おじさんが堕ちる

おじさんが堕ちる


 私が珍しく電車に乗ったのは、普段と違う場所でアミューズ・ブーシュを調達しようと思ったからだ。ご当地グルメと言ってしまえば平凡だが、風土の違いは侮れない。所変われば品変わる──人の感情でも変わりないのだ。

 スペシャリテは可愛いあの子と決まっている。アミューズを疎かにするつもりはないけれど、今日は適当な人間から軽く頂戴して去るつもりだった。

 すれ違ったあの男と目を合わせてしまったのが間違いだった!

 

「あ゛ァ、う、やめ、たまえよォ……ッ♡」

 あれよあれよという間にホテルへ連れ込まれ、せっかくめかし込んだダブルスーツも剥ぎ取られた。私はとうに人間を捨てた身だ。そこいらの輩に負けるはずがないのに、なぜか彼には逆らえない。脳を直接グリエされてるみたいに、どこもかしこもぐらぐらと熱くて、彼の手に身を委ねてしまいたくなる。

 抱かれるんじゃなかったのだけが救いかな。言葉で表すなら騎乗位だっけ? 男の胎内にすっかり収まってしまった私のモノは、焦れったいくらいにそのままだ。

 もうちょっと締め付けてくれればと思ってしまうのも、きっと彼の策略通り。

「私を満たせるか……?」

「はは……言ってくれるねぇ……」

 そりゃ、私だって若い頃は浮き名を流したさ。男も女も望まなくたって寄ってきた。満たされることは無かったけれど。

 でも感情の食べ方を覚えてから、セックスは手段になった。相手を砕いて感情を引き摺り出すための一工程に過ぎない。だから快楽なんて二の次だ。メモリの挿しすぎで体が壊れ、一部は怪人状態から戻らなくなっちゃったという理由もある。

 だからこういうのは……真珠埋め込んだみたいに凸凹で、我ながらこれは無いなと思うペニスを九割がた呑み込まれるなんてのは、その……数年ぶりなわけで……。

「ふ……あ……♡♡」

 歯を食いしばって耐えるけど限界は近い。私はもうすぐ堕ちる。これまで何人も堕としてきたからわかる。

 最後のチャンスだ、とこの先への僅かな期待を振り切り、男へ狙いを定めた。

 感情を凝縮したメモリ、私の大事な食事が徐々に形成されていく。常人なら気絶は免れない量を一気に抽出しているが、男の表情は変わらない。せめて一瞬でも虚脱状態になってくれれば逃げられ


「何をしている」


 凄まじい力で腕を掴まれた。

「説明しろ」

 同時に、中をこれでもかと締め上げられて、私の喉からは「お゛お゛お⁉︎♡♡」と情けない声が出た。

「……逃げようとしたのか? 答えろ」

「ひぃい゛っ♡もうしない♡♡しな゛い゛からァあ゛あ゛あ゛♡♡♡」

 グボッ、と人体から鳴っちゃダメな音が、男のナカから響いた。すごく狭いところを抜けたようだ。敏感な先端をぎゅうぎゅう締められて、全部が気持ちよくて、男の視線に晒されるだけで神経が焦がされていく。

 そこから先は、立ち上る快楽の芳香でむせ返って、よく覚えていない。

 


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