いつも通りの夜

いつも通りの夜


注意

・マーリン×ネームレス夢主

・R18(G)、残酷描写あり

・本番描写、屍…設定

・何でも許せる方向け


設定

・夢主:マーリンのマスター兼恋人。今作では死んでる。

・マーリン:夢魔成分多め。本当にごめん。







茹るような熱とむせかえるほどに強い花の芳香が寝室を満たしていた。シェードランプの柔い光が二つの影を作っている。一つは、横たわったままピクリとも動かない。それに覆い被さるもう一つの影が、億劫そうに上体を起こした。一糸纏わぬ肢体を、豊かな白銀の髪が隠す。

薄紫の瞳に、恋慕うマスターの屍を映して、半妖の夢魔は思う。──またか。

この夢魔ことマーリンは本来ならサーヴァントの立場になれない存在だが、奇妙な縁はそんな決まりを覆してしまった。加えて特定の人間に入れ込むことはないという性質すらも覆し、彼は恋に堕ちた。マスターもまた、マーリンを愛した。そのマスターと言うのが、たった今亡骸と化した人間である。

恋愛に立場など関係ないなんて綺麗事を言ったところで、この主従は人間と夢魔であり、只人と上位種であり、若輩と老輩であり……あらゆる要素が力量差を示している。この人間がマーリンに勝っているところなど、それこそマスターであるという事実しかないのだが、それすら無意味である。マーリンはマスター無くとも自在に動けてしまうのだから。立場以前に生物としての格が違い、弱者側には明確に手綱を握る方法もない。

マーリンからすれば、恋人と過ごす夜に昂っただけ。だがその昂りは、只人を殺すのに十分すぎる威力を持っていた。元々この手の行為に特化した存在に、少しでも理性を無くされれば、それに相対する人間の末路など分かりきったことでしかない。

初めのうちはマーリンも、人間のあまりの脆さに狼狽え、愛する存在を殺めたことに動揺していた。だが何にでも慣れは出てくるもので、呪文をよく噛む彼も、今や蘇生呪文だけはいとも容易く詠唱することができる。この域に達するまで、事実彼らは何度も似た夜を繰り返していた。

ちなみに人間側には何の自覚もない。蘇生された後は、少し意識が飛んでいたと思うくらいで、まさか自分が死んでいるとは夢にも思っていない。

だから生き返らせる前に、いつもとは違うことをしてみたいという欲求が夢魔の中に生まれてしまうのも、仕方のないことだった。

未だ繋がったままのもので奥を突く。熱も力もまだ確かにあり、緩慢な動きに合わせて締めつける。声や表情を愉しめないのは残念だが、代わりにいつもは味わえない快楽が奔る。今だけは相手に合わせる必要もなく、自身の欲を発散することに専念できる。だって死なせてしまったのだから。それに気づいてしまったら、もう欲求に歯止めをかけるという発想すら霧散した。

抉るように腰を打ちつける。嬌声の無い分、水音が余計に響いて鼓膜を震わした。

「ふ、ふぅっ……はあ、ああ……」

相手への気遣いが皆無の、ただ自分の快楽を追い求めるだけの動きは、夢魔にとっても至上のものらしい。思わず声が漏れていた。自身の声がトリガーとなり、快楽はますます強まっていく。強まる快楽が腰の動きを激しくさせ、尚更良くなっていく。完全に陥っていた。それでも良かった。

「……好き、好きなんだ、マイ、ロード……」

かつては何を意味するかも知らなかった単語を、譫言のように呟く。内から溢れるこれこそが愛というもの、人が人に向ける感情の真髄なのだと思う。ボクはようやく人に成れた。そう思い至ったマーリンは、多幸感に満ち満ちた表情をしている。彼の目は柔らかな光を湛えて、愛おしげに屍を見つめていた。

力の抜けきった身体は支えるのに少々手間が掛かる。それでも起こそうとすれば起き、寝かせれば寝てくれる。普段は気恥ずかしいと逆らってばかりのマスターが、今は自分の意のままに在る。己がまた昂るのをマーリンは如実に感じ取っていた。どれだけ貪ろうと貫こうと収まる気がしなかった。

「……あ、あっ、……っ!」

自身の喉から、演技ではない嬌声が出ていることに驚いている余裕すら既に失われていた。されるがままにされている屍からもまた、熱や力は失われていく。抱き寄せた身躯は冷え始め、絡ませた指は固まりつつある。愉しい時間の終わりを感じさせる変化だった。それを惜しいと思う悍ましい執心が、尚も彼の動きを強めさせた。

「ん……っ、くっ、あ、……〜〜〜っ!」

折ってしまうのではと思うくらいに強く、主の手を握りしめていたのと、その体内に欲を吐き出していたのが同時だった。凝り固まっていた身からどっと力が抜け、マーリンはそのままベッドに倒れ込んだ。ぼんやりとした頭では何も考えられず、ただ本能的に屍を抱き寄せた。熱に満ちた身体に、ひんやりした冷気が有難い。

「……キミを、愛している」

言い訳のように紡がれた言葉の真相は、おそらく本人にも分かっていない。

しばし余韻に浸った後、歌を口遊むように呪文を詠唱する。冷えた屍に熱が戻り、息遣いが聞こえ、心臓はちゃんと動き出した。朝が来れば……もしかしたら昼過ぎになるかもしれないけれど、マスターは起きてくる。おはようと挨拶をして、夜伽の記憶が途切れていることを謝ってくるだろう。容易く想像できるほどに慣れた日常。何度も繰り返した一日がまた始まる。

「食事でも用意したら、喜んでくれるかな」

食卓に並ぶ料理を見て、弾むように笑うマスターの表情が、マーリンの脳裏には既に浮かんでいた。ほんの数時間後にはその顔を目の当たりにできる。そうした期待が彼の胸に満ちて、心を躍らせた。

夢魔は罪悪感など覚えない。


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