えつらんちゅうい
かものりとし細くしなやかな肢体が、僕の上で貪欲に跳ね上がっては沈み込む。
蠱惑的な笑みと共にこちらを見下ろす双眸は、ただ狂おしいばかりの悦楽に潤んでいる。
「憂太、憂太」
白磁の肌に淫蕩な汗を滲ませて、彼女が一心不乱に僕の名を呼ぶ。
彼女──祈本里香が。
同じ年頃まで生きていればそう成熟したであろう大人の姿で。
これは夢だ。
間違いなく彼女はあの日に旅立った。
僕の呪縛から解放されて。
これは夢だ。
そうでなければ幻だろう。
彼女がここにいるはずがない。
それどころか──こんな。
「ダメだよ憂太」
彼女が甘く囁いた。
「集中して」
その声はひどく艶やかで、歪んだ倒錯が耳から首筋、そして背中へと伝播していく。
「里香、ちゃん……っこれは」
「今は里香のことだけ考えて」
そう言うと僕に跨ったまま、固く尖った欲望を再び貪り始めた。
「り、里香ちゃん!待って……!」
「ふっ、ん……あぅ……!あんッ!」
吐息混じりの嬌声と律動的な水音が鼓膜を打つ。
彼女が身体を弾ませるたびに、痺れるような快楽が腰から脳へと駆け上がる。
身体の芯を貫く甘い痺れによって一層鋭敏になった五感は、夢見心地とは程遠い。
これはどういうことだろうか。
夢でも幻でも無いのだとしたら、これは一体。
「憂太……っ!憂太ぁっ!」
喜悦の声を1オクターブ跳ね上げて、なおも僕の名を叫び続ける里香。
この不条理な痴態が夢幻ではないというのだろうか。
「ひゃんっ!あは……っ!ゆう、たぁ……!」
彼女の存在を確かめるべく、縋るように左手を差し出した。
上下動によってしなやかに揺れていた豊かな黒髪が、はらりとこの手に触れる。
里香は一瞬きょとんとした表情を浮かべると、すぐに悪戯な笑みを形作った。
僕の伸ばした左手をそっと掴み取り、自身の口元へと運ぶ。
「えっ、ちょ……里香ちゃ」
「あむっ」
くちゅっという湿った触感と同時に、ぞくりとした何かが指先から身体中を駆け巡る。
里香が薬指に舌を這わせていた。
擽るように舌先で撫でたり、口唇できつく吸い上げたり、時折甘噛みをしたり。心底から愛しいものを扱うように丹念に弄ぶ。
彼女の咥内を侵犯している背徳感と、指先を伝う吐息の熱。そして下腹を襲い続ける快楽の波が、これ以上なく脳内をかき乱す。
そのまま里香が指を口に含みながら、形を成していない言葉を発した。
混濁する頭でなんとか音と音を繋ぎ合わせて、その意味を反芻する。
『ゆめじゃないでしょ?』
ああ──そんな。
そんなはずはないのに。
そんなことがあってはならないのに。
理性が薄まっていくと同時に焼け付くような多幸感が全身を循環する。
里香は確かに存在している。
信じるべきは理性が紡ぎ出す疑問の波ではなく、今ここで僕と繋がっている彼女。
蕩けて身体の境界がわからなくなるほどの熱に浮かされながら、ようやく僕は能動的に腰を突き上げた。
「ひゃうッ!?んっ……ふぁあ……!!」
唐突な刺激に襲われた里香が反り返るように痙攣する。
ああ、乱れていても綺麗だ。とても。
「ゆうたぁ……っ!!んあ、うぅ……っ!!」
喉奥から搾り出したような掠れ声で、やはり僕の名前を呼んでくれる里香。
突き上げる腰の動きが激しさを増していく。もはや自分を制御することができなくなっていた。
「ふぁ!?あっ、あっ!あうぅっ!!ゆう……たぁ……っ!!」
咽び泣くような彼女の嬌声を聞きながら、僕に残った一抹の理性が警鐘を鳴らす。
──このままでは不味い。
五感が宙に浮くような快楽の中、どうにか制止の言葉を絞り出す。
「里香……ちゃん……ちょっと」
「…………ダメ」
僕の意図を察した彼女がキッパリと言い放った。
『ダメ』って。それは、つまり。
「このまま」
ぜいぜいと呼吸を荒げながらゆっくりと彼女が告げる。
「ぜんぶ……ちょうだい」
「りか、ちゃ」
「ぜんぶだよ ゆうた」
その言葉を最後に、一欠片残っていた理性の残滓すら消えていく。
沈んでいく。
茫漠とした快楽の海に。
もはや抗う気はなかった。
どれだけ深く暗い海の底でも、彼女と一緒なのだから。
…
…
チュンチュン……
乙骨「…………」
乙骨(やっぱり夢じゃないか……!!!)
乙骨「クソオオオオオオオオオオ!!!!」
乙骨(最低だ……僕って……)
リカ「ゆうた」
乙骨「ああごめんリカちゃん……うるさかったよね……」
里カ「変な夢見せてごめんね。その……えっと……」
乙骨「へっ?」
里香「きもちよかった……よ……?」
乙骨「り、」
乙骨「里香ちゃん!!?!!」
リカ「ゆうたぁ、どうしたのぉ?」
乙骨「………………」
リカ「ゆうたぁ?」キョトン
乙骨「……なんでもないよ、リカちゃん」
乙骨「さぁ行こうか!」
リカ「うん!」
乙骨(…………ありがとう、里香ちゃん)