーぶー、ぶひぶひっ♡」
軽口を叩く俺と、ほっぺたをぷくーっと膨らますダイヤ。だが、彼女が自分を豚と自嘲したのは強ちおかしいとも言えない。俺の方はそこまで体型は変わってない(つもりだ)が、ダイヤは引退から数年経ち、気が緩んだのか、見る間にぶくぶくと太った。誰の目にも明らかとか、そういうレベルではない。150kgを優に超すバ体には全身余す所なく贅肉が育ち、華奢だった現役時のシルエットは何処に求めようもない。ただ、はしばみ色の瞳と豊かな髪、ダイヤ形の流星…そして、あどけない笑顔と鈴のような声。それが彼女を認めるアイデンティティだった。
体型の影響は今着ているビキニにも当然現れている。トップスの細い紐は今にも柔らかいお肉に侵略されそうだ。ボトムスに至っては、垂れ下がった腹肉が邪魔して紐が完全に隠れてしまっている。本当はそこにもフリルがあしらわれてるそうなのだが…
「うーん、生憎見えないなぁ」
「こうやってお腹を持ち上げたら…よいしょっ、ほらちゃんとありますでしょ」
「おお、本当だ。にしても細かいデザインだな…やっぱり特注したのか?」
「はいっ、勝負服の仕立て屋さんに頼んで作ってもらいました。大きなブラや水着って、市販品はあんまり可愛いデザインが無くって」
「ああー聞いたことある、大きな花柄とかばっかなんだよな」
誰もいない砂浜をさくさくと踏みながら、肩を並べて歩く。細く長い髪が海風を孕めば、その一本一本が太陽に煌めいて反射する。白い肌と桜色に染まる頬。談笑しながらころころと笑うダイヤは、ぶくぶく太っても昔と変わらない愛らしい少女で。
「綺麗だな」
思わず口をついて出る、素直な褒め言葉。
「?」
小首を傾げるダイヤ。こちらを見つめるどんぐり眼が堪らなく愛おしい。
「なんでも。今日は楽しもうな」
「はいっ、もちろん!トレーナーさんもサトノのビーチ、満喫していって下さいね!」
気付けばどちらからともなく、ダイヤと手を繋いでいた。ぷっくりした掌はしっかりと俺を掴んで離さない。二人だけの一日はまだ、始まったばかりだった。